第四話
「…ということで、今日からは通常業務と並行して、引継ぎや諸々の雑務も処理してもらうことになる」
やはり今日の集合はこの件だった。
一年前から計画はされており、今月頭に内々で正式に交渉が完了したため、内示として公表されたそうだ。
杏里の予想通り、堀園ホールディングスの子会社などからこちらに転籍する社員もいるらしく、通常業務に加えて引継ぎ事項も資料も作成しなければいけないとのことだ。
「…帰れる?」
「無理かも…」
端の方で二人でコソコソと話していると、もう一人の同期が後ろから小さく会話に混ざってきた。
「事務の方も大変だよな〜…こっちもやばいけどさ」
「矢野じゃん。珍しく朝出社してるんだ」
「今日は出社しろって言われてさ。ま、この話終わったらすぐ客回り行かなきゃいけないけど」
矢野祐輔。彼がもう一人の同期である。
人並外れた体力と天性の明るさで残った矢野は、大量の顧客と業務を抱える営業マンだった。
ちなみに弊社は、営業マンすらも当然のように人手不足なため、ほぼ外回りで一日が終わるらしい。
本社に顔を出して雑務処理を行うのは業後が確定している、鬼の過酷業務部署である。
「引継ぎなんてやってらんねぇよな〜。勝手にそっちでやってくれって感じ」
「ほんとだよね…そりゃ長い目で見たら人増えるけど、普通に今そんなことやってらんないよ」
三人で話をしていたら、急に前方から女性社員の黄色い悲鳴が上がった。
「…そして、この方が、四月からうちの新社長に就任する"堀園亮"さんだ」
その言葉に、おもわず反射的に顔を前に向けた。
その瞬間、目があった──ような気がした。
気のせいだと信じたい。
前に向けた顔を戻すためにグイングインと首を振ったせいで、筋をいわした気がする。
「えっ、由美どうしたの…」
「いや、ちょっと…首の運動をね、すこし…」
「えぇ?あ、あの社長のこと見たかったとか?私も知ってるよ〜。イケメンやり手後継者、ってよくテレビとかでインタビューされてるもんね」
「はは…」
なんの因果でこんな腐れ縁なのだろうか。
せっかく大学で離れられたと思ったのに。
(…まぁでも、堀園にとっては百社くらい抱えてるうちの一つだしね。あいつも多分いろんな会社の社長掛け持ちしてるだろうし、私のことなんて視界にも入らないか)
そんなことを、呑気に思っていたのだった。




