0. 彼と彼女のいつかの未来
プロローグ部分を投稿し忘れていたという愚かさ
なんか色々すいません
戦場に光が走る。
その光は右に左に。まるで雷の様に駆け抜けそしてその行く先に居る全ての敵を切り刻んでいく。
「どれくらい進んだ!?」
《分かりません。しかし確実に前には向かっています》
その光の正体は男の握る刀。蒼銀の輝きを持つそれは時節周囲に放電している。そして奇妙な事にその刀は柄の部分から鎖が伸びており、それが男の左腕に嵌められた腕輪に繋がれている。
「わかっちゃ居たが馬鹿みたいに敵が多いな」
《ですが引かないのでしょう?》
「当然」
男の横には誰も居ない。しかし男は確かに何者かと会話をしている。そしてその男を取り囲むように、人型をしていながら人でないモノ――鋼鉄の人形達が目を光らせていた。
《大人気ですね》
「お前もだろうが。……しかしどうしたもんかねこれは」
刀を肩に担ぎ嘆息する男の姿は黒髪黒目。ぼさぼさに伸ばしっぱなしの長髪に皮肉気に吊り上げられた口元。そして獣の様に鋭い眼は己を取り囲むその鋼鉄の人形達に対し、苛立ちは感じても恐れは無い。
不意に、その人形達の一角から、周りの物と比べて数倍は大きい人形が現れた。地面を揺らし、音を立てながら歩いて来るその巨体の手には無骨な斧の様な物が握られている。あんな物で叩き潰されれば人間など一瞬でミンチになるだろう。
「硬そうだな……俺がやるか」
《そうですね》
再び誰かと会話する男。そんな男目掛けてその巨大な鋼鉄の人形が突如走り出す。そしてその手に持つ巨大な斧を見かけによらない素早さで男へ振り下ろした。
轟音。大地が砕け、土砂を巻き起こす。その振動に周囲に居た人形達がよろけ数体は倒れてしまう。
『……?』
だが巨大なその人形はその無機質な目を点滅させた。自分が斧を降ろし、砕いたその地面。そこには死体も何もない。血すら落ちていないという事実に混乱したのだ。
そんな中、人形の顔に影がかかる。
『!』
人形が気づくが既に遅かった。その影の正体――巨大な剣を振りかぶった銀髪の少女は一直線に落下し、その己の身長より長い大剣を振り抜く。
金属が強引に切り裂かれる甲高い音と、人形内部の機関が破壊されたことによる小さな爆発。それらを伴って振り落された刃は人形の頭部から股下までを一気に切り裂さいた。巨大な人形はその左右に断たれ、それぞれへと倒れていく。
「こんな所でしょうか」
《案外柔かったな》
少女の呟きに今度は男の声が答える。しかしやはり少女の近くには人影など無い。
「しかしどこにこれだけの機導人形を作る予算があったのでしょうか」
《あのクサレナルシスの事だ。それこそご自慢の人形で銀行でも襲ったんだろ》
「……十分にあり得ますね。あの性根の腐った変態ですし」
少女は何かを思い出したのか不快実に眉を顰めつつ、その手に握る大剣を振るう。すると大剣から黒い光が刃となって放たれ近づこうとしていた人形達を切り裂いた。
ちゃり、と小さな音が鳴る。それは少女が握る大剣。その柄から伸びた鎖の音だ。そしてその鎖は少女の右腕の鎖に繋がれている。
その鎖に視線を落し少女は感慨深げに呟いた。
「しかし遠くまで来たものですね。貴方と出会ってからどうも刺激的な事ばかりが起きます」
《いいじゃねえか。刺激的な人生の方が飽きなくて済む。……だがそうだな。確かにお前と初めて会った頃は中々刺激的だったなぁ》
「何を思い出してるんですか!? あの事は不可抗力でしたので許しましたけど思い出すのは禁止です!」
《無茶言うなよ。まあ悪いとは思っているが、正直言うと良いもんみたなぁ、と。その後の事含め色々と――》
「忘れなさい! 忘れて下さい! お願いですからその他諸々含めて忘れてください!?」
少女が駄々っ子の様に剣を地面に何度も叩き付ける。それを隙と見たのだろう。人形達が一斉に襲い掛かる。
《ほれ、来たぞ》
「くっ……この話はまた後です!」
襲い掛かってきた人形達。対して少女が取った行動はその手の大剣を地面に突き刺す事だった。
「天帝掌握っ」
《グラビティエラー!》
突き刺した剣を中心に大気が振動し、そして世界が変わる。黒い光の波紋が広がっていき、それに当たった人形達が足を崩して倒れていく。倒れた人形達はまるで見えない何かに踏まれるかのように音を立てて押しつぶされていく。
少女は剣を引き抜くと前に飛び出した。その跳躍は人間の限界を超えたそれであり、潰されつつももがく人形達を飛び越え前へと進む。
《大分慣れて来たな》
「それは結構な事です」
落下地点を確認。重力場から逃れた人形達がその手に銃器を握りこちらに構えているのが見えた。
「今度は私が」
《おうよ》
一斉に銃弾が放たれる。地上から放たれた鋼鉄の嵐は少女の体を引き裂くには十分な量と威力を秘めていた。だがそれは少女に届かない。何故なら少女が消えたからだ。
「大人しくしてなっ!」
《氷砕樹》
そこにいたのは刀を構える男の姿。そして男が振るった刀から青白い光が放たれる。その光はまるで根の様に幾重にも分かれていき、その根が銃弾を受け止めると一瞬で氷結させ砕いていく。そして更に進んだその光の根は人形達に直撃すると、周囲一帯を巻き込み一気に氷漬けにしていった。
そんな一瞬で氷漬けになった地面へ男が着地する。
「容赦ねえなぁ」
《必要も無いので》
違いない、と男が笑う。そして視線を遥か先の見える古めかしい古城へ向けた。
「しっかし古臭い城だな。ヴァンパイアでも気取るつもりかあの野郎」
《もしそうだとしてもあんな男に血を吸われるくらいなら私は死んだ方がマシです》
「おいおい、そんなんでいいのか?」
《そしてあの世からあの男を呪い殺します。安心してください。自信はあります》
「……一応聞いておくけどお前の家の秘術とかで本当にそんな手段がある訳じゃないよな?」
《ふふふ、どうでしょうね?》
ぶるり、と男が小さく震える。だがまあ、と息を付くと改めて刀を構えた。
「まあいい。とりあえずとっとと行くぞ。そしてあそこに居る筈の変態クサレナルシスをドツキ回して泣きながらごめんなさいって土下座するまでボコるぞ」
《そして逮捕ですね》
「いや、その泣き顔を指さして笑いながら首を撥ねる」
《………………》
相変わらず男の近くには誰も居ない。だが確かに会話をしながら男は歩き出す。その目の前に立ちはだかる敵を刀で斬りながら。
そんな男と入れ替わり立ち代わる様にして現れる少女もまた真っ直ぐと進む。その手の大剣で敵を叩き潰しながら。
二人の腕には同じ腕輪が嵌められ、敵を倒すたびに鎖が音を鳴らしていく。まるで己の存在を誇示する様に。
「さあ行くぞ。俺と、お前の目的を果たしに」
「行きましょうか。私と貴方の自由の為に」
これは鎖で繋がれた二人の男女の物語。
その始まりは少し前まで遡る。