ノームの復活 後
砂にまみれた、抽象的な装飾で塞がれた巨大な扉でした。
「あたしらが西3番口も呼んでいる、まだ生きてる入口だ。爆弾20発でもビクともしない。通常、神殿の破損部の状況のいい所から入ってるけど、ここから入れるならかなり祭壇があるはずの深部まで近道できる」
「やってみます」
僕はジェミニクレストを扉に向かって掲げました。閃光を放つジェミニクレスト!
これに反応して、扉の装飾は浮き上がるように動いて端に寄り、その下の扉本体が露になると、独りでに開きました。
内部は所々今では高価なマナ灯が点いていました。
「おっほーっ、すげぇ」
「自動で開くドア賞!」
「2000年塞がった扉がこうも簡単に・・」
アミールさん達は開いた扉を調査したそうでしたが、今は先を急ぐことになりました。
内部は自己修復したゴーレムが健在な所は他の魔物はいません。
ひたすら、ゴーレム、ゴーレムっ、ゴーレム!
「ほっ」
「おっらぁー!」
「よいしょ~」
なるべく避けはするのですが、もういちいちまともに戦ったりしませんっ。僕達はずっと温存してきた爆弾を投げ付けまくりました。
小型個体は普通に戦った方が早いのですが、それ以外はちょっと面白くなってしまうくらい簡単に炸裂させて倒せます!
大型は一撃では無理でも内部にある核を露出させれば後はどうにでもなりました。
「無駄撃ちはダメだよ? 何があるかわからないんだから」
「はーい!!」
僕達は爆弾とアミールさん達の案内で思ったよりサクサクとノームの神殿を進み続け、最深部の祭壇のある広間に続く扉の前まで来たのです。
「この扉の施錠もその聖印で外せるはずだけど、この先の状況は不明だよ? この2000年の探索で、類推はされていてもね」
「具体的に確認したいです」
「まず祭壇の間自体は強固な造り、といより上手く観測できない特別なマナで保護されてる。おそらく神による物だろうね。ここはまぁあんた達が来た時点で問題無い。ただその前の広い空間はおそらく、かなり深い位置で底が抜けてる」
「え~?」
「マジかよ」
「外と繋がってるんですか?」
「そうなるね。ドワーフ族との争いでやられたらしいけど、問題は内部にいたはずの強力なゴーレムの守護者の反応が、300年くらい前から無くなってるんだよ。外に出た風でもない」
「外から何か強力な魔物が入り込んでる?」
「あり得るね。ここは特にマナが強いし、巣穴にしてしまえば安全だ。最悪、中の状況を確認して、すぐに神殿内に確保してある魔除けの野営地まで引き返してもいい」
僕達は予測できる状況を何通りも出してから、ジェミニクレストで扉を開けました。
「っ!」
その結界で覆われた入口の前の砂に埋もれた砦が1つすっぽり収まりそうな空間の端に、
メチャクチャに引き裂かれ胸部にあったらしい核も破壊された超大型ゴーレムの劣化した残骸と、
それに絡み付く形でミイラ化して高濃度のマナの影響で全身に結晶化が起こっているサンドサーペントの死骸がありました。
「相討ち、か。なるほどね・・」
「感心してる場合じゃなさそうだぜっ? アーミンさんよ!」
僕達に感付いた小型、と言っても馬車に巻き付けそうな大きさのサンドサーペントが数十体が砂の中から現れ、さらに、
ズズズズッッッ!!!!
砂中から超大型ゴーレムと相討ちになった個体と同じくらいの大きさのサンドサーペントも現れましたっ。
「来た最初に見たのかも??」
「どうするんだい? ロッカ! 腕利きの野伏を大勢集めから出直すかいっ?」
「くっ・・やるだけやってみますっ!」
これからもきっとこんな感じですっ。対応できないと!
「わかった。一先ず小型の群れはあたし達で引き受けたっ!」
アーミンさん達は爆弾を投げ付けつつ、小型サンドサーペントの群れに対応を始めました。
「オリィ! マイサ! 一応、こういう感じも想定してたっ。冷静に行こう!!」
「了解!」
オリィがディフェンド、マイサがレジストを掛けて3人の守りを固め、僕が風の足魔法を掛けて3人全員の足元に旋風を付与します。
これで高速移動や跳躍、滑空制御ができるのですが、調整は難しいです。でも、3年間に僕らはたくさん練習しました!
サンドサーペントの弱点は脳と心臓。頭の外骨格は硬いですが、胴体上部の腹側にある心臓を攻撃しようとすると相手の正面から対峙するハメになります。
僕達は頭を狙うことにしました!
「冬のワンドよ!」
マイサは杖にマナを溜め始めました。
「オラっ、こっちだぁ!」
相手の大きさに対して、手槍では厳しいので爆弾を投げつつ陽動に専念するオリィ。サンドサーペントは口から吐く砂の息を収束させた、何でも切り裂く砂の刃をオリィ吹き付けますっ。
「どぅあっ?!」
必死で避けるオリィ。レジストの障壁が擦ってる!
僕はガストの魔法で風を操り、その風に載せて口元や右側面にぶつけて炸裂させました。
砂の息を止め、右側に注意を取られるサンドサーペント。
僕は左側から回り込み、回収を考えず、全力で、吹雪のブーメランを投げ付けました。
ガッ! 左目に命中っ。すぐに目の水分が凍結して炸裂して、サンドサーペントの左目は破裂しました。
「ヂィヤアァァーーッッッ!!!」
吠えて巨体で大暴れするサンドサーペント!
本能的に当てようともしてくるので僕もオリィもちょっと擦ってしまいます。ディフェンドが一撃で殆んど剥がれてしまいましたっ。
弾かれた先で小型のサンドサーペントが襲ってきて、僕は慌ててアイスナイフで眉間を刺して仕止めました。
動きを抑えないと、胴体は先に立て直したオリィがありったけの爆弾で多少は抑えてくれています。
「剣よ!」
僕は狙いを定め、傷付いたサンドサーペントの左目にもう一撃、風の刃で入れて衝撃を与え、たぶん脳震盪を起こさせて、痺れたような状態にしました。ここですっ。マイサが杖を振るいました。
「凍えて!!」
最大のマナで、マイサは冷気を流血するサンドサーペントの左目にぶつけ、内部から霜柱を噴出させて頭部の上半分を吹き飛ばし、トドメを刺しましたっ!
「やったっ」
「しゃー!」
「百発百中賞!!」
「ホントに3人だけで倒したのっ??」
大喜びする僕達に粗方小型サンドサーペントの群れを仕止めていたアーミンさん達は呆れていました。
・・時が止まったような最深部の祭壇の間の扉をジェミニクレストで開けて、中に入りました。
その中央の台座には大きな宝玉があり、そこに8人の古風なローブを着た、様々な資料で見たノーム族その物の人達が眠っていました。
「いや、8人だけ?? 全員結構な爺さん婆さんだしっ!」
戸惑うオリィ。
「大丈夫だよ? ここに封じられているのは、ノーム達の中でも改心して神に許しを乞うた最後の指導者達の生き残りさ。同じく、争いを止めようとしたノーム達十数万人が世界中のノームの遺跡で眠っている。この人らが甦れば順次それも甦るって話」
そういう感じなんだ。
「・・よし、じゃあ。皆、やってみる!」
僕はおずおずとジェミニクレストを掲げました。
閃光!!
オーブは砕け、マナに包まれノームの最後の指導者達は床に降り立って、目を覚ましました。
「おお・・」
「再び目覚めたのか??」
「神よ」
ノームの指導者達はまだ混乱しているようです。ここで、マイサが星降り祭の夜のように光に覆われ、表情が替わりました。
「ノームの最後の王達よ」
「! この神気っ、レイミーアズス神様??」
慌ててマイサ? に平伏するノームの指導者達。
「あれから2000年の年月が経ちました。その後の歴史はそこのアーミン・レッドラグーン達に聞くとよいでしょう。貴方達の罪が忘れ去られた訳でもありません。しかし、それでも時は過ぎました。贖罪はその意志と行動を持って為しなさい」
「ははあっ!」
「仰せのままにっっ」
「貴方達に上位神聖魔法の使用権停止と、全てまでは奪いませんが無機物への完全支配の真理の忘却を課します」
「当然です」
「寛大な処断に感謝します」
「・・今度こそ、善き人類足りなさい」
マイサから神の気配が去り、一瞬気を失ったから僕とオリィで支えました。
復活したノームの指導者もアーミンさん達もまだ当惑したままではありましたが、小一時間後、僕達は取り敢えず復旧させられたとなりの大陸の海辺、モストリーテ地方への転送門に乗っていました。
「慌ただしいね」
「我々ノームは、オーシャンピープルの復活には賛同しかねるが、神の意志であるならば致し方無い」
そう、次に復活させるのはオーシャンピープルです!
「何とかなるなるっ」
「初、海を見る賞!!」
「アーミンさん、ノームの皆さん。僕達は眠った種族を復活させるだけで、後のことは何もできません。色々・・がんばって下さい! それじゃっ」
転送門は起動し、僕達は新たな土地へと旅立って行ったのです。