性癖破壊幽霊と少年②
心霊現象に遭遇した際、しかもその幽霊や妖怪がこちらを殺しにきた場合に、生存率を飛躍的に上げる夢のようなライフハックをご存知だろうか。
祖父母に話して対応法を乞う? 寺生まれの知り合いを作っておく? 服を脱ぎ奇声を上げて自らの臀部を乱打する? なるほど、どれも古式ゆかしい伝統的手法ではある。
しかし、祖父母に会うにはまず一度生還する必要があるし、寺生まれの知り合いが常に同行しているとは限らない。
超常的な力をもってその場で即断即決に殺そうと向かってくるケースでは、基本的には為す術がない。
ではどうするか。“気絶”である。
意外に思われるかもしれない。絶体絶命の危機に意識を失うなど、元より低い生存の確率を自ら手放すようなものだというのは至極真っ当な見解だが、過去の実例が無視できないその有効性を物語っている。
もはや古典となりつつあるおなじみの怪談タレントが繰り出す噺から、ネット発祥のぽっと出の一編まで、現代のあらゆる怪談においてクライマックスで気を失うというのは生存フラグなのだ。
「気がついたら朝」とか「揺り起こされて」と展開したならば、それはすなわち生還の確定演出である。
世間の幽霊たちがなぜ気を失った人間を放免するのかはさだかではない。
幽霊さんサイドに立ち、しいて理由をつけるなら、怨念の強さに任せて襲いかかったあげく、殺す必要はなくとももう殺すしかないような引っ込みがつかない状況だったとて、対象が突然気を失って倒れることで幽霊に花を持たせて引き際を作り出すWIN-WINの最善手なのではなかろうか。いわゆる“今日はこのくらいにしといたるわ”である。
メンツというのは人間にとって命より重い。吉村貫一郎もロイエンタールも、体裁さえ気にしなければ生きる道もあったろうに。それは霊にとっても同様に重要なのだ。死んでるが。
そうして土壇場で一旦ご破算、宴もたけなわとしてその場はおひらき。お手土産に呪いを被った場合は、そこから改めて祖父母か寺に相談するなどの善後策を講じればいい。
なにがなんでも是が非でも、命あっての物種だ。
……そんなバカげた妄言を信じて、あまつさえ実行するやつがいるとは思わんじゃん。




