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星降り祭 中

衝撃の後、ジェミニの光の中のマイサは別人のような冷たく厳しい表情で宙に浮き上がりました。

僕達は唖然とし、郷の皆はざわめきます。


「私は、レイミーアズス。貴方達が星の女神と呼ぶ者。織り成された(よろず)の歴史の必然と、星の巡りが、この郷から3人の使徒を選びました」


神が降りたマイサは畳んだ扇で僕を差しました。


「ロッカ・グラスクラウン」


続けてオリィを差しました。


「オリィ・サンダーロック」


それから扇を持たない方の手をマイサの胸の上に起きました。


「マイサ・ルナポート」


郷の人達がマイサだけでなく、僕とオリィにも注目します。何かの劇にいつの間にか出演することになったみたいです。


「3年後、この3人の子供達を私の使徒として、旅立たせます」


ざわめきが大きくなりました。僕とオリィはワケがわかりません。


「神よ!」


冷や汗をかきながら、助祭様が進み出ました。


「一体、子供達にどんな使命を授けられと仰るのです?」


「『ノーム』『エルフ』『ドワーフ』『オーシャンピープル』『ワードラゴン』『バルタン』『ロングフット』。子供達には、これら滅び去りし7つの種族を復活させてもらいます」


人々のざわめきは悲鳴のようになりました。


いずれの種族も神話の中に登場する、世界を一度滅びに至らしめた凶悪な種族達です!


「神よっ、それはあんまりです!」


「この世界の人間はフェザーフット族だけでよいではないですかっ」


「また世界が滅びてしまう!!」


「我々にまた小間使いと道化と奴隷の種族に戻れと?!」


「・・時が(ゆる)しました」


マイサに降りた星の女神、レイミーアズス様は光を集めて双子を形取った紋章(クレスト)を造り出しました。


「この世界はフェザーフットだけの物ではありません。種族として過去に罪を犯していても、その時が来れば、新たな世代の復活までを罰することはできません。あの者達の復活は、唯一生き残った人類、貴方達フェザーフット族の使命なのです」


鋼鉄のような表情です。赦しを与えるということはこんなにも厳しい物なのでしょうか? 誰もが黙ってしまいました。


「ロッカ・グラスクラウン、これを」


光と共に、双子座のクレストが僕に渡されました。

それは温かく、光その物みたいでした。


「あの、僕達ですか?」


何かの間違いじゃ??


「ええ、間違いなく・・旅立てば、そのジェミニクレストが貴方達を導き、滅びし7つの種族を甦らせるでしょう。小さな貴方たち、星の護りがあらんことを」


最後に少しだけ柔らかな顔をして、レイミーアズス神様の気配は光と一緒に消え、マイサは気を失って、羽毛みたいにふわりと地面に落ちてきたから、僕とオリィが駆け寄って受け止めました。



今年の祭はそこでお開きになって、僕とオリィ、それからあの後すぐに気が付いたマイサは里長の家にゆくことになりました。


助祭様、ネムリ郷の自警団の団長、商会の今期の会長さん、郷の薬師さん、元の野伏(のぶせ)のノイビンさん、あんまり関係無いけどたまたま居合わせて連れて来られちゃったらしい魔法道具の行商のゾットーさん、郷の長老さん達、マイサとオリィの親族の皆さんと、僕が世話になってる親戚の皆さんも来ていて、広い里長の家が狭いくらいでした。


「これは大事になってしまった神話には『いつか、目覚めを告げる者達が現れる』とはあったが、まさか本当に、それもネムリ郷から現れるなんてっ。他の郷や、国王に報せを出さないと・・」


「今夜は他の郷からも人が多く来ていた。これは騒ぎになるな」


「マイサには無理です! 普通の子なんだからっ」


「ウチのオリィも大したヤツじゃない、何かの間違いだろう?」


「ロッカはね、これ以上苦労することはないんだよ、せっかく教会学校にも通い直せだしてたのに」


「何はともあれ国教会の本部にも報せますっ」


「居合わせなかった全てのフェザーフットが同意するとも思えないな、警備は改めよう」


「私はただの行商なんだが、困るよ」


「皆、子供達本人の話を聞こう。まずは、神が降りたマイサだ」


ノイビンさんが、収まりがつかなくなっていた大人達に言いました。


「・・・星の、歴史の流れが見えた気がする。はっきりとは思い出せないけど、あの人、神様は哀しんでらっしゃった。一度世界が滅びた時。だから、取り戻したいんだと思う。失った、自分が産み出した、子供達皆が暮らす世界を」


マイサはもう僕達の知るマイサではないのかもしれません。


「私は協力したい。例えそれが、危険で、恐ろしいことでも」


「俺もいい。自分を鍛えて、新しい世界に行ってみたいと思ってた」


お父さんが来ていたから余計にオリィは断言できたのかもしれません。


自然と皆の視線が、まだジェミニクレストを持ってる僕に集まりました。


「僕は」


握りしめると、もう冷えていたクレストが鈍く光って、少し温かさを取り戻したんです。



3日後、他の郷から押し掛けてきた各郷の使いの人達等を避けた早朝、現役の野伏達の小隊がネムリ郷に来ました。


野伏というは野外で暮らし、現れたり増えたりした魔物を調べたり狩ったり、道や野営地の魔除けを直したり、新しい野営地を作ったりして暮らす人達のことです。


僕達フェザーフット族は大昔は全員野伏として、滅びた世界の中で、少しずつ安全に過ごせる場所を増やしながら放浪していたという話もあります。


「よかった、間に合った。いくつかそれらしい伝承や予言の類いはあったが、こうも唐突に顕現するんだな」


この三白眼の人が小隊のリーダーみたいでした。

僕、オリィ、マイサは既に旅装です。


「俺はタクミ・ブギードッグ。このテウガー地方の野伏の頭目をしている。お前達が正式に旅立つのは3年後だが、7つの種族の復活はタダごとじゃない。このまま備えなく、郷に留まり続けるのはマズい。『人間同士』の無駄な争いを招くだろう。お前達はこれから3年間、俺達野伏の共同体の中で暮らし、鍛えるといい」


「よろしくお願いします」


「俺、野伏に憧れてたんだっ」


「マイサ・ルナポートです!」


タクミさんは僕達の様子に苦笑してから、見送りの大人達を見ました。


見送りに、長老達は意見が割れてしまって1人も来ていません。僕達3人の親族は代表の2人ずつになっていました。


「里長と言っても田舎の郷だ。できることは限られるが、必要な物があれば使いを寄越してくれ」


「金の方は、まぁ・・」


「この3日で一般的な魔法道具の扱いは教えたよ。それ以上のことは手に余る」


「元々の知識もあった、基礎的な手当てや看護、薬草の扱いは確認できた」


「3日程度では、魔法は1人1つずつしか習得させられませんでしたが、死霊や悪魔の類いへの基礎的な対抗法は何とか伝えられました」


「兵法は護身術程度だな。変に自信を持ってしまう前にまた鍛えてやってくれ」


「私の代で鍛えて見届けたかったくらいだが、こればかりはな」


後援されることになったこともあって、僕達は旅立つ前に寝る間も惜しんで郷の大人達に鍛えられていました。


「マイサ! 私の娘っ」


「身綺麗でいることは心掛けなさい」


マイサは優しい両親に抱き締められていました。


「ロッカ。神様の使命も大事何だろうけど、これを機会に自分の人生を楽しみなさい」


「世界は広いらしいよ? あたしらはこの郷の近くしか知らないけど!」


モッカさんとノノカさんも控え目に僕を抱き締めてくれました。


「オリィ、家のことは心配しないで」


「あいつも素面の時は悪いヤツじゃないんだ」


オリィの所はお母さんとお爺さんが来ていました。お母さんはオリィを強く抱き締めます。


そうして僕達は野伏のタクミさん達と共にネムリ郷を離れました。


移動は驢馬かと思ったら逞しい騾馬で、最初から僕達は戸惑ったりもしました。



それぞれ騾馬の後ろに乗せてもらい、休憩もしながら半日、牙猪(ファングビースト)等の魔物は避けて野外を移動し、最初の魔除けの野営地に着きました。


城壁まではない、土塁で簡単に囲った、井戸と藤棚と汲み取りのトイレがあるだけの野営地でした。


僕達は慣れない騾馬での長距離移動に足腰や股が痛くなってしまい、へたり込んでしまいました。


「ふっ、まだ騾馬に乗っただけだぞ? 基礎的な訓練は済ませたんだろう?」


腰に手を当てるタクミさん。


「それはそうですけど・・」


「万全な状態なら・・」


「たくさん移動した賞だから・・」


「ダメだダメだ! お前達に都合のいい時に魔物と戦える、何てことはそう無い。その賞もお預けだっ。これからお前達の技量を見たい。ちょうど野営地の近くで一撃虫(ブローピーカブー)を4体見掛けた。近くで見ててやるから、これから倒してこい。上手くお前達だけで倒せたら、今日の夕飯に干し山査子のパイを作ってやろう。美味いぞ? 山査子パイ!」


「・・・」


山査子のパイは食べたいけど、ブローピーカブーか・・食べられないし、売れないし、飛び回るし、狩ったことはありません。

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