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オーシャンピープルの復活 前

転送門の光が収まると、そこは祠のような遺跡の中でした。7割くらい壊れていましたが、マナ灯が点いてます。微かに水草や湿地のような臭いもしました。というか、


「わ、湿度が違うね」


「出てみようぜ?」


「これが磯の匂い??」


僕達は近付くとジェミニクレストを使うまでもなく、独りでに開いた扉から出ました。すると、


湿り気のある強い風、さっきまで感じていた臭いの強調、砂漠程ではないけど強い日差し、何よりこの転送門のノームの小遺跡のある高台から見渡す限りの青い水の地平線が見えました。遠くで海鳥達も鳴いています。


ん? 海鳥かと思ったら怪鳥系モンスターの血杯鳥(キラーペリカン)の群れでした・・


「うぉぉぉっっ」


「水、多い賞!」


「海だ」


僕達はそれまできた赤土(あかつき)大陸から隣の青土(あおつち)大陸の西の端、モストリーテ地方のとある海岸に来ていました。


目指すはこの地方の海底洞窟の先にあるというオーシャンピープルの神殿っ!



・・オーシャンピープルは、500年の寿命を持つ長命種。上半身はエルフ等と同じく僕達からすると高身長の種族ですが下半身は魚類のような姿をしていて、陸上では浮遊して活動することが多いようです。


魚類の特徴を無くした姿や魚類その物の姿にも変身できるようですが、魚類の特徴を無くすと変身を助ける魔法道具を使わないと消耗してしまい、魚類その物に変化してもやはり補助する魔法道具を使わないと理性を長く保てないとか。


このやや不安定な種族は、神が海中に潜む邪神とその眷属達に対抗させる為に創り出したと伝えられています。

実際、海底の各所に設置した海王(かいおう)の祠の力で邪神とその眷属のほぼ完封されていました。


しかし、永く海で暮らしたオーシャンピープル達は徐々に自分達以外の陸の種族への関心を失いまた疎ましく思い、会得した水の真理の力、水棲種族支配の真理の力を高める為に全ての陸地を海に沈めようと画策し、2000年前に世界に破局をもたらしかけました。


恐るべき種族ではありますが、彼らや彼女達が滅びたことで海王の祠の力が年々弱まり、世界中の海で海の邪神の力が高まりだしていて、僕達フェザーフット族が利用できる海域や海辺か減りつつありました。



なのですが、まずは買い物! 転送門から一番近いモストリーテ地方の漁村で、僕達は砂漠やノーム神殿の道中で得た売れそうな素材を売却して、取り敢えず水と毒に耐性を持ち水中でも泳ぎ易い性能の潮騒(しおさい)シリーズの帽子や服や靴等と騾馬を買い直し、

他には地図等の資料も念入りに買いました。念入りにしたのはオリィがまた現地野伏によって試験漬けにされることを警戒したからです。


追試したくないから予習する。


とのことで漁村を出て2日、僕とマイサも付き合い、取り敢えず海底洞窟の入口のあるニニユ岬へと騾馬で街道を移動しながら資料を読み込み、互いに出題し合ったりしていました。


都会の高等学校の受験をする中等学生みたいですね。ネムリ郷では年に1人か2人くらいでしたが。


僕が200年程前のこの地域を統べるナーンド国の国軍が、邪神の干渉を受けた死霊の船団との海戦で取った大胆な戦術を出題していると、


「ん、何だ?」


「野伏っぽくない?」


街道の向こうの坂道から人を乗せた騾馬が4頭、速足で駆け降りてきました。マイサの言う通り何となく潮騒シリーズっぽい装束でもある野伏風の3人と、フードを目深に被った人物でした。

殺気の類いは感じません。僕達達はその人達を待つ形になりました。


「早々にノーム神殿から飛んだと聞いたのに、何をちんたらしているのかぁ! お前達ぃっっ!!」


先頭の人が凄い勢いで騾馬の上から食って掛かってきました。


「え~?」


「いや急ぎはしていたのですが・・」


「だから試験勉強をさ」


「はぁ? 試験? はぁあ?? 待てお前達! 人違いじゃないだろうな? クレストを見せてみろっ」


他の2人と顔を見合わせてから僕はジェミニクレストを見せました。


「人違いじゃ、ない! 紛らわしいことを言うなっ」


「あの、ですから」


「俺はモストリーテ地方の野伏の頭目ジゴ・ランドッグ! こっちは昨日復活した一番近いノームの遺跡から出てきたヤンベだ。協力と偵察をするつもりだとさっ」


凄い勢いのジゴさんはフードを被っていたたぶん女性? を示しました。フードを取ると最後の王達よりは若いけどちょっと他種族には年齢がわかり難いノーム族でした。


「遺跡から出てきたとか偵察というのは随分だが、否定はできないところだね。私はヤンベ・ルストトイ。神の使徒には当然協力する。少なくとも邪神の眷属どもよりオーシャンピープルの方がマシだしね」


どうやらノームが協力してくれるようですが、先回りされた形で、ちょっと複雑に感じもしました。


それから僕達はてっきりジゴさんの宿営地に行くのかと思ったら「遠いし、野伏と山羊がウロウロしてるだけ」と面倒がられて、まず途中の大きめの町に寄ることになりました。

野伏の頭目の地域差の激しさに僕達は戸惑うばかりです・・


水棲の魔物に効果の高い雷属性のスタンナイフを3人分買い、それから僕は迅雷のブーメランとスパークキャッチグロープ、オリィは紫電の手槍、マイサは稲妻のワンドを購入し、水気の多い場で自分が感電しないように雷避(かみなりよ)けの腕輪も全員買いました。


総額はそれなりですが、砂漠と違って武具以外の持ち道具は特に変わった物はなかったです。

その後、宿は取ったのですが、せっかちなジゴさんに、


「まだ日も暮れてない、雷属性武器の使い方を練習してこいっ。いや、俺も行く!」


と言われ、なぜかジゴさんも参戦する形で近くの海辺で魔物と軽く交戦することになりました。

若布鬼ウォーキングシーウィードの群れです。「ちょっと増えてるとこある」と言われて行ってみたら20体以上いて困惑させられました。


冒険家カーメン・ストレイシープの手記には「昨日の宿で出されたワカメのサラダのせいで腹の調子が悪い。俺はコイツをウォーキングシーウィードではなく『下処理甘いオリーブ油まみれ野郎』と呼んでやりたい」とあります。八つ当たりですね・・


「有毒で水を操る。装備の性能に頼り過ぎるなよ? 絡め取られると厄介だからな! んんっっ、時よっ!」


ジゴさんは真っ先に自分に加速魔法(クィックムーヴ)を掛けてウォーキングシーウィードの群れに突進してゆきました。性格通りの戦い方!


「このパターンは初めてだが、遅れを取ってられねーぞっ。盾よ!」


ディフェンドの守りを僕達3人に貼るオリィ。


「だね。剣よ!」


僕は先行したジゴさんに当たらないように気を付けながらエアブレイドの魔法を撃って牽制しました。

あれ? 半端に風で刻んでもすぐくっ付いちゃいますね?? ジゴさんも雷属性の鉤爪、雷獣爪(らいじゅうそう)で仕止めていました。


「ジゴさん動き速過ぎて当てちゃいそう・・」


マイサは慎重に稲妻のワンドに電気を溜め始めました。


ウォーキングシーウィードも毒の海藻の触手? を振り回し、周囲に発生させそのまま浮遊させた海水を操って激しく撃ち出して反撃を始めました。これは確かに先制されたり囲まれると危ないですねっ。

なのですが、


「よしっ」


ジゴさんは6体仕止めて、オリィが紫電の手槍を手に突進し、僕も迅雷のブーメランで2体切り裂いて感電させて倒すと、


「後は上手くアレしろ!」


弾かれるように素早く飛び退いてあっさり戦線離脱してしまいました。


「えー?」


「試すことは試すんですねっ」


オリィは触手の多さに、僕は周囲に浮いてる海水が邪魔で軌道をズラされ減速させられたところをブーメランを触手で叩き落とされてしまい、あたふたしてしまいましたが、


「オリィっ、逃げてね!」


「おっ?」


(いかずち)よぉ!」


マイサが電撃魔法(サンダーボルト)を放ち、


「だぁ~っ?!」


周囲の水分も利用して纏めて感電させてウォーキングシーウィードの群れを壊滅させました。

オリィもブッ飛ばされてましたけど。


「百発百中賞っ!」


「おーし、片付いたな! 潮騒の防具で毒は防げるが海水に電撃を撃つとガスが出るからな、あんまり吸うなよ? 普通に体調悪くなるぞっ」


「うッス・・」


「浮遊物が多かったりすると、ブーメランは難しいなぁ」


色々勉強にはなりました。ついでに素材集めで少しは旅費稼ぎにもなったかな?


宿に戻って湯浴みと平服への着替えを済ませると、早々に部屋に来て全員集めたジゴさんは前置き無く、


「神殿へ向けてニニユ岬から海底洞窟へ行くらなら近くの祠で大昔オーシャンピープルが従えた聖獣を代々封じている一族がいる。守人(もりびと)だな。そっちを先に当たろう!」


と今後の話を進め出しました。

この時点ではもうこういう人だ、と僕らも慣れてきてます。

というか、聖獣の守人??


「守人はまぁ上手くやるとして、そのオーシャンピープルどもの神殿だがね」


昼間はジゴさんに「ノームを見とけ!」と置いてかれたジゴさん付きの野伏2人と、宿に残ってずっと資料を見たり、ゴーレムや機械の魔法道具をイジっていたヤンベさんが切り出しました。


「乏しい資料だが、おそらく神の力で護られた最深部以外は邪神の眷属、海魔(かいま)族どもに占拠されていると推定できるよ」


「マジで?」


「嘘ぉっ」


「海魔族・・」


「確かに他の地域と比べるとニニユ岬近くで目撃されるのは多い気はしてたな。う~む」


これは面倒になりそうです。

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