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【 西へ西へと、君と征く 】  作者: 八尾 十一
十三章〈暗い淵の方へ〉
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十四章《二節 抵抗する者たち》1


 鉄靴と馬蹄の音が、遥か遠くに離れていく。

 頃合いを見計らい、ロゼは静かに身体を起こした。

 そして被っていた古布を打ち捨てる。足元のガレ地の色によく似た、布を裂いて作った被り物だ。

 地面に落ちるとそこにも馴染み、地形か何かと見まごうばかりの有様と化していく。それから目を離し、ロゼは顔を上げた。

 馬車を囲む軍隊は少しばかり急ぎ足に変わっており、既に粒のようになっている。

 それを見届けながら、胸中で呟く。

 オルグレンに伝わっただろうか、と。

 自分は確かにここに居る。今は助けられないが、いつか必ず助けに行くからと、そう伝えるべく空を射たのだ。


 そして、もう一つ意図があった。

 このもう一つは、オルグレンへ向けたものではない。

 それを探すべくロゼは、今度は周囲へと視線を走らせる。

 細工をした鏑矢の音の意味に気づいた者が、どこかに居はしまいかと目を凝らす。

 彼らもこちらの姿を探しているはず、と思う。見つけられるために、欺きの(すべ)を解いたのだ。

 そうしてロゼは、まず自分が考えていなかった事が起こっているのを見つけた。


 目を丸く見開き、瞬きをしてからもう一度見る。

 ガレ地の荒野をゆっくりと辿る姿があった。その姿形を、ロゼは見間違えようはずがない。

「ゼ……」

 叫びかけて、ロゼは言葉を飲み込んだ。

 養い親の名は、この地では気軽に呼べない名だ。

 代わりにロゼは、向かい来る方へと急いで寄った。


 後数歩、といったところでゼオンが両腕を広げる。

 どういう意味であるかはすぐに分かり、……故にロゼは足を止めて首を振った。

「つれんなぁ」

 陽だまりのように笑って喉を鳴らしたゼオンが、腕を降ろす。

「捕まりに来たのかい!?」

 あまりにも危険すぎる、とロゼは声をとがらせた。

 一方でゼオンは笑う。今度は、声を発せず目を細めるようにしていた。


 そうしながら歩み寄り、大きな手をロゼの頭の上へと乗せてくる。

「そうじゃないさ。……少し確かめに来ただけだ」

 何を? と、ロゼは尋ねたが、ゼオンの方は広い肩を竦めるだけだ。


 と、――馬の蹄が響く。

 駆け足の蹄鉄の音は一つ。遠くからでも響いていたその音は、今は間違いなくこちらへと向かってきていた。ロゼは身構えた。念のため、背中の弓矢を意識しつつも今はまだ番えない。

 ゼオンも頭から外套を被り直し、少し腰を落としていた。

 そうして音の方を注視していれば、次第に人馬の姿形が鮮明になっていく。

 乗り手は細身の人間だった。すらりとした人が、馬を駆けさせている。


 その人は、互いの仕草がわかる程度まで近づくと、軽やかに馬から降りた。

 手綱を手放し両の手のひらを向け、武器を握っていないことを示してくる。

「貴殿の髪の色から推測いたします。失礼ながら、白燕殿でありましょうか?」

 それは少し低めの女性の声だった。

「そうだよ。話をさせてもらえるかい?」

 答えつつ、ロゼは確信した。接触したかった者たちが、今、姿を現したのだと。

 


 互いに寄り合えば、彼女は緩く拳を握り、胸の前に腕を上げた。

 男と変わらぬ軍装に身を包んだ、黒髪の背の高い女性が一礼して言う。

「シェンナと申します」

 ロゼも彼女と同じくエーイーリィの礼をとった。そして改めて名乗る。

「ロゼと言うよ。あなたの言う通り、白燕だ」

 だが一方で、シェンナは少し目を開き、ゆっくりと瞬きしていた。

 頭から足まで、一通り視線を上下させる彼女が、何を考えているか、ロゼはなんとなく察する。


 実際……、

「白髪で、小柄で……、若いとは聞いていましたが……」

 あなたが、本当に? と。彼女が示す所は疑念だろう。

 説明をと、ロゼが考えた最中。

 横合いからは、息を震わせるような音がした。見ればゼオンが口を手で覆いつつも、それでは抑えられぬ笑いで肩を震わせている。

「……貴方は?」

 シェンナが問う。

 ゼオンが、手を振った。そして、被っていた外套を背に落とす。

「すまん、すまん。怪しい者じゃない。俺は、ゼオンだ」

「まさか、剣聖……」

 シェンナが呟く。それへゼオンが、ああと応じた。

 

「そっち側の人間だ。鏑矢の音で縁を感じたから、わざわざ見に来てくれたんだろ?」

 ゼオンの言葉に、顔に驚きを浮かべたままであるものの、シェンナが小さく縦に首を動かした。

 それを見て、ロゼも問う。

「あなた達は、抵抗を続ける者たちだね? さっきも言った通り話をしたいのだけれど、どうだろうか」

 

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