とまどい
あなたさえいれば何も怖くなかった
すべてに満たされて 優しい温もりに包まれていたのに
突然のさよならは私を徐々に壊していった
人並みに恋を重ねようとしても あなたを忘れられなくて…
突然 告げられた別れだった
「 人はみんな…変わるから… 」
何それ…意味わかんない
「 きみのお守りに疲れた 」
これは夢? 私 夢を見ているの?
「 ひとりで帰れるね? まだ明るいし… 」
こんなのイヤ はやく はやく目を覚まさなくちゃ
ひとりで帰して平気なの?
心配してくれないの…
でも 言えない
いつもみたいに甘えたら これ以上 嫌われるだけだって…わかるから
「 ごめんな… 」
泣きながら謝らないで
4年前…私は精神が病んですべてに疲れていた
八方ふさがりで やっと危機から抜け出せて
暫くは大丈夫ってホッとして
そんなとき あなたと出会った
緊張の糸が解けた私は子供のように甘えられる存在を求めていた
自分でも気付かないうちに
あなたはとても優しかった
病んで子供のようになった私を受け入れて
バカみたいに甘える私を手放しで甘やかしてくれた
求めればいつも傍にいてくれた
甘えることに慣れた私は…いつかは覚める夢だなんて考えてもいなかった
お伽噺のヒロインのようにハッピーエンドを信じてた
「幸せにおなり…幸せに…」
あなたにそっと手放され
それからあとは記憶がない
どうにか家に帰ったようで倒れるように眠っていた
甘えすぎたの?
自分勝手だったの?
子供のままじゃダメだったの?
もう抱きしめてくれないの?
あなたがいなくて どう歩けばいいのかわからなかった
忘れられなくて何度も泣いた
さびしかった私は何度かその場しのぎの恋をしようとした
誰を好きになってもあなたとくらべて気に入らなかった
私を大人扱いしないで
心が大人になっていないの
私に甘えないで!
甘えたいのは私のほうなのに
だけど あなたには甘えたくない
「 モーリ…聞いてる? おい、モーリ 」
名前…呼んでる 気持ち…わるい
男の手がモーリの肩に触れビクッとする
「 ごめん、そんなに身構えるなよ 」
やだ 触らないで
だってあなたは彼じゃない 私は安心して飛び込めない
「 あのさ、子供じゃないんだから… 」
まただ…その口のきき方も気に入らない
「 帰る… 」
「 なんだよいきなり! おいっモーリってば 」
やだ 触らないで 私の名前を呼ばないで!
一心不乱に走って逃げた
どうしてあんなに彼と違うの…いやだ いやだ…しつこいだけで気持ち悪い…
もう誰とも…付き合いたくない
こんな想いをするならずっと独りでいたほうがいい
それから季節は繰り返し私は歳をとっていった
どんなに求めても懐かしくても もうあの人は戻ってこない
彼への想いを封印し 置いてけぼりにされた恋をしまい込んで誰とも付き合わなくなった
見た目があまり変わらないまま気付けばアラフィフを過ぎていた
街並みは華やかなイルミネーションで煌めいている
行き交う家族連れに恋人同士
誰もが笑顔で楽しそう
「 最後に笑ったの いつだっけ… 」
「 モーリン… 」
心にスッと入ってくる聞き覚えのある懐かしい声
空耳? とうとう私 おかしくなっちゃったのか…
「 おかしくないよ…迎えに来たんだ 」
振り向くと…大好きな彼が懐かしい彼が 昔と少しも変わらぬ姿で佇んでいた
「 どうして… 」
「 うん? 」
私の好きな優しい瞳で両手を広げている彼は
長い手足に綺麗な指
こけた頬と長い黒髪
据わった眼差しに高い鼻 ぽってりとした唇で微笑んでいる
「 どうして…ここにいるの? 昔のまま変わっていないの? …モーリは…モーリは年とっちゃった… 」
「 人であるきみを愛して…諦めようと千度思った… 」
人? 千度も…千度も諦めようとしたの?
「 けれど無駄だった…時が経てば経つほど きみは俺の中で大きくなって逢いたくてたまらなかった! 」
「 ずっと見守っていたんだよ…悪い虫がつかないように… 」
「 …… 嘘…嘘だ…私、いろんな人と付き合ったし…何度もキスされそうになったもん 」
「 だけど…穢れてないだろう? 」
たしかに おかしなムードになる度にすごい馬鹿力で相手を突き飛ばしてたっけ
「 時は満ちたんだ… さあ おいで… 」
頭で考えるより先に抱き着いた私を彼は優しく包み込むように抱きしめてくれる
心地いい匂いも声も変わらないまま
もうどうでもいい…二度と離れたくない…
「 きみは少しも変わっていない 純粋で可愛い赤ちゃんのまま… 」
え……
何かを言おうとした唇を塞がれて 激しい口づけに眩暈がする
この人以外…いやなんだ…ダメなんだ
「 連れて行くよ…いいね? 」
コクリ……
うなじに甘い痛みが走り 夢心地のまま私は気を失った
「 モーリン 起きなさい 」
甘い声で目覚めると彼のマントの中にいた
「 蒼き口づけを… 」
長い爪で彼は自分の胸から血を流すと私の頭を引き寄せた
まるでお腹をすかせた赤ちゃんのように何の迷いもなく私は彼の真紅の血を口に含み喉の渇きを癒そうとした
コクコク…コク…
「 はい…そこまで…あとは…城に帰ったらね… 」
優しく両頬を包まれ口づけを交わし私は彼の永遠の妻になった
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中田裕二さんの楽曲からイメージを膨らまして私の実体験も織り交ぜて書きました
読んで下さりありがとうございます