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ノームの復活 中

そこはオアシスその物でした。蒸発の効果で気温もここは少し低いです。人口は数十人程度で遊牧民の姿も無かったですが、ワルカ郷より水と緑が豊富で規模大きく豊かでした。

僕達は屋根付きの屋外喫茶のような所に通されて、甘くて冷たいミントティーを御馳走になりました。濃厚な香りです。


「いいとこ、というか長く使われているんじゃないですか?」


そう、テントもあることはありますが、しっかりした年季も入った土壁や木の建物が多く見られました。今居る喫茶もそうです。


「簡易な所も勿論あるけどね、砂漠の野伏の宿営地は固定なんだ。あたしらはオアシスを育ててる」


「オアシスを育てる?」


「単純に言えば緑地を少しずつ増やしている。地下水の量が増える。気温を下げる。雨が降り易くなる。土や泥を生産する。何より、砂漠の拡大を防いでいるんだ。代々、もう1000年以上は続けてるよ」


「1000年? マジかよっ、というかそんなに続けてんならこの砂漠、とっくに全部森になってるんじゃねぇか??」


「確かにどこからも横槍がなければそうなっていただろね。けど、この地で暮らすのは野伏だけじゃない。普通の人々が大半だ。そして彼ら彼女らはもう1つ計画性という物が足りない」


アミールは顔をしかめました。


「オアシスを見付けると、人口過剰に農地過剰。権力者の保養地や根城化してしまったりする。まぁ保養地のようになると取水は少ないけどその内、揉めるから。どこも長くは持たないんだ」


若々しく見えるアミールさんですが、急に疲労の濃い表情をしました。


「水源と地下水路を長期的に維持するのも難しい。これも揉めるから。あたし達がオアシスを各地で育て、時々の権力者と交渉して必要に応じて育てたオアシスを売却する、という繰り返しなのさ」


「砂漠の野伏は気苦労が多そうだな」


「いや、砂漠は魔物の大繁殖は起こり難かったり小規模であったりはするから、結局地域ごとの特有の負荷の差異だね」


僕達の出身のテウガー地方は気候も良く概ね安定していますが、竜系の魔物の棲み処が点在していて、タクミさんの左目の傷も竜族との交戦による物でした。


「で、アミールさん。そろそろノームの神殿攻略に必要な物、ていうの教えて下さいよ?」


干し葡萄を摘まみながら聞くマイサ。年々、押しが強くなってる気がします・・


「ふふ、いいよ。持ってきて」


御付きの方に支持すると、荷車で山盛りっ、それは運ばれてきました。丸く、オレンジぐらいの大きさのそれは、


癇癪玉(かんしゃくだま)・・いや爆弾、ですか?? うそぉっ」


思い切り禁制品です。しかも小型化改良しています!


「一応あたしらが使う分にはヒバ国の許可は取ってる。又売りは御法度だけどね? ふふ」


「すげぇっ」


「こんなに大量の爆弾・・魔物対策ですか?」


人型魔法傀儡(ゴーレム)だよ。ノームはゴーレム達を使役していた。各地のノームの遺跡にもまだしつこく動いてたり自己修復したのがいるけど、神殿にはゴロゴロいるってワケ。アイツらには氷の武器はあまり意味ないから、爆弾を使うのが一番手っ取り早いのさ」


「なるほど」


合理的ですね。まぁ普通は動きが遅くて身体の大きなゴーレムだから通用する手何でしょうが。


「代金はさっきの蟹でいい。神殿まで案内もしよう。ただその前に、ロッカ、マイサ、オリィ。あんた達にはノームとこの地域についてもう少し勉強してほしい。本当の所、現地のあたしらは納得いってない。ヒバ国に知られたら確実に国軍を出されるくらいさ」


確かに、出発までの3年と道中調べた範囲でも相当な物でした。


「どうぞ」


御付きの方が固い表情で別の荷車に今度は山程の本や巻物を積んで来ました。


「ざ、座学か。オアシスの蘊蓄(うんちく)で既に腹一杯だぞ・・」


「私、得意!」


「頑張ろう」


僕達はそれから5日、みっちりノームとカルトパ地方、ヒバ国について学ぶことになったのでした。


知識の確認は普通に『筆記試験』が行われ、マイサは1発合格。僕は追試1回。オリィは3回目の追試の途中で宿営地から脱走しようとしたので僕とマイサで捕獲し、さら3日後の7回目の追試で合格と相成りました・・


「よし、わかった。俺がヒバ国の下級文官になれば皆、納得するんだろ? そうなんだろっ?」


「誰もそこまでは言ってないから」


「アミールさん達に言えないからって、私達にグズるのやめなよぉ。せっかく、ギリギリ秀才賞としてナツメのパウンドケーキ焼いてあげたのに」


「20回くらい脳がパーンっ! てなったからな、今日はケーキ食って1日寝るっ」


「ケーキは食べるんだ・・」


情緒が飛んでしまったオリィが回復するのに実際1日掛かってしまいました。


カルトパ地方の辛酸やヒバ国の戦乱を繰り返す歴史はその祖先がノームの奴隷であったことや、世界崩壊後に砂漠を無数に徘徊した残存のゴーレム達から地域を奪い返すのに数百年を要したことを除けば、世界中の砂漠地帯で暮らす人々の歴史とそう変わりの無い物でした。


しかし、その類型も、細々と体系だって拾い上げて確認すれば、事実の積み上げの連なりが今日に繋がってることが感じられました。

本職の学者はむしろ現実よりも知識の方に耽溺してしまう物なのかもしれませんが、僕達は臨時の書生です。


見たまま、ただの砂漠の景色が別物のように鮮やかでした。


そして、ノーム族・・


寿命300年の長命種。フェザーフットより少し背が高い程度の小柄な種族で、少し癖の強い風貌で他種族から見ると成人のノームは年齢がわかり難かったようです。

マナと信仰心が強くて、研究熱心。元々は星の女神に使える神官の種族だったといいます。

しかし、彼らは無機物を自在に使役する真理と、門から門へと物を空間転移させる転送門(てんそうもん)の真理を会得。


そのゴーレムの武力と労働力。転送門の圧倒的な機動力と運搬力で世界に覇を唱え、神への絶対信仰を強制する神聖人類国家の建国を目指して大戦争を起こし、2000年前の世界に破局をもたらしかけました。


「そんな種族を復活させるのかい?」


ある夜、アミールさんはマイサに問いました。


「・・それが、神の意志です。あるいは、レイミーアズス様は私達フェザーフットだけではやがて滅びてしまう、と思っているのではないでしょうか?」


アミールさんにはっきり答えるマイサ。


「同じこと何じゃないか? フェザーフット同士だってしょっちゅう争ってるワケだし。俺はひねくれてるのかもしれないが、フェザーフットだけが特別とも思えねーんだ」


口を挟むオリィ。


「全て平和に済むとは思ってません。が、2000年前、ノームの優位性は無数のゴーレム軍と各地に張り巡らされた転送門があったからです。ノーム達は例え復活してもすぐにはかつての勢力は取り戻せないでしょう。各地で国家を形成した今のフェザーフット族なら、折り合いはつけられるはずです。それにこれからの旅で、一部だけでもまだ有効な転送門が使えると随分楽になります。時間が掛かり過ぎれば先に復活させた種族から完全復権してしまうかもしれません。この使命には速さが必要です」


あくまでアミールさんに説くマイサ。


アミールさんは目を閉じ、深々溜め息をついました。


「わかった。神殿まで案内はする。カルトパの野伏は他の地域の野伏とも連携してその後の状況に対応する。あたしら野伏は世界が変化し続けることを理解はしている」


どうやら納得してくれたようでした。



ノーム神殿はカルトパ砂漠の中心部のヒバ国によって禁域とされた場所にあります。ヒバ国関係者以外で入れるのは野伏だけです。


神殿がある為に自己修復能力の高いゴーレム達が永遠に徘徊し、人の出入りがままならないこととゴーレム相手に生存を許された者だけが残った為、強い魔物も多く出没します。

いくつかある中心域への入り口以外は路面のある街道は設置不能で、強力な魔除けの杭が点在する広大な墓標のような空間でした。


ジェミニクレストが反応しています。


「ここから先は駱駝は怯えて使い物にならない。徒歩になるのとヤバい所は避けるから、神殿まで3日は掛かるね」


「3日?! 地図で見る分にはそう遠くないようだぜ??」


「距離はね。何なら見えるようになっても中々着けないから、覚悟しといて」


どうやら簡単にはゆかないようでした。入り口の街道の端の杭の所で仮設の野営地を作って駱駝の番をする御付きの野伏の方3人と別れ、

僕達とアーミンさん、腕利きの御付きの2人は徒歩でマナが強く、所々発行分現象やマナ付きの霊石の原石等が露出する、カルトパ砂漠の中心部へと入ってゆきました。


数に限りがあり派手な音がする爆弾はまだ使わず、戦闘自体なるべく避けて僕達は進んでゆきました。

魔除けの杭は点在しても、数は明らかに足りず、破損している物もあり、隙間だらけです。長々戦ってると他の魔物やゴーレムが寄るので戦々恐々としてしまいます。


2日目になると大きな神殿の遺跡が見えてきましたが、アーミンさんの言う通り、なるべく安全に進もうとすると中々、近付けません。

ゴーレム達の出現頻度も増してゆきます。


遭遇した限りではゴーレムの体長は1,8ベル(1,2メートル)から7,5ベル(5メートル)でした。4,5ベル(3メートル)級が一番多かったです。小型の物は弱くても結構素早くて厄介。


緊張すると戦闘を避けて移動しても冷や汗をかきます。

アーミンさん達はさすがに慣れていましたが、マイサは特に暑さが苦手で、砂海シリーズの装備でも熱気を凌ぎ切れず繰り返し魔除けの杭で休憩を取る必要がありました。


「ふぃ~・・・愛らしい干物賞くれてもいいよ?」


「はいはい」


そんなやり取りもしつつ、僕達はノーム神殿の入口の1つにたどり着いたのです。

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