言い争い
「みんな迷惑しているから、もうやめてくれない?」
「eスポーツの何が迷惑なんだ!」
速人は思わずむっとして、ややきつい口調で言い返した。
「もう、本当にこの『ゲームバカ』は……」
真理亜が呆れたようにつぶやいた。
速人はこの一言にカチンときた。
「『ゲームバカ』って何だよ! この『デカ女!』」
この瞬間、真理亜は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「あーっ、今、『デカ女』って言った! 許せない! セクハラよ、セ・ク・ハ・ラ」
真理亜は、高一男子としては標準的な速人より、10センチほど背が高かった。
ハーフのような顔立ちで、抜群のプロポーションなので、その気になればグラビアモデルにでもなれるだろう。しかし、そんな気はさらさらなかった。
幼い頃から体格が良かったので、会う人会う人に大きい大きいと言われ続けてきて、本当に自分の体が嫌いだった。彼女最大のコンプレックスに、速人は不用意にも触れてしまったのだ。
「はぁ~? なんで『デカ女』がセクハラになるんだよ。セクハラっていうのは、『おっぱい大きいね』とかだろ!」
「『デカ女』でも十分セクハラになるの。言われた人がセクハラだと思ったらセクハラなのよ!」
「そんなバカな。そんな事いったら何でも女の思いどおりじゃねーか」
「まぁまぁ、お二人ともそれくらいで」
これ以上はまずいと思い、永井が仲裁に入った。
永井が間に入った事で、二人は少し冷静さを取り戻し、落ち着いた口調で真理亜が言った。
「あなた何にも分かってないのよ」
「どういう事だよ」
「私たちは嫌々、資格取得の勉強やプログラミングをやっている訳じゃないの。みんな自分の将来のために頑張っているのよ。国家試験の合格やプログラミングコンテストの入賞で、推薦入学できる大学はいくつもあるわ」
真理亜につづけて永井が言った。
「うちの生徒って、特進クラスを除いてそんなに勉強できないだろ? だから僕らは一般入試とは違うルートで大学進学をしようとしているんだ」
「でも真理亜さん、君は特進クラスだから一般入試でいいんじゃないのか?」
「そうだけど、私の場合は昨年、最優秀賞が取れなかったU18プログラミングコンテストのリベンジのために頑張っているの」
「U18プログラミングコンテストってそんなにすごいのかよ? 一体何のプログラムをしたんだよ」
「そんな事、どうだっていいじゃない?」
「いや、聞きたいね。僕がeスポーツにのめりこんでいるように、君が何に夢中になっているかを」
一瞬間を開けて、少し顔を赤らめながら真理亜は答えた。
「人狼ゲーム」
「は?!」
「だから、人狼ゲームだってば」
「人狼ゲームってトランプみたいなカードを使ってやるゲームだろ?」
「PC用人狼ゲームの人工知能を深層学習で作ったの。何か文句ある?」
速人はAIとかディープラーニングがどのような仕組みなのか知らなかったが、何かすごい事をしているのは感じた。
「すまなかった。ちょっとむきになってしまった」
速人は自分が誰にも相手にされなかった八つ当たりで真理亜に突っかかった事に気付き、一刻も早くこの場を逃れたいと思った。
そのまま、一言も発せず実習室を立ち去った。
この作品は https://www.alphapolis.co.jp/novel/361835724/978399492 においてイラスト付きで先行公開しています。