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1-1 始まりの日

 空から降る白い雪が肩へと降り積もっていく。それを鬱陶しく感じ振り払うが無駄な事だ。また少ししたら同じように積もっていくだろう。それがわかっていながらもラクード・ウルファースはその場から動こうとしなかった。

 引き締まった筋肉と高い身長。黒く伸ばしっぱなしの髪は毛先がバラついておりボサボサであるが不思議と似合っている。顔つきは鋭く、どこか不機嫌そうに見える相貌と相まって、一見はチンピラに見えない事は無い、野性的な印象を受ける男だ。彼は全身を覆う様な黒のコートを着て、小さな崖の上で身を屈めて眼下のある方向を眺めていた。


「寒い……」


 苛立ち気に毒づきつつも視線は一方を見つめたまま。その視線の先には冬季の終わりを待つ木々とその中心を走る一本の線が見える。まるで木々の間を両断する様に伸びたそれは白い雪の一本線。それは明らかに人工的に引かれた線でありその白い雪の下に何かがある事を伺わせる。

 そのまま暫くその線を眺めていたラクードだが不意に景色に変化が起きた。その白い線の奥。遥か遠くに黒い煙が見えたのだ。


「やっとかよ……。全く待たせやがって」


 ラクードは口元を吊り上げ獰猛な笑みを浮かべる。そして左手を横に伸ばす。


「来い」


その言葉を引き金淡い光が灯り、やがて光は収束すると無骨な大剣へと姿を変えた。その間にも黒い煙は近づいてきており、やがてその姿がはっきりする。白い雪の線の上を――正確にはその下の線路を走る機関車だ。機関車は通常以上にゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてきている。ラクードはそれを見つめながら立ち上がろうとして、不意に妙な物に気づいた。


「あん?」


 それは機関車が走る線路を挟むような木々の中の一部。そこに不意に動く物が多数現れたのだ。目を凝らして見ればそれが武装した人間だと分かる。


「おいおいおい、横槍は勘弁しろよ」


 武装した者たちが線路の上に上がると機関車が慌てた様にブレーキをかけた。当然直ぐに止まれる筈は無く、甲高いブレーキ音が周囲に響き渡るり徐々に速度が落ち始める。それを狙って武装した男たちが機関車へと群がっていく。


「ああもうメンドくせぇ!」


 ラクードは慌てたように飛び出した。





「暇ねえ」


 昼下がり。仕事を投げ出しアイスを食べながら同僚が呟いた声に、ノワ・クラーヴィスは報告書を書く手を止めると顔を上げた。視線の先の同僚かつ親友でもある女性、ジェネス・ララリアは気だるそうに机に突っ伏しながらアイスを食べるという器用な事をしている。


「ねえノワ、暇だからなんか面白いことやってー」


 昼食も終わり昼休みもとうに過ぎた。だというのに先ほどから働く気配は無いジェネスに対してノワはため息を一つ。


「ジェネス、暇なら巡回に出てください。セシルさんが病欠なので丁度午後の巡回が欠員です」

「巡回は嫌ー。だって外見てみなよ。雪じゃん積もってるじゃん寒いじゃん」


 ジェネスが指差す先、窓の外は一面真っ白の銀世界だ。当然外は凍える様に寒く、部屋の中も暖炉の火が無ければとてもじゃないがまともに仕事が出来る環境では無かっただろう。


「こんな寒い日に悪さする馬鹿なんて居ないって。第一それは警察のお仕事。私たちは唯の自警団なんだから任せればいいじゃん」

「屁理屈をこねない。自警団なら巡回は当然です。それに寒いならなんでアイスを食べているんです?」

「それはね、寒い日に食べるアイスがこれまた一段と美味しいのよ」


 笑顔で食べる? とアイスを薦めてくるジェネスにノワは呆れつつ首を振る。どうしてこの友人は何時もこうなのだろうか、と若干の空しさを感じてしまう。

 ジェネス・ララリア。赤みがかったショートカットが特徴的なノワの同僚である。身長は女性にしては高く170近くある。少し日に焼けた肌と大きくるりとした眼は健康的な印象を与える。最もその眼も今はとろん、と緩んでいるのだが。青を基調としたスラックスに白のYシャツを着ており、その上から厚手の毛布で身を包んでいる。寒いのなら毛布で無くもっと厚着をしろと何時も言うのだが彼女は今のスタイルを頑なに崩そうとしないのでノワももう諦めている。

 そんな動こうとしない同僚にもう一度ため息を付くとノワは壁に掛けていたコートを手に取り部屋の出口へと歩いていく。そんなこちらの様子にジェネスは慌てた様に起きあがった。


「ちょっとノワ。アンタまさか外に出る気?」

「それが仕事。貴方が行かないなら私が行きます」


 言いながら手袋とマフラーを装着。続いて小さな結晶を取り出すと、それをブローチの様にコートの留め具に付け、結晶を軽く叩く。すると結晶に淡い光が灯り、ノワの周囲が途端に暖かくなった。これならそれなりに寒さを防げるだろう。

そんなノワをジェネスが呆れた様に見つめていた。


「あんたさ、真面目なのは良いしそういう所好きだけどたまには気を休めたら? 今日は人も少ないけど仕事も殆ど無いのよ?」

「それでも仕事ですから」


 壁際にある保管庫の錠を開ける。そこには幾つもの銃や剣、更には腕輪や首飾りの様な物が保管されていた。その中からノワは一振りの刀を取り出す。そして少し悩んだ後更に腕輪を填め扉を閉める。


「夕方までには戻ってきますので」

「ちょい待ち! 分かった、分かったよ。私が悪かった。私も行くから少し待って」


 ジェネスが慌てたように立ち上がり外出の準義を進めた。アイスのカップをゴミ箱に放り込みノワと同じようにコートを羽織ると保管庫から武器を取りだす。


「しかしそうなるとここに人が居なくなりますよ」

「留守番はデミ爺さんに頼んどこう。何かあったらその時戻ればいいさ」

「……まあ、そうでしょうね」


 慌しく準備を完了させたジェネスを伴ってノワは部屋を出ると廊下を歩いていく。やがてある部屋の前まで来ると扉を数度叩いた。


「失礼します」


 相手の反応を確かめてから扉を開けると小さな書庫が目に入る。そしてその中心で煙草を吸う初老の男性がこちらに眼を向けた。


「デミルさん、ここで煙草は吸わないで下さい」

「ははは、どうしても我慢できなくてね」

「どうしても吸いたければここ以外でお願いします。ちゃんと喫煙場所はあるのですから」


 はあ、とため息を付くノワにデミルと呼ばれた男性は苦笑しつつ近くにあった灰皿に煙草を押し付けた。


「それでどうしたのかね? もはや私の煙草の監視かな?」

「それもありますがもう一つ。これから巡回に出るので留守をお願いします」


 ノワの言葉にデミルは驚いた様に眉を上げ、続いて書庫の奥、外が見える窓へ視線を移す。窓の外は真っ白に染まっており、雪が降り続いている。それを見てからデミルは再びノワに視線を移し柔らかい笑顔を浮かべた。


「真面目だねえ」

「というかあなた達がのんびりしすぎなのでは……?」


 もはや慣れた事なので怒りはしないがため息を漏らしてしまう。


「まあいいよ。それが君のいい所だしね。留守は引き受けよう」

「ねえデミ爺さん。私は? 私もこの寒い中お仕事するんだけど」

「ジェネス君はどうせノワ君が動こうとしたからだろう?」

「……くっ」


 図星である為ジェネスは何も言わず引き下がった。そんな様子を見つつデミルは思い出したように手をぽんと打つ。


「そういえば先ほど駅から連絡があってね。列車が遅れているらしい。ついでで良いから見に行ってくれないかな?」

「列車が……? 分かりました。様子を見てみます」

「うん、頼むよ。所でノワ君」

「? なんでしょうか?」


 顎に手を当て何かを考え込むようなデミルにノワは首を傾げる。デミルはふむ、と頷くととても爽やかな笑みを浮かべた。


「いや、いつものクラーヴィス家の法衣は着ないのかなぁと。私あの服好きなんだよ。なんというかこう、神秘的な色気的なものがビンビンと」

「なっ……!?」

「でしょー? それに見てよこのノワの胸! 身長は私より低いのに胸だけは私より大きいのよね。こんな胸で法衣なんて着たらなんかもう私もムラムラしちゃって! ああ! ああっ!」

「何を言ってるんですか貴方たちは!? 私は先に行きますよ!?」」


 クネクネと身を捩らせるジェネスとワキワキと手を動かすデミル。そんな二人に真っ赤になったノワが怒鳴り速足で部屋から出ていった。そんなノワの背中を見送りつつジェネスとデミルの二人は笑う。


「可愛いねえ。私がもっと若ければ……」

「可愛いよねえ、襲っちゃいたい位」

「……」

「……」


 お互い顔を見合わせる。


「襲うとか相変わらずド変態だねえジェネス君。親が聞いたら泣くよ?」

「年齢考えようかエロジジイ。その書棚の裏に隠してある素敵にエロい本をお孫さんにバラそうか?」


 数秒の静寂。そして、


「この子達は私の宝! この命燃え尽きようとも守って見せるぅぅぅ!」

「だから年齢考えろあと父さんにバレたら泣く前に殺されるわ!」


 ぎゃーぎゃーと二人の喧噪が小さな書庫に響いていた。





 ノワ・クラーヴィス。身長は平均的な女性とほぼ同程度。蒼みがかった銀の長髪は途中からウェーブがかかっており、風が吹く度に煌びやかに揺れている。白くきめ細やかな肌と整った顔立ち。今はそのすらりと伸びた体躯に白のコートを羽織っているが、それでも目立つのは彼女の胸部。ジェネスの言う通り、身長の割には発育のいいそこは彼女のコートを盛り上げている。


「だからごめんってば。ちょっとふざけ過ぎちゃった」

「……はあ」


 隣を歩くジェネスが手を合わせ謝る姿に今日何度目かのため息を付いてしまう。


「もういいですよ。何時もの事言えば何時もの事ですし」


 そう、確かに怒りはしたがいつまでもそれを長引かせる気は無い。それに不本意ながら二人の反応は何時ものことなのだ。故に慣れたというものもあるが。


「流石ノワ! うーん、大好き」

「……いきなり抱きしめないで下さい。苦しいです」


 身長差が有る為にジェネスの胸の中に抱き込まれる形となったノワが不満を漏らすとジェネスがごめんごめん、と笑いながらノワを解放した。そして二人は雪の降る道を歩きはじめる。

 ここはレイルーブ大陸の東方に位置する国ゼルファース。その中でも辺境とも呼べるほど首都から離れた街ラズバードである。のどか、という言葉を体現したかのような平和な街だが当然警察も存在する。だがその警察も署員は十数名。その殆どが高齢と言う事もあり、少々頼りない。その為に街の有志による自警団が組織されており、ノワとジェネスもその一人だ。


「しかし列車の遅れね……この雪だしそのせいじゃない?」

「確かに可能性は高いですけど一応確認しておきましょう」


 辺境ではあるがこの街にも列車は走っている。と言っても週に1回しか来ないがこれは致し方が無い。むしろこんな所にまで路線を伸ばしてくれた事に感謝すべきだろう。路線が無く、大きな街へ行こうと思えば馬車や下手をすれば徒歩という手段しかない街もあるのだ。因みに車なんて高価なものはそれこそ首都の富裕層か、軍部くらいしか持っていない。


「ところでノワ、デミ爺さんも言ってたけどあの法衣は着ないの?」

「ええ。あれは普段着では無いので」

「うーん。だけどその割には訓練とか戦いの時は着てるよね?」

「そうですね。あの服自体がクラーヴィス家の戦闘服の様な物ですから。魔導器(フェルトナ)の核が多数固定されていたでしょう?」


 そう言いつつノワがコートの留め具としていた結晶をトントン、と叩く。するとその結晶が淡く光った。

 魔導器(フェルトナ)。それは周囲から魔力を吸収・備蓄して必要に応じて奇跡を起こす道具の事を指す。その効果や威力は核となる結晶の質や、そこに刻まれた紋様によって変わっていくものであり、この力は今の社会を構成する大事な要素の一つだ。今ノワが付けている物もその一つであり、効果は発動すると自分の周囲を温める効果がある。そして同じ様な物をジェネスもつけている。


「あの服は特別性でして、それと繋がる核の効果を高めてるんです」

「効果を高めるって、そんな事できんの? 魔導器の力って核に由来するもので、核以外の部品はあくまで力の方向性を決める設計図見たいな物って聞いたけど」

「その通りですよ。だからその設計図がより綿密に、効率よく作られて居ればそれに比例して魔導器としての効果が高まるんです」

「ふーん、つまりあの服自体が魔導器の一部って事か」

「そういう事です」


 成程、とジェネスが頷く。そして自分の腰に差した警棒を手に取った。その警棒にも各が埋め込まれている。つまりはこれも魔導器だ。


「しかし便利な物よねー。10年くらい前にはこれが元で戦争したって言うのも頷けるわ」

「そうですね。それに核については未だ研究段階ですから、このエネルギーの謎を解き明かす事が魔導器使いの命題です」

「あー、私はそういうのは無理だわ。そういうのはノワに任せる」

「まあ、その辺りは個人の自由ですので強くは言いませんよ」


 ノワも苦笑する。命題とは言ったが、そう簡単に解ける謎では無いのだ。それを研究するしないは個人の自由である。無論自分は謎を知りたい派だが。


 そんな事を話しつつ二人は自警団の詰所があった高台から、街中へと足を踏み入れた。時刻は昼過ぎであり、雪も大分弱くなってきたのでちらほらと歩く人々が見える。彼らはこちらを見かけると挨拶とばかりに手を上げてくるのでこちらも一礼しつつ先へ進む。


「平和だねえ。折角外に出たんだから何か起きないかな」

「何を言ってるんですか。つい先週暴れたばかりでしょう」


 呆れた様に半眼になるノワだがジェネスがにやり、と笑う。


「先週の山賊紛いの連中でしょ? あれは殆どノワが叩き斬ったじゃない。吹き荒れる剣風! 舞い散る鮮血! 馬鹿な連中は自分達が相手にした相手の姿を恐怖と共に脳裏に焼き付けつつ息絶えていくのであった……っ!」

「まるで私が皆殺しにしたような言い方はしないで下さい。全員生きてますしそこまで酷くはしません。それにそれを言うならジェネスこそ嬉々として山賊紛いの……その……あれを……」


 途端にノワが顔を赤くしてモジモジする様子にジェネスはああ、と頷く。


「あいつ等のケツを殴りまくったわねー。いやーあれは爽快だったわ。泣いて辞めて下さいと言う奴と、なんか顔赤くしてハァハァいう奴が居たけど」

「……もう少し慎みを持った方がいいと思いますよ、ジェネス」

「そう? じゃあ……お逃げになる人相の悪いお兄さん達のお尻にワタクシは華麗なステップで近づかせて頂き、その硬い棒で刺激を与え続けた事で彼らの感情の琴線に大きな刺激を――」

「……」


 顔を赤くしながらも半眼で見つめるノワの視線にジェネスはたらり、と汗を流し、


「あのーノワ? 止めてくれないと私もそろそろ恥ずかしいんだけど……」

「どうぞお好きなように。私は先に行くので」


 スタスタと先を歩いていくノワ。残されたジェネスが周囲を見渡すとこちらを怪訝そうに見ていた市民たちがさっ、と視線を逸らした。


「ママー、ジェネス姉ちゃんがまた変な事してるよー」

「うふふ、アレが俗に言う放置プレイよ。だけど本気で相手にされないと放置プレイもあそこまで惨めになるのね。良く覚えておきなさい。あれで喜ぶようになったらモノホンよ」

「……」


 そんな会話を背にジェネスは全速力でノワを追いかけた。





街の外れ、遠くに山間が見える場所にラズバードの駅はある。駅と言っても非常に小さなもので、線路の脇に駅員の詰所と乗客の待機所が併設されただけだ。その待機所の中では未だ来ない列車を待つ人影がちらほらと見える。

 ノワとジェネスが駅の中に入ると、丁度顎鬚を生やした中年の駅員が詰所から出てきた所だった。駅員はこちらを見つけると手を上げる。


「おお、クラーヴィスさんとララリアさん」

「こんにちはビオルさん。列車の方は?」


 ノワに問われたビオルは首を振る。


「まだ来る様子も無いね。一応前の駅に確認したんだが予定通り出発してるらしい。まあ多少遅れる事はよくある事だが念の為にこれから見に行く所だよ」


 見ればビオルは防寒着を着こみその手には警棒を手にしている。同じくそれを見たジェネスがノワに目配せするとノワも頷いた。


「ならば私達も一緒に行きます。もしもの時はビオルさん一人では大変でしょう」

「そうか? そりゃ助かる。まあ大丈夫だとは思うけどね」


 ビオルがカラカラと笑う。その顔は対して状況を深刻に考えていない楽観的な物だ。持っている武器も対野生動物用だろう。ビオルはもう一度自分の服装を確認すると詰所の方へ大声で声をかける。


「タレン! 俺が見てくるからここを頼んだぞ!」

「へーい」


 奥から若干だらしのない声が返ってきたことにビオルは頷くとノワ達と共に歩き出す。


「とりあえず西の高台まで行ってみましょうや。それ以上はこの天気の中は危険です」

「了解です。行きましょう」

「あー寒い」


 頷くノワと身を震わせるジェネス。そしてビオルの三人が歩きだす。そのまま暫く歩いていた三人だが、先を歩くビオルはくっくっくっと笑うのを見てノワが首を傾げる。


「どうしたんですか?」

「いや、タレンの奴気づかなかったなぁ、とね。クラーヴィスさん達が来てるのに気づいていたら直ぐに飛び出したでしょうに」


 そう言い笑うビオルだがノワには理由がよくわからなかった。


「どういう事です?」

「え? そりゃまあ、ね」

「だよねー」


 察したらしいジェネスが笑うとビオルと頷きあう。ノワは首を傾げるばかりだが二人はその理由を言おうとはしなかった。

 そのまま三人が街の西方、自警団の詰所とは真逆の位置にある高台を目指していた時だった。

 

「っ!?」


突如、重い爆音が響いた。そして連続する様に二度、三度と同じような音が響く。


「ジェネス!」

「わかってる!」


 ノワとジェネスはビオルを置いて一気に高台を駆けあがる。やがて頂上まで来るとそこから周囲を見回し、目的の物を見つけた。それは線路のある方向。遠く、列車の線路がある筈の場所で黒煙が上がっているのが見えたのだ。そしてその周囲では断続して小さな光が点滅している。


「いけない……っ!」


 その光景を見るが否やノワは即座に走り出した。その背後ではジェネスがビオルに指示を飛ばす声が聞こえる。


「直ぐに戻って警察と自警団に連絡! 私たちが先行する!」

「お、おお!」


 慌てて戻っていくビオルを背にノワは一直線に現場へと向かうが如何せん距離が遠い。だが慌てることなく、両腕に嵌めた腕輪の内、左の物をそっと撫でた。その行動に反応したように腕輪の中心部に取り付けられた結晶――核が淡く光る。そして全身生まれる暖かな力の流れ。身体強化用の魔導器の力である。

 力の行きわたりを感じつつ、踏み出した次の一歩はこれまでとは比較になら無い程の力が籠っており、地面すれすれを飛ぶようにして高速で移動していく。

 魔導器の発動方法は居たって単純だ。その魔導器の発動と鍵となる行動を取ればいい。それは言葉である場合と、動作である場合がある。例えばこの腕輪型の魔導器なら刻まれたその紋様をなぞってやればいい。そして一度発動した魔導器の力は魔力が切れるか、停止命令を送るまでは起動し続ける。

 ちらり、と背後を見ると同じように身体強化をしたジェネスが追いかけて来ている。それを確認するとノワは更に速度を上げて現場へと走って行った。


幾つになっても忘れない厨二心

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