十八. アイスクリームを食べに来た
「単刀直入に訊きますけど……コオリさんは、一体なんなんです?」
「なんなんでしょう」
「……どこから来たんですか?」
「たぶんあっちのほうから」と、あきらかにテキトーな方角が指さされる。
「まじめに答えてください!」
「はやくアイスクリーム食べたいな。ヘンタイはくれるっていったのに」
「もうわざと僕の名前言い間違えてますよね!?」
コオリさんがめでたく元のセーラー服女子に復活を遂げたあと、道行は、玄関口に捨て置いていたびしょ濡れの制服を、洗濯機へ投入。その間、思い出したかのようにアイスクリームをねだってくる彼女を、「服を着替えるから待って」となだめながら、二階の自室へ移動。
乾いた部屋着に袖を通し終え、コオリさんを着席させ、座卓を挟んで向かい合ったまではよかった。しかし、聞けずじまいになっている素性を尋ねだしたら、一向にアイスクリームを口にできない彼女が、ふてくされ、非協力的になりおおせているところである。
「アイスプリーズ」
「アイスは……もうすこし我慢してください。今は無理なんです」
「えぇ~どうしてぇ~?」
「だって仕方ないじゃないですか! コオリさんを助けるために、買い置きのアイスとかみんなひっくるめて、冷凍食品はぜんぶ冷凍庫の外に出しちゃったんですからね! あなたはギリギリセーフでも、アイスは溶けてアウトなんですよ!」
「アイスぅ……」と、コオリさんは弱々しくつぶやいて卓上に突っ伏してしまう。さらには三三七拍子のリズムに合わせて「ア・イ・ス、ア・イ・ス、さっさと・よこせっ・すねるぞ」とテーブルを平手で叩き出す駄々のこねよう。
かなりの執着心があるようだ。というか、とっくにすねてるだろ。
「どうしてそんなに食べたいんです……?」
「それが目的だから」
「目的?」
道行がオウム返しにすると、コオリさんは、伏せていた顔だけを億劫そうにもたげ、顎を卓上にのせる。
「私は、アイスクリームを食べに来た」
「……それだけのために?」
「それだけのために」
「……路上で溶けて死にかけてた?」
「そう」
「そうって……もう指摘するまでもないですけど、暑いの天敵ですよね? なんでわざわざ真夏に来ちゃったんですか? いくら岩手の奥深い山里っていっても、30℃は越えますからね? ていうか今日は、40℃越えの熊谷日和ですよ? よりにもよってなんでこんな超猛暑日に……。気温の低い冬とかにくればよかったじゃないですか?」
「えっ、冬でもアイスクリームが食べられるの?」
と、コオリさんが驚いたように身を起こしたことから、四季があることを承知で、この町に来ていることは判断できる。そしてこう続けられた。
「夏の食べ物って聞いたから、がんばって出て来たんだけど」
「どこで誰から聞いた話か知りもしませんけどねぇ……アイスクリームは冬でもぜんぜん食べることができるんですよ」
途端、コオリさんの美麗な顔立ちが、眉根を寄せてゆがむ。
「なんではやく言ってくれないの?」
道行はひたいを押さえ、心の内側でなげく。
いつどこで僕が教えられたって言うんだよ!