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ロボットお姉さんと心霊コンサル⑦


義妹(いもうと)が、千代子がどこにいるか知っているのか? 望みがどうとか言うのなら、あいつに会いたい」


「そういえばそんな名前だったね。千代子か。ずいぶんな名前を付けたものだ。千年ちとせの栄えを望むとは……残念ながら居場所は知らない」



 さっきから無性にピリピリとしたものが俺の胸中を跳ね回っているような感じがする。


 町の敵対者であれば将来の怨霊たる俺の同志と言えなくもなさそうだが、俺の中の動物的本能もしくは幽霊としての危機感がそれを認めることを拒んでいる。


 視界の悪そうな仮面の死角を探る意味も込めて、障子に沿ってこっそりと横に移動していく。


 正面から見ていた時には気づかなかったが、仮面はひさしのように前方へ突出している。仮面というより深くかぶった帽子のつばのようだ。


 かがめば目鼻をうかがえそうだが、いずれにしても視界は死角に囲まれ狭小に違いない。


 宙に浮く技を使ってなんとか逃げ出せないだろうか。


 しかし女は俺を逃さず、真正面に捉えるように首の角度をキチリと変えた。



「でも、キミに怨みを授けることくらいはできるかもね。そうだな、私を怨んでくれてもいいよ」


「まだなにもされていない相手を怨むほど落ちちゃいない!」



 我ながら格好いい言い様だが、コソコソと逃げ出していたことをごまかそうとしてつい力んでしまっただけだった。


 実際のところ幽霊が怨霊になることこそが“落ちる”ことかもしれない。少なくとも“上がる”ということはあるまいが、この女の提案を受け入れることは大いに躊躇われた。


 借りを作るようで、なんだかわからないがとてもマズい気がしてならないのだ。



「“まだ”なにも? いや、“もう”全部終わったあとなんだよ。他者に怨まれる理由はすでにいくらでも存在している。古い神の祠は偽物に紛れ、いまや信仰の対象ではない。怪談は上書きされ、妖怪の類は文字通り食われてしまった。祭りは単なる洋風の催しになり下がり、わらべ歌はEDMカバーされ南アフリカで大ヒット、土地の有力者は当主と後継ぎを失い負債も抱えて風前の灯火だ。もう因習を維持できる土壌はここにはない」



 女はなにかを胸元から取り出す。それは茶色い小さなハンカチか、巾着のように見えた。



「だけどもキミがそうしたいのなら、そうしてあげよう。キミの望みを叶えることが、この村の総仕上げなんだ」


「さっきからわからんことを──ッッ!?」



 さらに歩を進めようとする女を全身の明滅と浮遊によって牽制した俺だったが、持てるカードすべてを一度に使った威嚇は激しい苦しみによって瞬時に中断させられた。


 酩酊など比べ物にならない視界の動転の中で、俺の手足が粒子状に発光している。


 これは、この感覚は……結界?


 嘘だろう? それまで立っていて平気だった場所が突然に、結界を突破したときのゲロヤバ脳ミソ高速回転ゾーンになるということがあり得るのか?


 いや、少し違う。


 義妹が施した結界の苦痛は強い痛みとほのかな快楽の二層構造だが、いま味わっているこれは例えるなら痛みと痛みと痛みのミルフィーユ。えぐられながら焼かれながら潰されているような余白のない激痛だ。



「ここにあるのは、終わった町と愛すべき愚かな人々だけだ。せいぜい大事にしてやりたまえ」



 語りながら女が近づいてくる。


 本当に焼かれでもしているかのように、足の先に触れたロッテさんのひんやりとした機体の感触がやけに際立つ。



「もらいものなんだけど、結構効くんだね、これ。義妹さんのよりも強烈だろう? 所詮あれは真似事に過ぎないからね」


「バッ……カを、言うな」



女はここへ来て初めて、高慢な笑み以外の表情を浮かべた。



「驚いた。しゃべれるんだ」


「あいつの結界は……俺を地獄のように苦しめると同時にわずかに希望を持たせ、反骨心と向上心を呼び覚ます……芸術品なんだよ。義兄あにが折れるギリギリを完璧に把握した、あいつなりの最高の愛情表現……できた義妹だ……痛いだけの……こんなもん……眠たいだけだぜ……!」



 女が「ふぅん」と鼻でため息をついて首をかしげると、仮面の中の前髪が脇へ流れ、奥の瞳がわずかにきらめく。



「話にたがわぬド変態兄妹(きょうだい)か……」



 威勢のいいことを言いつつも這いつくばったままろくに動けもしない俺を見下ろす彼女の瞳に──細まった双眸に深く貫かれた気がした。



「詳しく聞きたいのはやまやまだけど、残念ながら今日のところはお別れだ」



 俺の眼前に薄茶色の紙幣のようなものが差し出される。



「ええと、なんて言うべきかな……悪霊退散?」



 やる気のない掛け声とともに俺の全身が地面に埋まるかの如き重力に襲われ、同時に大気中へ無限に広がり希薄になっていく。


 急速にガスが充満するように鼎邸の内部の様子が隅々まで俺の視界に流れ込んでくる。


 見慣れぬ機械の置かれた台所、飾り気のない客間らしき部屋、生活感のない洗面所、納屋のような暗い土間。


 すべてが目まぐるしく、並行して襲い来た。


 最後の一瞬見えたのは、これだけ騒いでいても出て来やしなかった少年少女がこもる作業部屋だろうか。


 そこは薄暗く、畳の部屋に転がる無数の腕、脚、頭、そして箱の中に眠る少女の顔に手に持った細長い器具でなにかを施す少年。


 その背後で壁にもたれたもう一人。無表情なその顔は、箱の中の彼女に似ているように見えた。



「欲深くありたまえよ、怨霊くん」



 女のその言葉と同時に、俺の意識は途絶えた。



【やりたいことリスト】

 ✓義妹の自慢をする

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