表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 西へ西へと、君と征く 】  作者: 八尾 十一
五章〈砦奪還戦〉
42/74

五章《三節 砦》2

 

 オルグレンは周囲を見た。

 砦攻めの最中だ。


 結果からいえば兵站攻撃を始め、占拠された砦の補修妨害など一連のアディーシェの行動は、一定の効果をあげた。

 攻城戦は、片手と少しの日数ほど、膠着の様相を見せたものの……その後、クゼリュス側の矢弾の枯渇が見られてからが一転した。

 

 とはいえ、城内で始まった混戦は、熾烈を極めた。

 その中で、傭兵団『猛りの尖兵』は、名の通りの働きを示し、勇猛果敢な突端と化している。


 最も死傷率が高い役割でもありながら、『猛りの尖兵』は突き進む。ウルローグが指揮官先頭を持って示す武威が周囲を鼓舞した。彼女に続き、団員が堪えられぬ怒りや、望み、悲願、それを忘却してしまう不安を携えて突き進んで行く。

 


「大将首を獲れ!」

 いよいよ砦の主塔(キープ)へと突入し、ウルローグが叫ぶ。

 首を獲れ、一人でも多くを倒せ、平らげろ、と。


 同時、我らならば、それが成せるという叫びでもある。

 それが『猛りの尖兵』を奮起させる。噴き上がる熱量が、うねりとなり他の部隊へも伝播していくようだった。


 オルグレンは、共に走りながら、それを肌で感じた。

 戦場に必要なのは、猛将だ。

 彼女はそれを見事に果たしている。


 この場において彼女は、すべてを牽引する馬だった。

 そして、ダグエルが御者だ。指揮官が先頭となることによって、難しくなる俯瞰しての視点を彼が調整していく。


 オルグレンは彼らを守るよう、剣を振るった。

 傭兵団『猛りの尖兵』――普段は穏やかに、家族のように集う彼ら。その存在は、彼にとって失い難い、大切なものとなっている。


 襲い掛かってくるクゼリュス兵は、オルグレンにとって害悪以外、何者でもなかった。

 剣は今、思いのままに振るうことができる。

 望む剣筋を描き、オルグレンはクゼリュス兵の脚へと振るった。


 当然、敵は跳び退こうとする。その浮ついた動きを前に剣を引く。腕の力を貯め、次なる一撃で胸を突いた。

 鉄の鎧で身を固めたものに、それは必殺の剣とはならない。

 だが、態勢が不安定なところへの衝撃は、転倒させるに十分。

 そして、敵があおむけに倒れれば上から容易に頭を狙うことができる。血が爆ぜた。


 更に駆け寄ってくる敵に、オルグレンは剣を掲げた。

 長剣は、魔物に相対するにはいささか短い剣だが、人を死傷させるには十分な大きさと重さを持つ。


 剣身を、己の体の外をなぞるように取り廻す。

 そうして勢いをつけ、斜めに振り下ろす。

 敵は、迎え撃つように剣を振るっていた。だが、振り下ろしのオルグレンの方が勢いに勝る。そうして、相手の剣をものともせず、肩口から胸を鎧ごと断ち切った。


 そのまま勢いは止めない。動き続ける方が、剣に勢いが乗る。

 ただし、大振りではいけない。

 勢いを殺してもいけない。しかし、剣筋を読まれてもいけない。

 一手打つときには、次の一手、その先を意識し振るう。


 不意を狙おうとしたらしい、死角からの飛び出し。それにも、オルグレンは余裕を持って対処した。

 剣を弾き落とし、代わりに胴を薙ぐ。ロゼと比べれば、その敵の動きは、易い動きだ。

 その敵を排除し――

 オルグレンは、振り返る様に視線を走らせた。


 そして、また、と思う。

 目を四方に配るが、特徴的な白髪が見当たらず、オルグレンは強い鼓動が胸を叩くのを覚えた。

 刃に倒れてはいない……、そうとは思う。

 だが、ロゼの様子に、オルグレンは気になるものを抱えていた。


 シルユーノと出会って以降、彼は何かが変わってしまった。

 表向きはそれを取り繕っていたが、輪から外れ、独りであろうとする。砦攻めの間も飄々としたような様子は失せ、ロゼは何かに急き立てられるような動きをしていた。

 

 今もまた、姿が見えない。

 気づけば、オルグレンは体を返していた。少年の姿を手繰ろうと。


 だが、雄たけびが響く。

 破ろうと奮闘していた扉が、内側の意思によって開かれる。


 その様子に、主塔の中で最奥の部屋に立てこもっていた者たちが、最後に打って出てきたと彼は理解した。

 死に物狂いの敵は、手ごわい。

 ウルローグが叫ぶ。

「正念場だ! 覚悟を決めろ!!」 

 


 旋風が起こる。

 それを吹き上げたのは――、身に受ければ一溜りもない大斧。


 それを見、オルグレンは息をのんだ。

 人対人という戦いが主流となった今の武器ではなく、人が魔物と戦うことが主だった時代のものだ。


 最後の攻勢に打って出た騎士。

 大斧を持った全身甲冑の男は、威風堂々たる体格をしている。

 その男が立てこもっていた奥の部屋から駆け出すや、殺到するアディーシェの手勢を、主塔から追い出さんと一気に押す。


 鋼の牙を掲げた鎧の突進は、猪を思わせた。

 とても止められたものではなく、幾人かが弾かれる。


 オルグレンは返そうとしていた動きをそのままに、一度主塔から飛び出た。

 大獲物であることを考えれば、室内の方が有利だが……主塔の中も広間だ。

 さほど変わらない。


 大斧の騎士が、大薙ぎに獲物を振るう。

 それだけで風が起こった。現在の武器――長剣などでは、あの大斧を防ぐことは無理だと、一目でわかる。


 飛具辺りで仕留めたいところではあるのだが……問題は、立派な金属の全身甲冑だ。

 運動量からみて、分厚い装甲ではない様子だが……恐らく半端なものでは防がれてしまうと、オルグレンの目には映った。


 オルグレンと似た判断をしてか、『猛りの尖兵』達も主塔の外へと出ている。とはいえウルローグとダグエルの姿は見えない。


 主塔の中からも響く音を聞き、オルグレンは中でも戦闘が行われていると判断した。

 同時、そこは彼女たちに任せる他ないとも考える。

 最後の大立ち回りを見せる男は、それを振り回すだけで十分脅威だった。


 近づけはしない。

 ならば……体力が尽きるのを待ちたいところだ、だが、他のクゼリュスの手勢が邪魔をしてくる。

 このままでは死傷者が増えかねない。とはいえ、近づけない。


 不意に、一発の厳しい音がした。

 同時。大斧の騎士の右肩の方では、硬質な音が鳴る。次いで、本懐を果たせず地面に落ちるのは、弩の矢だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ