十三. ミッドデイ・スケルトンベイビー
コオリさんを抱え、がむしゃらにひた走っていた道行は、自宅の目と鼻の先まで到達していた。山林をきりひらいて建っている我が家への入り口のところ。庭からのびる私道との交差地点だ。
「家の前まで来ました、もうひとふんばりです!」
「オンギャ~」
腕の中から妙ちくりんな擬音が返ってきて、道行がつい立ち止まった。
「……コオリさん?」
「オギャ~、オギャ~」
「またまたぁ、ご冗談を……――!?」
ぎこちない挙動でおそるおそる真下を向くと、コオリさん(幼体)の姿が見えなくなっていた。二つ折りのズボンの上には、ボタンの留まった半袖シャツだけが寝ていて、その大部分がペタンと平たくなっている。腹部はあたかも妊娠しているかのようにこんもり膨らんでいた。そして、エイリアンでも孕んでいるかのようにモゴモゴ蠢いている……。
道行きはいったん、泣き散らすソレを地面に下ろして、ふるえおののく手でシャツのボタンを一つ一つ外していく。
「アギャ~、アギャ~、アギャ~!」
「うわっ…………うっっっっっっわぁ!」
シャツを帝王切開して産まれたのは、スケルトンベイビーである。
身体の輪郭と凹凸から生じる光と影のコントラストで、四肢を折りたたんで産声を上げるふっくらとした形状が判別できた。白い肌も青い瞳も、もう見当たらない。
水晶の申し子のような無色透明の赤ちゃんだった。
「妖怪七変化ですか、あなたは!?」
「ア~ッ! ア~ッ! ア~ッ!」
何を言っているのかはまるっきり不明だが、今やるべきことはただ一つ。
コオリさん(スケルトンベイビー状態)をシャツとズボンでくるみなおし、家の玄関を目指す。
「ちくしょー! 溶けるな、溶けるな、溶けるな!」
「オギャー」
と、泣き声が上がるたびに、体重がどんどん軽くなっていくのを感じた。