表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

5 最強のタッグ結成!?

 まぶたを開けると、白んだ空を背景に、アベルの顔が目の前にあった。


「なななななな何をしてるのっ!?」


 胸元にマントを引き寄せ、大声をあげる。「落ち着いて」と、アベルが両手のひらを向けた。


「声をかけようか迷っていた。あんまり気持ちよさそうに眠っているものだから」


「眠ってた? あたしが?」


「ちいさなイビキをかいてたよ」


「う、うそ……!」


 絶対に眠れないと思っていたのに、いつのまにか睡魔にやられていたらしい。

 ほてった顔を叩きながら見回すと、消えた焚き火から白く細い煙が上がり、馬には既に馬具が装備されていた。


 急いで身体を起こして、乱れた髪をちゃっちゃと一本の三つ編みにする。

 今日も良く晴れそうだ。


 オレクを村まで送っていったイーヴォは、そろそろこちらに追いつく頃だ。もしくは街で落ち合えるかもしれないとアベルは言った。

 

 昨日に引き続いて馬の相乗りは固辞したが、アベルの言うところではこのまま徒歩で行っても、日暮までには必ずヴィルダの街に着くだろうとのこと。なら、遠慮なくそうさせていただく。


 ノイエンフォルク家の御曹司といつまでも一緒にはいられないが、街に着いてからならお別れをするのに良きタイミングだ。


「実はね、街に行くのは初めてなの。どんな所かしら」


「まず、人がたくさんいる。店も物もたくさんあって、お金もたくさん飛び交ってるかな」


「味気のない言い方。もっとワクワクするような説明がほしいわ」


「リディアが街のどんなところに興味があるのか、まだわからないからね。ずっと村を出たことがなかったの?」


「そうよ。許してもらえなかったの。お父さまはお若い頃は闘いばかりで――」


 ここで慌てて言葉を区切る。お父さまが騎士だってこと、アベルに知られてはいけないわ。


「――そのぅ……領主さまの軍隊に入って戦場を飛び回っていたから、一人娘には危険な目にあわせたくないのですって。でもあたしは、広い世の中を見てみたいって、ずうっと思い続けていたのよ。だからある意味で、夢が叶ったってわけ」


 これが婚約破棄だとか、お父さまへの濡れ衣だとか、そんな理由でなければもっとよかったけど。


「じゃ、初めてお父さんの許可がおりたんだ? 修道院のお姉さんさまさまってとこだね」


「姉ですって? あ……そ、そうね。年の近いあたしの叔母さま。そう、どうしてもお会いしたいって駄々をこねたの」


 あぶないあぶない。ゆうべ咄嗟についた出まかせを、すっかり忘れるところだった。


「でもね、きみのお父さんの気持ちも少しわかる。ぼくも剣の師匠にくっついて、あちこち回ったからね。戦がなくても世の中には物騒なことも多い。危険な目にあわずに済むなら、それにこしたことはないよ」


 あたしは少しムッとした。

 

「アベルもお父さまと同じね。ずるいわ」


「ずるい? どうして」


「物騒だ、危険だなんて言いながら、自分は自由に動き回っているんだもの。強制される側は、何がどう危ないのかもわからないままじゃない。あたしはそういうのが我慢ならないの。自分の生き方は自分で決めなきゃ、面白くないわ」


「面白い、か……」


 アベルは、細いあごに手をあてて、考え込むようにつぶやく。


「そんなふうに考えたことは無かったな。リディア、きみは本当に面白いね」


「そうかしら。誰だってそう考えるんじゃ――」


 笑いながらそう言いかけて、あたしはふと耳をすました。


 どこからか、悲鳴のような泣き声のような、甲高い声が聞こえてくる。


「どうした、リディア?」

「しぃっ!」


 アベルを制して、辺りを見回す。


「聞こえない? ……ほら」


「ああ……」


 アベルも気付いたようだった。


「子どもかな。一人じゃない」


「迷子かもしれないわ。行ってみましょう」


 あたしたちは、(わだち)の残る街道をそれて、青々と茂る草原へ踏み込んだ。


 声はしだいにはっきりしてきた。

 子どもは二人だ。一人は甲高い声で泣き叫び、もう一人は何かをわめいている。

 それに重なるように、大人の男のドラ声も聞こえてきた。ただ事ではない様子だ。

 あたしたちは足を早めた。


 なだらかな丘に登って見下ろすと、声の正体がはっきりとわかった。

 

 荷馬車の上で、ガタイの良い男が、年端のいかぬ少年の頭をつかんでグイグイと揺すっている。少年は、涙声だがはっきりと怒りを含んだ声で「はなせ!」とか「畜生!」などと叫ぶ。その傍で、五つくらいの幼女がわんわん泣いている。


「なにあれ。親子かしら?」


 あたしが言ったちょうどその時、男が少年の耳を力任せに引っ叩いた。少年ははずみで荷台から転げ落ちる。その瞬間、アベルは「親でもだめだ」とつぶやくなり馬に飛び乗り、まっしぐらに駆けていった。


 あたしも走って後を追う。


「おい、あんた!」


 アベルは荷馬車の男に怒鳴る。

 振り返った男の顔色が変わった。慌てた様子で馬の背に鞭を入れ、荷馬車を急発進させる。

 荷台の幼女の泣き声が激しくなり、取り残された少年が「エンマ!」と走り出すも、石に蹴つまずいて転がった。

 

「なんで逃げるんだ!」


 アベルは荷馬車を追う。

 あたしは男の子に駆け寄り、助け起こした。


「大丈夫? あいつ、あんたのお父さん?」


「違うよっ! あんなのおとうじゃないやい。エンマが! 連れて行かれちゃう!」


「アベーーール! 人さらいよ。女の子を助けて!」


 あたしが叫ぶと、アベルは「わかった」というふうに左手を上げるなり、早駆けで荷馬車を追った。


 駄馬の引く馬車は、すぐにアベルの軍馬に追いつかれた。

 御者台の男は、並走するアベルに鞭をふるう。アベルは二度ほど打たれたが、三度目にうまく鞭をつかむと力いっぱいに手繰り寄せた。


 人さらいの男は短く叫んで転落した。


「やった!」


 あたしはこぶしを振り上げた。そして、同じく小躍りしている少年を連れて走り出した。


 御者のいなくなった荷馬車は速度を緩め、少し行った先で停まった。

 馬を降りたアベルが荷台に近づく様子が見える。へりにつかまって泣いている女の子に声をかけているようだ。女の子が両手をアベルに伸ばす。もう安心だ、そう思った。

 

 とーー。


 荷台の荷物を覆っていた厚い布がむくりと動いて、ざんばら髪の頭が現れた。

 あたしは「あっ」と声をあげた。

 人さらいはもう一人いたのだ。

 荷台の男は、頭痛でもするのか額を押さえて半身を起こし、女の子を抱き抱えて降ろそうとするアベルを見る。アベルは荷台に背を向けていて気づかない。


 男は棍棒(こんぼう)をひっつかみ、荷台の上からアベルに近づく。


 あぶないっーー!


 声を出すより先に身体が動いた。


 ゴンッ!

 鈍い音が響き、荷台の男がひっくり返った。


 アベルは振り返って男を見、それからもういちど向き直って、あたしの片手に握られた投石紐(スリング)に気づいた。


「リディア、今のはきみが……?」


「あなたにぶつけやしないかと、ひやひやしたわ」


 二投目用の石を片手でもてあそびながら、あたしは言った。


「すごい、すごいや、おねえちゃん!」

 かたわらの少年が、飛び跳ねながら手を叩く。


 アベルは大声で笑いだした。


「参った! すごい腕前だな。きみの投石紐(スリング)とぼくの弓で、大抵の事件は解決できるんじゃないか?」


「あら、石投げはほんの手すさびよ。あたしの本来の特技は、頭脳戦なんだから」


 そう返しながら、悪い気はしなかった。

 投石の技術を褒められたのは初めてだ。お父さまからは「年頃の娘のすることではない」と眉をひそめられてばかりだったから。


 もしかしたら本当に、あたしとアベルで良い相棒になれるかもしれない!?

 そんな考えもちょっとだけ、頭をよぎったりして……。



(昨日投稿した5話ですが、長いので二分割しました)

お読みくださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ