表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 西へ西へと、君と征く 】  作者: 八尾 十一
九章〈ツァーカの荒れ野〉
77/123

九章《二節 監視者、そして》1


 まず必要なのは水だ。そして食糧。

 街を急いで出ると決めた。そうであるが、補給なくしては、次の人里への道中で倒れてしまうことになりかねない。

 翌朝、旅装束のまま起きてすぐに取り掛かったのは、それらの調達だった。

 

「一人つかまえられたら話を聞けるのだけれどね……」

「……あまり物騒なことを言うな」

 ロゼが小声で言う。オルグレンは小さくたしなめた。

 商人たちが慌ただしく商売を始める中、眩いばかりの陽射しが地表を照らしている。


 日干し煉瓦の家々が連なった目抜き通りには、夜と同じくあふれんばかりの人出があった。

 その人々に紛れて、荷を運ぶのは馬ではない。

 駱駝らくだだ。

 大きなこぶのあるその背に荷物を満載し、蹄のない二股に分かれた足先で、どこかのっそりと通りを移動している。

 

 人とそれらの間を縫うように移動し――、街角でロゼがふと足を止めた。

 外套を目深に被り直す。彼はついでに、と言った仕草で自身の顔をこねるように擦り、何かを振り払うように首を振る。

 オルグレンも彼と同じような調子で、首の後ろに手を当て揉んだ。


 宿を取り休めたとはいえ、しっかりと休めた体感はない。

 宿を出る前に顔を洗うなどもしたが、気分はあまりすっきりとはしなかった。

 徒歩による長旅の疲れだけではない。得体のしれない視線というものが、いかに神経に負荷をかけるか、彼は身をもって体感した。

 まだ、明確な敵意の方が、覚悟を持てるだけ良いのではと、迷いごとさえよぎってくる。


 この状況がしばらく続くと考えると、気が滅入る話だ。

 ふと、ロゼが通りの向こうを見るように、視線を動かす。オルグレンは彼の視線の動きを、うっかりと追いかけ……しかし、意識して動きを止めた。


 恐らくは……

「誰か付いてきているか?」

 オルグレンが聞けば、ロゼが被った外套の中で、うん、と返答する。

 あのまま振り返っていれば、相手の方に気づかれていたに違いない。

「昨日の酒場の人と、新しい連れが二人……傭兵団かな。個人じゃない気がする」

 勘で申し訳ないけれど、とロゼが言う。


 その見立てを、オルグレンは正しいと思った。先を争うように接触してこず、一様に様子を見ているような雰囲気があるのだ。

 このことは、ある程度、意識がそろっていることを感じさせた。

「と言っても、ウルローグのとこみたいなとこじゃなく、もっと小さいのだろうね」


 一口に傭兵団と言っても、『猛りの尖兵』のように三百人規模の大所帯から、十人弱の小さなものまで様々にある。

 銭貨によって契約主と結ばれ、荒事を果たすという形態は共通しているが、あとはやることなすこと多種多彩だ。

 戦争をこなすようなところもあれば、村や行商、あるいは個人の護衛、稼げそうな話を追い求め、都度所在地を移動しているところもある。


「だが、だとすると、門兵は……?」

 彼はどんな関係がある? オルグレンは疑問を口に出した。

 やはりそこだけが説明がつかない。この国の者だと思われる、門を守る兵士だけが違うのだ。


 昨日ロゼと共に立てた予想。

 不穏な動きの出どころは行き先であるリリートゥ側から、そしてクゼリュスの一手という見立て、これにも門兵だけが当てはまらない。

 そして今日の推測、ある程度まとまった意志を持つ組織であること、これも門兵だけが枠外となる。


 ロゼが自身の唇をつまむようにした。

 その点について、彼もまだ推測が立っていないらしい。その喉から、かすかに唸る声を漏らす。

「別物、だったりして……?」

 ロゼが言う。

 彼としては苦し紛れといった調子……だが、あり得なくはないとオルグレンは感じた。


 ともあれ――推理よりも、やらなくてはならないことは決まっている。

「ロゼ、そろそろ行くか」

 一言。オルグレンはそう声を掛け、薄紅色の双眸と視線を合わせた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ