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結局あの後は、縁談を手配する旨を書面に残す事でどうにかアリテアを宥めることに成功した。


膝をつきながら今にも落涙せんばかりに瞳を潤ませて必死に訴えかけるアリテアの姿は、グラシェーナに対して大いに効いた。

麗しい貴族令息が騎士のように跪き懸命に自分を求めている、グラシェーナにはそんな幻覚が見えてしまった程だ。

現実は男装した令嬢が捨て身で懇願している姿なのだが。


一旦治ったと思った動悸や息切れが再発と同時に悪化した瞬間は身の危険まで感じたものの、落ち着いた今現在のグラシェーナは言いようのない多幸感に酔いしれていた。


「真似事だけであれ程までに魅了されるのだ。小説の元となった御令息が傾国と謳われたのも頷けるな……」


キャシテル国から届いた恋愛小説に登場する麗しい貴族令息の元となった人物──侯爵家嫡男アルトゥール。

白くきめ細やかな肌、光を発するかのように輝く髪、高名な芸術家すら陶然のため息を溢す相貌。

その秀麗な容姿から、彼が社交界に現れて以降、妙齢の令嬢に留まらず令息達をもことごとく魅了していった……という内容が、小説と共に届いた手紙に書かれていた。


さすがに手紙にあったような美姫もかくやといった容姿の令嬢を用意する事はできなかったが、あくまで真似事なのだ。ある程度に目鼻立ちの整った貴族令嬢でよいだろう。

これで目的だった麗しい貴族令息を知る事ができ、グラシェーナの知識欲も満たされた。後はアリテアの希望に沿った縁談を用意してやれば恙無く終わる。

この時のグラシェーナはそう軽く考えていた。





アリテアは晴れやかな気分で朝を迎えていた。

先日グラシェーナの命で男装した時はどうなる事かと思ったが、喉元過ぎればなんとやら。


グラシェーナは約束通り、しかもアリテアの希望に沿った釣書を大量に手配した。更に明日は縁談相手と初の顔合わせ。

アリテアはそれはもう大いに浮かれていた。

登城するよう王女殿下から言付かった使いが、ウルペース男爵家に訪れるまでは。


「アリテア・ウルペース、ただ今参りました」

「うむ、よく来てくれた」


招喚されたから来たものの、アリテアの内心は疑問でいっぱいであった。

重厚感ある肘掛け椅子に座るグラシェーナ。その表情は笑顔なのだが、どうしてかアリテアに謎の悪寒を感じさせる。


「単刀直入に言うぞ。ウルペース男爵令嬢、私のためにまた男装をしてほしい」


余りにもあっさりとした言い様に、アリテアは刃でひと突きにされた心地を味わったが、どうにか寸の間に持ち直す。


「王女殿下のお役に立てるのは至上の喜びでございます、が……しかし……」


正直に答えられるのであれば、もう男装などという綱渡りはしたくないのが本音であった。

だが、男爵令嬢という立場であったアリテアは、爵位故に長いものに巻かれ続けて生きてきたのだ。

要するに上手い断り文句が思いつかずにまごついたのだが、グラシェーナは例の如くその隙を逃さないのであった。


「嬉しい事を申してくれるな。其方ほど行動で忠義を示してくれる貴族令嬢はそう居まい。私はなんと果報者だろうか」

「その、あの、王女殿下……」


退路を断たれたアリテアは尚も足掻こうとしてみたが、グラシェーナの告げた言葉に思考を放棄する事となる。


「いやな、以前に其方が男装しただろう。その姿を見た者から陳情があったのだ」


──ああもう終わった、明日の見合い。

アリテアは目の前が真っ暗になったような心地になり、その後の話は右から左へ、ただ流れていくばかりであった。


放心したアリテアはグラシェーナの命に唯々諾々と首を振り、そうして正気を取り戻した頃には、前回と同じく煌びやかな紳士服を片手に別室へと案内されていた。


しかし一点だけ、前回と異なるものが在ったのだ。

案内された別室には、一人の女性が待ち受けていたのである。



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