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星降り祭 後

ブローピーカブー、体長90ドシコベル(60センチメートル)程度のテントウムシ型の魔物。

土地のマナはあまり強くないけれど、草木はある野外ならわりとどこにでもいる。時々大繁殖するから自警団が総出で狩りに出ることもあります。


そんなに強くないけど名前の通り猛烈な勢いで飛んで突進してくる性質があって、危ない。


冒険家カーメン・ストレイシープの手記にも「ヤツの突進は確かに俺の肋骨にミシミシとヒビを入れやがった。俺はブローピーカブーではなく『脇腹イナズマ野郎』とヤツを呼びたい」とあります。


ブローピーカブー4体は、ほとんど骨だけになった蝿の飛び交う鹿か何かの死骸に集っていました。


タクミさんは離れた茂みでクロスボウを持って控えています。僕達は草地にあった岩の陰に隠れていました。


僕の武器はいつもの杉のブーメラン、魔法は突風魔法(ガスト)。オリィは石の穂先の手槍に防御魔法(ディフェンド)。マイサはマナを軽い衝撃波に変換する杖のノックワンドに治癒魔法(ヒール)


僕達の魔法は未熟で咄嗟には使えません。魔法は一戦一手(いっせんいって)でしょう。作戦は打ち合わせ済みです。

僕達は頷き合い、実行に移しました!


「盾よ」


オリィがディフェンドを自分に掛けます。マナに反応して一斉にこちらを見るブローピーカブー。


「唸れ」


その真横からガストで風を吹かせ、3体牽制し、1体はひっくり返りましたっ。


「えいっ」


マイサが一番最初に体勢を立て直して羽根を拡げた1体にノックワンドで打撃の衝撃を与えて妨害すると同時に、オリィが突進を始めます。


ブローピーカブー達がオリィに注目すると、僕は岩の逆側から出て、ブーメランをひっくり返ってジタバタしている1体に投げ付けました。


ブーメランはオリィを追い越し、倒れた1体の腹を裂いて仕止めました。

ブーメランに動揺した残り3体の内、マイサがノックワンドで牽制した1体を突き刺して仕止めるオリィ。


僕はキャッチグローブで返ってきたブーメランを受けます。

残り2体の内、1体はオリィにもう1体は僕に向かいますっ。オリィは間近から突進されましたが、ディフェンドのお陰でカーメンのようにノックアウトはされず耐えています。

準備していたマイサがすぐにヒールをオリィに掛けます。


僕に真っ直ぐ飛んでくる1体を僕の技量ではとても投擲では迎撃できません。


しかし、当たり前のことですが、ブーメランは握って殴った方が高精度でパワーもあるのですっ。


「ヤァ!」


突進を避けつつ宙に置くようにして、腹より硬い頭部を直に握ったブーメランで叩き割って仕止めました。


握力が足りなくてブーメランごと持ってかれて丸腰になってしまいましたが、オリィも最後の1体を仕止めていました。


「いいな! ドタバタしていたが、3日前まで素人の子供だったのに大した物だ。山査子のパイ、楽しみにしろよ?」


タクミさんから合格をもらいました。


「楽勝だぜっ」


「パイ獲得賞!」


2人は喜んでいたけど魔物の死骸が4体転がる草地で、僕は普通の暮らしが終わったんだな、と思っていました。


御褒美のパイは簡単な作りであまり甘くないけどナッツが入っていて、とても美味しかったです。



翌日、僕達はタクミさん達の宿営地が見下ろせる丘まで着きました。


「うおーっ? 野伏の宿営地だぁーっ!!」


「こんな広いのぉーっ??」


「凄い」


野伏の宿営地はある程度規模のある魔除けの野営地を中心に、野伏達が季節ごと組んでいる仮設の郷のような所でした。


何か揉め事がない限り、領主や国も設営に何も言えません。


建物は殆んどがテントで、小さな物は三角錐型。大きな物は円柱型でした。山羊や羊もたくさんいます。


「紛らわしいが、遊牧しているのは一緒に行動している遊牧民の連中だ。持ち回りで俺達の所に来る。俺達は食料等の物資を、遊牧民は魔物からの守護を得ている。情報を交換し合う意味もあるんだ。行こう」


タクミさん達は騾馬を進めました。


丘を降りてゆきます。と、マイサが自分が乗ってる騾馬の手綱を取る野伏の人に何か言って、その人が合図すると、僕、マイサ、オリィを乗せた騾馬は近くを歩み始めました。


「私、若い内に都会に一度行ってみたいって思ってたけど、ビックリしちゃった。でも、これからよろしくね」


「俺もだ。正直、家から離れられるなら何でもよかったけどさ、やるからにはやるぜ!」


「・・きっと、このクレストが導いてくれるよ」


僕は首から提げていたジェミニクレストを取り出しました。うっすらと輝き、また温かさを感じたのでした。



・・

・・・

・・・・年月が過ぎて、


僕は数え年で15歳になっていました。今の身長は222ドシコベル(148センチメートル)っ!


「ビィーッ!!」


鋭い鳴き声、胴体から頭までは大体4,5ベル(3メートル)尾も同じくらいの長さのワイアームが吠えて、僕に炎の息を放ってきました。


これはマイサの魔力障壁魔法(レジスト)で弾かれます。


「剣よ!」


風刃魔法(エアブレイド)で左右の翼と喉を傷付け、炎の息を止め、動きも牽制しました。


「セェァっ!」


岩トカゲのキャッチグローブで構えた獣骨(じゅうこつ)のブーメランを投げ付けて、右の翼を切断します。


たまらず落下してくるワイアームを回避しながら、回避位置を計算していたブーメランを受けます。そこへ、


「おりゃあーーーっっっ!!!」


鋼の穂先の手槍に電撃付与魔法(エンチャントサンダー)を掛けた、229,5ドシコベル(153センチメートル)に伸びたオリィが飛び付いて地べたで猛っていたワイアームの頭部を破裂させて仕止めました。


「癒しの光!」


僕とオリィに纏めてヒールを掛ける214,5ドシコベル(143センチメートル)のマイサ。皆、伸びたよね。


僕達は今、暮らしている宿営地の近くのとある岩場で2体のワイアームを仕止めました。


「いいな! 合格だ。何か、昔もこんなことあったな? ふふっ」


この3年の間に左目を失くして眼帯をしているタクミさんです。どこの宿営地に移っても忙しい人だから3ヶ月ぶりくらいに顔を合わせていました。


「明日、ネムリ郷に出発する。今の宿営地からだと着くのは2日後で、今さらと思うかもしれないが、1つの区切りだ。しっかり近しい人達に別れを告げてこい。まぁ、今日はワイアームの解体が済んだらもう休め。何なら山査子のパイでも作ってやろうか?」


タクミさんの山査子のパイは最初の時が最後でした。思えば凄く気を遣ってくれてたんですね。


「タクミさん、今日は僕達が夕飯作りますよ?」


「取って置きだぜ」


「いい教官賞だよっ」


「オイオイ、何だぁ? ワイアーム料理か?」


ワイアーム料理じゃないです。ネムリ郷の郷土料理を作るつもりです。ついでに山査子のパイも! すっかり手際のよくなった僕達は軽く祈りを捧げてから、すこし雑談もしながら、テキパキとワイアームの価値の高い部位の解体に掛かりました。


夕飯はタクミさんだけでなく、今の宿営地で居合わせた人達皆でちょっとした宴会になりました。


人の出入りは目まぐるしく、場所も何度も変わりましたけど、何だかんだで半分くらいは顔馴染みになっていました。


野伏の共同体は不思議です、根があるような無いような、この暮らしを選んでいる。その認識だけが故郷なような人達でした。


遊牧民の人達はもう少し部族の繋がりが強い物のようですが。


ほんの数年暮らしただけですが、何だかずっと昔からこの輪の中にいる気分です。



宴の後、僕達は高床式になっている食料庫になってる木製の高床式の建物の屋根の上に3人で寝そべって、星空を見上げていました。

夜風が気持ちいいです。


「ネムリ郷に戻るのは1年半ぶりだな」


その頃、酒量の増えたオリィのお父さんは亡くなっていました。僕は年に1度、マイサは半年に1度は帰っていました。


「3年前、最初に家を出た時、俺、親父を初めて突飛ばしたんだ。親父が、ああなったのは俺のせい何だろな」


言葉を間違えるべきじゃないと思いました。マイサが緊張しているのも感じます。


「そんなことない、って言いたいけど、そうなんだと思う。ミッカお婆さんの時もそうだった。良くも、悪くも、僕達は人の運命に関わってしまう。避けられないんだ」


「私もそう思うよ。それに・・これから私達がやらなくちゃいけないことも。私達は、最初からいないことを終わらせるんだ」


「許されることなのか?」


「最善を考えよう。少なくとも、考えるべき時は」


「そうだな・・だよな。よし! 俺も墓参りはしっかりするっ。それから俺達の仕事もきっちり始めようぜ?」


「仕事って、切り替え早い賞だよ」


笑ってしまうマイサ。


「ロッカ、本当に最初に復活させる種族を変更しないの? 私はやっぱり最初に復活させるべき種族はエルフだと思うんだけど」


エルフ族。フェザーフットより長身で、耳が長く500年の寿命を持ち、高い魔力と森の力と交信する力を持つ種族。


2000年前は世界各地の大地を支える柱の樹(はしらのき)を暴走させて、全ての大地の生物を柱の樹に呑み込ませて自然との一体化を強制しようとする破局を起こしています。


7つの種族全てが狂気に基づく世界を滅ぼす罪を犯していました。


「うん、この順番が一番いいと思うんだ」


首から提げてしまってるジェミニクレストの上に手を置きます。力を感じました。


「最初に復活させる種族は、ノームだ」


そう、この3年間、タクミさん達野伏の皆さんにも協力してもらって色々調べて、話し合って、決めていました。


砂漠の種族のノーム。彼ら、彼女らを、最初にこの世界に復活させることを。

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