4-2
「ふぅ…」
ルカは、山を登り始め、中ほどまできていた。
空を見ると、重い雲がたちこめてきている。
「これは…早いところ、見つけなくてはなりませんね……」
その一人ごちた声には、いつもの穏やかさよりも焦りが多く含まれていた…。
大丈夫、きっと大丈夫、と右手の指輪を見て笑った。
探す薬草は、生えている場所がだいたい限られている。
山の中腹…だから、ルカがいるあたりで大丈夫なのではあるが、生えている場所と言うのがやっかいで、岩場や急斜面だ。
普通でも十分危険な場所であるのに、雨が降ったら更に危険度は増す。
しかも雨はこれからだんだんと強く激しくなるだろう。
ただでさえ、秋の雨は冷たい。
濡れてしまっては凍えるほどの冷たさになる。
おまけにルカは持病を抱えている。
…ありがたくないことが、オンパレードですねぇ……
「ま、何とかなりますよ…」
言い聞かせるようにそう呟き、もう一度指輪を見て歩き出した。
しばらく歩きまわっていたが。
「ああ、ありました」
誰もいないというのに、ルカは嬉しそうにそう言った。
ゴロゴロとした岩にへばりつくように生えているその草を、ルカは10ばかり摘み取り、
「さぁ、帰らないと」
と、立ち上がった時だった。
……しまった!!…
雨が降り始めたのだった。
ルカは急いで、その場所から離れ、雨宿りできそうな大きな木の下に避難する。
そして、持って来た雨具を装着し、急速に激しくなっていく雨足を見ていた
おまけにここは山である。
こんな大きな木の下にいたら、落雷する可能性も出てくる。
しかし………雨に濡れてしまったら……
「それは、とてもマズイですね」
誰も見ていないというのに口元に、わざと困ったような微笑みを浮かべた。
目指す小屋はそれほどの距離ではないが、自分の体温を奪うには十分な長さである。
……さて?
どうするか、決めようとした時だった。
向こうも見えないような雨の中、頭上で雷が光る。
間髪入れずに、雷鳴がとどろく。
近い…これ以上、木の下にいたら危険だ。
「行くしかない…ですよね」
今度のは微笑みではなく自嘲だった。
殴りつけるような降り方をする雨の中を、歩き出すルカ。
その姿は、瞬く間に雨のもやの中に見えなくなっていった。