性癖破壊幽霊と少年④
「ん、よし……」
少年がなぜか満足げに、目を瞑ったままつぶやいた。
こいつが倒れた後は、なかなかに大変だった。
木立の中に戻ったことで、俺の苦痛と発光は徐々に収まった。
衣服も含めて、相変わらず俺の意思とは関係なく、元の素人女子大生に戻っていた。
昏倒した少年に大声で呼びかけても全然起きる気配がないので、なんらかの発作か怪我を疑って、介抱するために木立に引っ張り込んだ。
そう、もう一度路上へ出る必要があった。
痛覚をほとんど感じない死生活に慣れ切った身にあの責め苦は一層堪えるのだが、背に腹は代えられず、一通り即興のハカを舞って覚悟を決めてから、またも奇声を上げのたうちつつ少年の脚を掴んで引っ張り上げた。
下腹部に力を込めて集中すれば現世の物に触れることは可能だと、義妹から教わって知っている。
だからこそ、タブレットのタッチパネルを華麗に操作して日々アニメや映画を愉しむことができたのだ。ああ、失って尊さに気づく宝物のような想い出よ。
「お目覚めかい? 少年」
よし、今度は噛まなかったぞ。ちょうどいいから一旦水に流して、またやり直そう。何度でもやり直そう。
顔の真上から声をかけると、彼は喉の奥で小さな悲鳴を上げた。
「くねくねが──!? あれ、さっきの古風な口調のお姉さん……?」
噛んだことによって生じた属性を強調するな。こちとら有り余る時間を使って語る予定もないキャラ設定までガチガチに固めて来てるんだぞ。
「くねくね? なんのことかわからないけど、急に倒れたんで驚いたよ」
死に物狂いの俺の姿は、夢だったと思ってもらう。
ここからようやく男子に対するお姉さんという優位性を確立するとしよう。
「え、これはまさか……」
少年がやにわに慌て始める。
ククク……気づいたようだな。
そう、現在我々がとっているこの体勢こそ、全男子のあこがれ、三界随一の至福、俺の繰り出す一〇八のコロシの技術のうちの一つ。
「童貞確殺待ったなしの少年呼びのエロかっこいい巨乳のお姉さんが僕に膝枕をしている、ってことですか……!? 僕は死んだんですか?」
「フッ……君は生きているよ」
冗長な形容の中にはセクハラが含まれているような気もしたが、目覚めたばかりで朦朧としているということにして一度は見逃しておいてやる。
「手伝ってほしいことが、あるんだけど」
言いながらぐっと屈んで膝上の顔、その目を深く覗き込む。
多感な少年にお姉さんの顔が急接近する。かすかに吐息がかかる。これは効果抜群だろう。
勝ちましたよ、これは。
さらば、少年の理性。
「あ、ごめんなさい。今日忙しくて」
ごめんなさい
きょう
いそがしくて──
当然、ドギマギさせてこちらに有利に事を運ぶ一助とするための所作だったのだが、この少年は感性が一般のそれとは違うのか、それとも俺の一般の想定が甘いのか、意外にも真正面からバッチリと目を合わせてお断りされた。
嘘だろ? これでもダメならどうすればいいんだ。
未成年にはお見せできない手段に頼るしかないのか?
暴力表現か、性的表現か、どちらかに該当する手法で──
「困ってるなら誰か呼びましょうか痛ってえ!」
いけない、動揺して体が透けてしまった。彼の後頭部は俺が腰かけていた石碑の台座に打ち付けられた。
作戦を再構築する時間を確保するため、あわよくばそのままもう一度意識を失ってほしくもあったが、謝りながら丹田に力を込め、実体化しつつ少年の頭を再び太ももに乗せた。
途中、実体化しかけた半透明の俺の臀部を少年の頭が通り抜けるという、ゲームのポリゴンが異常をきたした時のような格好になったが大丈夫だろうか?
フィラデルフィア実験とか、「いしのなかにいる」的な重篤な事故なのではなかろうか。
「ぶももぼッ! 今のなにに!? 天国?」
大丈夫そうだった。




