ノームの復活 前
騾馬でテウガー地方から草原ばかりのスノォン地方に入り、途中で国境を越えてヒバ国の領内に入ります。
僕達はテウガー地方の野伏、ということになっていますが手続きは一応必要なので、入った所から一番近いスノォン地方の野伏の野営地に寄って、手形をもらいました。
ここでノームの神殿のある砂漠では水の魔法素材等が貴重になって値段が吊り上がることと、現地ではノームの悪評の伝説何かが根強いから野伏以外には目的を知られないように念押しされました。
僕達は草原帯を出る前に水の霊石を買溜めし、現地での振る舞いには気を付けようと確認して砂漠を目指しました。
スノォン地方からカルトパ地方に入ると乾燥が強くなり、荒地のような地形に変わってきました。
「街道を外れて近道をするのはもう止した方がよさそうだね」
「騾馬が持たねぇ。というかそろそろ駱駝に乗り換えた方がいいな」
「装備も変えようよ。昼間は暑いし、夜は寒いし」
「そうだね。近い郷にも寄りたいけど・・マイサ、ブリキの鳥を使ってくれる?」
「うん」
マイサは腰に付けてる物を出し入れできる魔法道具ウワバミのポーチから、ブリキでできた鳥の玩具のような物を取り出しました。扱い難い魔法道具ですが、マイサは得意です。
「お願いね!」
マナを込めてブリキの鳥を空に放ちます。ブリキの鳥は羽ばたき、高度を上げてゆきました。
目を閉じるマイサ。
ブリキの鳥は使用者と視覚を共有して偵察できる魔法道具です。同じ効果の魔法もありますが、特別な適性がない限り負担が大き過ぎるので普通はこの魔法道具を使います。
「・・あ、郷あった。位置は地図と大体おんなじ。ちょっと小さいし、駱駝は・・まだここだと飼ってないみたいだけど、乾燥地の装備くらいはあるかも? 途中に魔物もチラホラいるけど、街道を行けば問題ないよ。道が地図よりちょっと入り組んでるけど」
地図は位置の誤差や、大きな道しか載ってなかったり高低差がなかったり、幅や状態がわからなかったりするので、定期的に空から様子を見た方が確実です。
僕達はマイサがブリキの鳥で確認した郷で、熱や日差しや砂粒に耐性のある砂海の服、砂海のマフラー、砂海の靴等の砂海シリーズの装備を購入しました。
それから僕達は砂漠に向かって進み続け、間のいくつかの郷で砂漠の知識の本や、ノーム族に関する本、氷の属性のアイスナイフを1本ずつ、騾馬の代わりの駱駝等を購入しながら旅を続けてゆき、
ネムリ郷を再出発してから約1ヶ月後、ついに、岩肌が剥き出しの谷を抜けた先に、
「砂漠だぁっ」
「おお~」
「乾燥し過ぎ賞!」
思ったより岩場も多い、白い砂の丘陵が延々と地平線まで続く、ヒバ国のカルトパ砂漠にたどり着きました。と、
ズズズズズ・・・・ッッッ
地響きがして、遥か彼方の砂の丘陵から巨大なムカデと龍の中間のような魔物が噴出し、大き過ぎて緩慢に見える動きで再び別の砂の丘陵へと突入してゆきました。
「砂海龍っ。あんな大きく育つんだ」
「・・アレはやめとこうね」
「今の装備だとちょっとキツいぜ」
僕達は戦々恐々としつつ、サンドサーペントが出た方位は避けて砂漠へと入ってゆきました。
砂漠ではあまり使われない街道や単純に場所が悪いと、道はすぐに砂に埋もれてしまいます。多くを占める砂の水槽状のエリア等は道の路面を作ること自体ができないこともあります。
なので砂漠では路面のある道の代わりに、あるいはその補強に、長い魔除けの杭を一定間隔で立てて代替えとしている所が多いです。
杭周辺は簡易な魔除けの野営地にもなりますが、杭と杭の中間地点等は魔除けの効果がボヤけるので注意が必要でした。
僕達は時々マイサのブリキの鳥で確認しながら殆んど人気の無い砂漠を、魔除けの杭から杭へと進み、日が暮れる頃にどうにか僕達のルートで一番最初の砂漠の郷、ワルカに到着しました。
小さな郷なのに思ったより人口が多いです。箱みたいな簡素な土壁の家が多いですね。食堂でそれとなく話を聞くと、「用も無いのに砂漠を出歩くヤツはいない」とのことでした。まぁ、ですね・・
シンプルだけどスパイスが強くてこってりした料理と、穀類の粉を練って刻んで茹でた物と炊いた穀類を一緒に食べる習慣が独特で、
「美味しいけど・・」
「濃いな」
「この環境だし、ガッシリした体型の人が多いから基準が違うのかもね」
戸惑いつつ食事を終え蒸し風呂屋と洗濯屋でさっぱりすると、
砂漠に入るまでには結局手に入らなかったナイフ以外の氷属性の武器を郷で探すことなりました。
道中マメに魔物や野外で採集できる素材を換金していたので蓄えはそこそこあります。
野兎の革を集めて売っていた頃からするとちょっと信じられないですが。
武器は、予想の1桁上とまでは言いませんが、2倍以上はしました。また、コツコツ稼がないといせません・・
僕は吹雪のブーメランと凍て付くキャッチグローブ。オリィは氷柱の槍。マイサは冬のワンドを購入しました。装備はこれで何とかなりそうですね。あとはノーム神殿について下調べして、
「気前良く買ってたけど、その装備だけじゃ厳しいね」
武器屋で買った装備の様子を見ていると、他の客に急に話し掛けられました。褐色の肌の、鍛えた身体の年上の女性です。
服装は砂漠風ですがこの装束は・・
「野伏の方ですか?」
「まぁね。あたしはアミール・レッドラグーン。このカルトパ砂漠の野伏の頭目だ。ここじゃなんだから、詳しい話は宿営地でするよ? ちょっと遠いけどね」
正直、郷で1泊は休みたかったのですが、僕達はアミールさんとすぐに合流した御付きのカルトパ砂漠の野伏数名の方達と、ワルカ郷をすぐ出発することになりました。
全員駱駝で、途中の魔除けの野営地や魔除けの杭の側で合わせて2泊して、マイサのブリキの鳥で遥か遠くに緑の多い宿営地を発見できる所まで来ました。
「ブリキの鳥を器用に使うのはよくわかった。ここまでで気の好い子達っていうのもね? だが腕試しはまだだ。この近くに最近、個体数が増え過ぎた大砂蟹の巣がある。そこを抜けてゆこう」
これは試験ですね。僕達は頷き合いました。
「望むとこだぜ!」
「いいですよ」
「ブリキの鳥だけじゃないもんっ」
僕達はサンドペンチ狩りすることになりました!
サンドペンチは岩のような外骨格を持つ、胴体が縦に1,5ベル(1メートル)横に2,25ベル(1,5メートル)は蟹型の魔物です。
横方向にしか素早く動けないけど、そのハサミは駱駝を一撃で切断するといいます。
冒険家カーメン・ストレイシープの手記でも「ちくしょう! 10万ゼムで買った駱駝がヤられたっ。真っ二つにしてムシャムシャ喰ってやがる。俺はコイツをサンドペンチではなく『10万盗みハサミ野郎』と呼びたい」と書いています。
そんなサンドペンチ群れと駱駝から降りている僕達は対決ですっ。
アミール達は丘陵の上で僕達の駱駝も連れて様子を見ています。
サンドペンチの群れ砂中から閉じた目の辺りやハサミだけ出して眠っているようです。月に数回の狩り以外は獲物から近付かない限りはほぼ眠っている生態ですね。
「野伏の界隈ってすぐこうだよね?」
「ちょっと野蛮だと思う」
「上等だぜ」
3人でボソボソ喋ってから、僕達は攻勢に掛かりました!
「盾よ!」
「剣よ!」
「凍えて!」
オリィはディフェンドの魔法を全員に掛け、僕はエアブレイドの魔法を向かって前衛になる5体に掛けて目を切り裂き、マイサは凍結魔法で前衛以外13体を霜だらけにして牽制したっ。
堪らず砂中から飛び出してくるサンドペンチ達。オリィが突進する中、僕は吹雪のブーメランを投げ付けました。
ガガッ! ブーメランは前衛3体の甲羅にわずかにヒビを入れただけでしたが、同時に体内の水分が凍って甲羅を突き破って周囲に大きな損傷を与えました。効果抜群っ。
「おりゃっ」
弱った前衛3体をオリィが素早く氷柱の槍で深く突いて内部で氷を炸裂させて仕止めてゆきました。
後半少し乱戦になって反撃されたりもしましたが、この要領で次々撃破してゆき、僕達はサンドペンチの群れを全て倒したのでした。
「いい手際ね! 氷属性の武器何てマナを吸われるだろうに」
どうやら今回も合格ですっ。ふふん。
「サンドペンチの素材はそこそこ売れる。これだけ量もあるし。ノームの神殿を攻略するのに必要な物を十分買えるね」
「だからそれ何だよ? えらくもったい付けるな」
「もったい付ける、というか郷では言い辛くてね。まぁ宿営地はすぐそこだし、素材の回収を済ませよう。あたしらも駆除の手間が省けた。手伝うよ?」
僕達はサンドペンチの価値の高い部位を解体して回収してから、アミール達の宿営地へ向かいました。