見晴らしの良い山の上の温泉に浸かる贅沢
見晴らしの良いところに露天風呂を作りたいと思い、森林の真ん中辺にポコンと飛び出ている山とその周囲の土地を手にいれた。
山の麓に家を建て、家から楽に山の天辺に行けるよう山をくり抜いてエレベーターを設置しようとしたら、途中で温泉が湧き出る。
お陰で風呂を沸かす必要が無くなり、源泉掛け流し温泉の露天風呂を作る事ができた。
これで岩を組んで作った広い浴槽に手足を広げて浸かり、好きなだけ露天風呂を楽しめる。
山の360度全てが水平線の彼方まで森林に囲まれ、露天風呂に浸かる私の視界を遮る物は何も無い。
春は木々が花を咲かせ森林を桃色で埋め尽くす。
夏は新緑の青々とした葉が生い茂り、子育て中の野生の鳥や獣が忙しなく動き周る。
秋は森林の木々の葉が赤や黄色に染まり、冬支度の動物たちが森の恵みを塒に蓄えて行く。
冬は真っ白な雪が全てを覆い尽くし、夏や秋の喧騒が嘘のように森林は静まり返る。
夜空を覆っていた沢山の星が1つ2つと消えて行き、地平線の東の先が銅色に染まる朝。
雲一つ無く眩い太陽が青空を横切る。
西の地平線の先を茜色に染まらせながら日が沈む。
夜になれば宝石箱をぶち撒けたような綺麗な星星が満天の夜空を美しく照らす。
月が光り輝く星の前を横切って行き、流れ星が1つ、2つ、3つ光り輝きながら流れ消えて行く。
露天風呂に浸かっていると偶に訪問者が訪れる。
夜空に輝く星から星へと旅する異星の旅人や、森林に遥か昔から住んでいる森の人などだ。
共に湯に浸かりながら訪問者たちが語る、沢山の星の事や遠い昔森林で起きた出来事に耳を傾け、時間が経つのも忘れ訪問者たちとお喋りする。
森林の春夏秋冬それぞれの潤いを楽しみ、1日1日違った表情を見せる森林の移ろいを楽しむ。
その全てを私は温泉に入りながら1人で楽しんでいる、何と贅沢な事だろう。
ただ残念な事は私が霊体であるって事。
私の肉体はエレベーターホールに横たわっている。
上空に-20数℃の寒気が居座っているのに、早く温泉に浸かりたいと麓の家を出る時から素っ裸でエレベーターに乗り、露天風呂がある此処より1つ下で降りて不用意にドアを開けたら、-10数℃の風が雪と共にエレベーターホールに吹き込んで来て、心臓が縮み上がり鼓動を止めた。
まあそのお陰で、可也熱めの湯に長時間浸かっていてものぼせる事は無いし身体がふやける事も無く、ありがたい事に好きなだけ温泉に入っていられるのだ。
あーいい湯だなぁー。