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黄金色の獅子に、焦がれていた①

初投稿です。

よろしくお願いします。


秋空にそよぐ稲穂のような淡い茶色の髪に、陽が落ちる前に強く輝く夕暮れの輝きのような黄金色の瞳。そして、いつでも真っ直ぐに伸びた背筋。


大切な、大切な、大切な人。


彼女のために生きていこうと思った。

彼女のためになるのなら、どんなことでもする覚悟だってあった。


けれど、若々しく青い果実が、月日とともに色を変え、熟れていくかのように。


敬愛に、私情が混じり、欲を湛えた。


大切な、大切な、大切なひと。


自分は、いつから後ろから見守るのではなく、この両腕に抱え、護り閉じ込めたいと思うようになったのだろう。






「私しか出来ないことだから!私…、わたし……」


あぁ。また泣くのか。


一体あと何度、自分はこの茶番を見せられるのだろう。


無論、より面倒ごとにしたくはないので顔には出していないが、シュベーアトは心の中で盛大にため息をついた。それでも半歩前に立つ勘のいい自分の主には気づかれてしまったようで、その場の誰にも気づかれぬくらいの一瞬、後ろ手に回された細い指がシュベーアトの手の甲を宥めるように撫でた。

そのまま離れていくのを捕まえてしまいたいのを堪えることには、いつまでも慣れなくて、今日も握りしめた拳の爪が、手のひらに深く食い込んでいく。


「リーリエ!君だけが背負う必要はないんだ!」

「そうですよリーリエ様。あなたは一人ではないんです」

「リーリエが辛いと、俺も辛いよ」

「リーリエが悲しいと、俺も悲しい」

「君の優しさは美しい。けれど、それに君が苦しむのなら、黙って見てなどいられない」


「み、みんな………!!ありがとう……嬉しい」


しかし、やはり茶番だ。

桃色の髪と若葉色の瞳。複数の男に囲まれ、小さく笑いながら大きな瞳から溢れた涙を拭い、笑って見せた茶番の主人公、リーリエ・エーデルシュタイン。

彼女は、汚れを浄化できる、という珍しい聖魔法の使い手だった。


リーリエは生まれは平民であったが、国民全員が産まれた後に受ける義務のある魔力測定で聖魔法の素質を持つことがわかり、一定の教育、並びに生活水準のある場所で育てられるべきだ、とされて、子のいなかったエーデルシュタイン男爵家の養子となった。そしてここ、グランツェ王国において、国内最高峰と言われるゼーレ魔法学園に入学したのだ。


学園は、魔力のある者が15才になると入学し、4年間魔法を学び、成人後に国の力となるための教育のほか、基礎学力や社会貢献などの教養も身につけることが求められる場所であった。

国自体が魔力のある者、そしてそれが高い者をより重宝し、優遇する文化であったため、学園の生徒は"そうであるように"血を紡いできた貴族の子どもたちが多かったが、入学資格は家柄ではなく、あくまでも魔力の有無であったため、リーリエのように元は平民だが、魔力の高さにより選ばれ入学した、というものも少なくはなかった。


様々な生い立ちの者が共に学び、互いを尊重し、そして成人後の進路のための人脈を形成していくその場は、学園と言えども、軽視できない一つの"社会"となっていることは、学校だけではなく国民達にとっても暗幕の了解だった。


にも関わらず、リーリエは己が"聖魔法の使い手となれる"ということの珍しさ故の優遇と尊敬を受け入れ、それに甘え、怠惰した。

「自分の役目は聖魔法を習得した上での浄化であり、それは自分にしか出来ないことだから」と声高らかに、時には涙しながら訴え、本来は必須である魔法基礎学や応用学、基礎教養や倫理学などの授業は「聖魔法の修行のため」とほぼ全てサボタージュ。

学園と国から、聖魔法の修練のために、と特別に与えられた部屋に篭り、砂糖に群がる蟻の如くワラワラと増えていく取り巻きたちと共に、華美に着飾ってはお茶やボードゲーム、果ては小規模とはいえ舞踏会まで開催し、贅沢を楽しんでいたのだ。


本来ならば、そんなことは許されるべきではない。

しかし、ワラワラと群がった蟻が、──全くもって馬鹿らしく、今すぐにその軽い頭と、性欲が動力源に直結しているのだろう胴体を切り離してやりたいくらいなのだが──、王太子に宰相の息子、公爵家の次男に学園長子息の双子たち、更には外務大臣の息子、と現段階で学園に在籍する権力者たちほぼ全員であったために、その愚行が許されてしまったのだ。


彼らにとって、リーリエは愛らしく、か弱く、まるで美しい花の妖精らしい。

健気、純粋、無垢という言葉が当てはまり、守るべき存在であり、他から敬愛されるべき存在で、そして己を男として、一番に好いて欲しい、と渇望させる存在であった。


それ故に彼らは金と権力を惜しまず、競うようにしてリーリエを甘やかし、優遇した。(ちなみに学内に特別部屋を与えたのは王太子と学園長の息子の双子たちである。)

その結果が、シュベーアトらの在籍した年を、"ゼーレ魔法学園創立以来の汚点"と言わしめ、学園の存続危機にすら繋げたのだ。


しかし、そんな中でもゼーレ魔法学園は国内最高峰の(ほまれ)を落とすことはなかったし、リーリエとその取り巻きの卒業後に、すぐに本来あるべき姿を取り戻した。


それが誰の尽力によるものか。


常識と良心と、そして事実を見極める眼を持っている者たちは学内外、貴族平民を問わず、皆知っていた。



レーヴェ・ベルンシュタイン



国境の守護者と言われるベルンシュタイン公爵の娘であり、聖魔法は使えずとも、その魔力、そしてそれを使いこなす技術も学生の身でありながら国内トップクラスと謳われる、文字通り、稀有な存在。


秋空にそよぐ稲穂のような淡い茶色の髪に、日が落ちる前に強く輝く夕暮れのような黄金色の瞳を持った、美しい少女。

その美しい色彩と、誇り高き振る舞いから、獅子姫と呼ばれる彼女こそ、シュベーアトにとっての、唯一無二の主であった。



ベルンシュタイン公爵家は長く国境を守護している家であった。その力は確かなもので、ここ100年、隣国から、そして隣国との国境付近に住まう魔物の侵略から自国を守り続けていた。加えてベルンシュタイン家は"上に立つ者"の気質とやらが強い者が多く、「国を守るは民を守ることと同義である」という固い信念のもと、知恵を使い、心を砕き、土地だけではなく、民の暮らしの平穏も守り、支え続けていた。その功績は貴族平民を問わずに知れ渡っており、本来ならば敬遠されるはずの国境沿いの領地にも関わらず、ベルンシュタイン領で暮らすことを望む民は後を絶たなかった。それは国境付近故に広大であった領地を居住区で埋め尽くすほどで、ここ数年で遂には城下町よりも人口が増えてしまったのだ。


そうなってもなお止むことのないベルンシュタイン家への国民の支持は、気付けば王家のそれを容易く追い越していた。その事実に国家のバランスが崩れることを危惧した王家は、ベルンシュタイン家の名を、血として王家に取り込むことで、民の心を繋ぎ止めようとしたのである。

現当主、レーヴェの父であるベルンシュタイン公爵も、王家に対し思うところがないこともなかったようだが、国のバランスが崩れれば苦しむのは民である、という考えから、王家からの提案を承諾したのだ。


そして、ベルンシュタイン公爵家の娘であったレーヴェは、王太子の婚約者となった。


それは、レーヴェがまだ9才の時だった。



部屋の片隅に控えたシュベーアトの前で、ひどく辛そうな、申し訳なさそうな顔で王太子との婚約を告げたベルンシュタイン公爵の前で、9才のレーヴェは静かに頷いた。


「わたくしもベルンシュタインの名をほこりに思っております。ですから、たとえこの名を名のれなくなり、王家のちすじを残すためのそんざいとなる未来だとしても、それが国のひとびとの、平和につながるのであれば、よろこんでお嫁にまいりましょう」


言葉を紡ぎながら一度伏せられて、そして再び持ち上がった瞼の下で耀く黄金色の瞳には、確かな誇りと決意が煌めいていた。

まだまだ子どもだ。まだ慈しみ育てられ、守られるべきはずの存在が、他者を守る為にその身を捧げることを、自らの意思で決めたのだ。


その瞬間を見守っているシュベーアトは、その覚悟の煌めきを見た時に、自分も覚悟を決めた。



今日から自分は、ただレーヴェを守る騎士であろう、と。


王太子と結婚し、子を産み、そして国の、民のために誇り高く生きていくことを選んだ彼女を剣となり、盾となり、支え続けようと。


───その為に、この恋心、と呼べないほどに欲を湛えた想いは、一生隠し続けなければならない。


どれだけの悲しみに、

切なさに、

嫉妬に、

恋慕に、

身を焦がれ、心をズタズタに引き裂かれ、醜い激情に焼かれ苦しみ狂いたくなる日が来ようとも。


誓いを守り、他者を守る彼女を守る存在であり続ける為に───。



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