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「こうして話すのは初めてですわね、ウルペース様。私はシュエット伯爵家長女のぺルビアと申します」


ペルビアの名乗りは簡潔であったが、辞儀は丁寧なものだった。

自分よりも上の爵位に属するペルビアの態度に、アリテアは驚きを隠せないまま慌てて挨拶を返す。

不躾とも見えるアリテアの辞儀をペルビアは鷹揚と受け入れた。


「殿下をお待たせするわけにはまいりません。早速取り掛かりましょう」

「あの、着替えなら一人でできますので……」

「私に任せてください。ウルペース様を立派な紳士に仕上げてさしあげますわ」


男爵家の娘の支度に伯爵家のペルビアがかかずらう必要は無い。

控えめに主張したアリテアであったが、ペルビアの意思は頑なであった。

そして畳み掛けるように「これは王女殿下の命でもあるのですよ」と言われてしまえば、アリテアの口から異を唱えられるはずもなかった。


早々に諦めたアリテアが剥かれていく衣服を呆然と眺めていると、ペルビアはおもむろに帯を取り出して見せた。


「あのシュエット様、それは……包帯でしょうか? 一体何に使うのですか」


アリテアの疑問に対し、ペルビアはよくぞ聞いたと笑顔を返す。


「これで胸を潰します」

「拷問ですか?!」


マルスル国にはコルセットの文化が無い。

魔物が現れれば紳士淑女も問わずたちまち戦士に変わるのだ。

いつ戦場となるかも分からないのに、わざわざ枷となるコルセットを身につけるのは愚の骨頂。

加えて国民全体は日々肉体を鍛えていて、しっかりとした胸筋を持っているから胸当て(サポーター)も不要だ。

そういう国であるため、さらしを巻いて胸部を押さえる発想がアリテアには無かった。


「ななな、何故そんな事を! 止血の必要があるわけでも無いのに!」

「ウルペース様は見たところ同年代の女性より控えめな胸部でいらっしゃいますが、それでも胸は胸! 僅かであろうと、男性には無いその膨らみは隠さねばなりません」

「そんな……僅かという程では……」

「ならば尚更、潰さねばなりませんね」


明け透けに物を言うペルビアに傷つきながらも反論さたアリテアだったが、そう返されると分かっていたのだろう。言も爵位も及ばないアリテアはあっさりと丸め込まれたのだった。


「胸部についてはこれくらい潰しておけばよろしいでしょう。次はお顔を整えますよ」

「化粧はもうしているのですが……」

「今されているのは先程まで着てらした服の為の化粧です。これから施すのは男装のための化粧でしてよ」

「男装のための化粧……?」


そんなものあるのかと思考するアリテアを置き去りに、ペルビアは化粧の手直しを進める。

アリテアにはよく分からなかったが、時折り交えられた解説によれば鼻と目の周りの陰影を濃く、一番光が当たる部分は明るくしたとかどうとか。

聞くだけだと常と変わらないように思えたので、アリテアもわざわざ鏡を見せてほしいと願う事は無かった。

最後は長い黒髪を馬の尾のように後ろで結い上げ、ペルビアは満足気に頷いた。


「我ながら素晴らしい出来栄えです。王女殿下もきっと気に入ってくださるでしょう」

「そうでしょうか……」


男装姿を気に入られても嬉しくないアリテアは、あちこち弄り回された疲労もあってややぞんざいに返した。

自身の腕前に疑問を持たれたと勘違いしたのか、ペルビアが姿見を差し出す。


「私の技術が如何程のものか、どうぞその目でご覧になってくださいませ!」

「そうは仰います、が……えっ、誰?」


初めて男装した自身の姿を見たアリテアは、あまりの変わり様に呆然と鏡を眺めるしかできなかった。


包帯できつく締められた胸元は、少年みたく直線的な形に変わっている。遠目から見ただけでは女性とは思われないだろう。

なによりも凄まじいのは化粧だ。

自身が男であったならばこんな顔立ちだったかもしれないとアリテアが思ってしまう程、手直し前と大きく異なる人相になっていた。


「ウルペース様の良さを活かし、女性らしさも損なわない仕上がりでしょう」


にこにこと上機嫌に語るペルビアに、「これのどこが!?」とアリテアが文句などつけられるはずもなく。


「時間が押していますので、早く王女殿下へお披露目いたしましょう」とペルビアから背を押され、アリテアは満足な抵抗もできないままグラシェーナの元へと向かうのであった。



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