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08.『榛くんを紹介』

読む自己で。

 翌日、私は教室の真ん中で勇気を出し声を発した。


「お、お兄ちゃんに興味があるなら紹介しますけど!」


 と。

 廊下には榛くんと希くんが待ってくれている。

 教室内はしんとなり私の方をみんながジッと見ていた。

 あ、榊原さんは本を読んでいた……けど。

 一応、お兄ちゃん呼びをしたのは面倒くさいことにならないようにだ。

 家及びふたりきりでは榛くん、人前ではお兄ちゃんと呼んでるつもりだった、うん。


「なるほどね、橋本さんに聞いたんでしょ?」

「え? あ、ううん! お兄ちゃんが人気なのを環さんから聞いたんだ!」


 話しかけてきたのは私に直接文句をぶつけてきた子だった。

 万が一があるといけないので、希くんの名前は伏せておくことにする。

 彼女は自分を守るために行動しただけで、それは責められる行為ではないからだ。


「た、環先輩ってあの?」

「そっ、綺麗な先輩!」

「あなた、なにも分かってないよね」

「え……」


 やっぱり私は榊原さんが言うようにおバカキャラなのかな?

 これまたやってしまったかもしれないと身構えていると、


「玉平さんはなにも分かってない!」

「そうそう! 分かってないよね!」

「というか、逆効果だよねーそれ!」


 他3人から『分かってないでしょ口撃』を受ける。

 精神的なダメージは受けなかったとはいえ、私はまたえぇと内心で呟くことしかできなかった。


「橋本さんに聞いたのなら、もうひとつの理由も聞いたよね?」

「だ、だから環さんから……」

「じゃあなんで橋本さんはわざわざ廊下で待ってるの?」

「うぐっ……お、おトイレに行きたかったのではないでしょうか……」

「「「私達がしていたのはね、あなたが隠し続けるからよ!!」」」


 え……本性を隠すくらい誰でもするでしょうよ。

 ましてや知らない子の前では偽ろうとするのが、人間と言えるのではないだろうか。

 そして偽っているからって体育館倉庫に閉じ込めるのはやりすぎだ!


「あの! 私だったから良かったけどね、体育館倉庫に閉じ込めるのはやりすぎだと思うよ!?」


 言ってしまったが後悔はしていない。

 嫌なことくらいは嫌だと言う権利がこちらにもあるはずだから。

 とかなんとかやりきった感を出していたら、唐突に抱きしめられて謝罪をされてしまう。


「ごめん……」

「あ、いや……下手くそなのは事実だったから」

「うん、下手くそだったよね。だってさ、橋本さんがあなたにだけは優しく打ってたのに、それすら落とすんだもんね! しかもそのくせ、先生や榊原さんとは楽しくやってるし!」

「上げて落とす作戦……うぐぅ……」


 でもまあこれで一件落着? ……呆気ないな。

 このタイミングで兄と希くんが入ってきて、ふたりも私を抱きしめてくれた。

 抱きしめDAY、なのだろうか。


「お兄ちゃん……はダメでしょ」


 みんな見てるし、兄のせいでこうなったんだし。

 それでも離されてから分かったのは、ふたりとも柔らかい雰囲気だということだった。

 最近は真剣だったり、気まずげなものだったので、そこだけは落ち着けると言える。


「いいんだよ、これくらいなら」

「そうかなぁ?」


 なんかガバガバなような気もするが、ま、そういうことにしておこう。




 放課後、私が希くんと帰ろうとしたらバレーの子が近づいて来た。


「玉平さん、榛先輩を紹介してくれるんだよね?」

「あ、うん、どうせ来るだろうから一緒に帰る?」

「そうだね、あなたの家に行かせてもらおうかな」


 ……あんまり知らない人を連れて行きすぎるとタマキ疲れちゃうし、隠しておけばいいよね?

 私は了承をし廊下で兄を待つ。

 幸い、兄もすぐに来てくれて「待たせたな」と言って笑いかけてくれた。

 私達はすぐに学校から出て家の方角へと歩いていく。

 名前すら知らない女の子は兄と楽しそうに話していた。

 家に着いたらふたりより早く動いてタマキを隠――せなかったが、私に対するのとは違って丁寧に可愛がってくれたので、問題ないと割りきり飲み物の準備を開始。


「榛先輩、少し妹さんとふたりでお話ししたいんですけど、いいですか?」


 私が飲み物を机に置いてタマキを愛でていたとき、彼女がそんなことを言った。


「おう、いいぞ。渚、タマキよこせ」

「ダメだよータマキは私のー」

「いいから、……仲良くしておけよ、またあんなこと起きないようにな」


 あ……タマキぃ……。

 仲良くしておけよって彼女の望みは兄と仲良くすることなのに。


「あはは、ごめんねお兄ちゃんが」

「ふふ、やっとふたりきりになれたね」

「あの、ちょっ――」


 ソファに押し倒され必然的に距離が近くなる私達ふたり。

 柑橘系のいい匂い、こちらを見つめるその顔はとろっとしているようにも見える。


「あの……近いんですが」

「玉平さん、ううん、渚さん、私とお友達になってくれる?」

「そもそも……名前を知らないんですけど」

「えっ!? ……やっぱり私も一緒に閉じ込められるべきだったのかな……」


 彼女は距離を作って改めてこちらを見つめて言った。


「五十嵐まどか、だよ。クラスメイトの名前くらい……覚えててよね」

「……閉じ込めなんてしてなければもっと自然にできたのでは?」

「私は1回しかしてないもん! それをみんなが真似して……」


 五十嵐さんは「許可してないのにぃ……」と小さく呟く。

 私は閉じ込められることを許可したわけじゃありません。


「五十嵐さんはどうして私とふたりきりになりたいの? お兄ちゃんに興味があるんだよね?」

「いつもみたいに『榛くん』呼びで大丈夫だよ。やだな~それを口実にして来たに決まってるじゃん」

「ん? ということは私に興味があったってこと?」

「当たり前でしょ。私はあなたの強いところがすごいと思ったの」

「強くないって……基本的に泣き寝入りするしかないってだけだよ?」


 今回は自分の思っているところをぶつけてしまったわけだし、それだというのに「強い」なんて言われても素直に喜ぶことはできない。それに言い方は悪くなってしまうが、人にああいうことをできてしまう彼女達の方がよほど強いと思うんだ私は。


「それでも渚さんには耐えられる強さがある、それは私にはないものだから羨ましかったの」

「そうかなぁ? 希くんや榛くんがいなかったら多分つぶれてたよ?」

「いーの! あなたは強い! 私は弱い……それだけで」


 彼女はオレンジ色の房をイジイジ弄りながら力なく笑っていた。

 ……サイドテールを弄って遊ぶの楽しそう……。

 あとナニゲにお胸が大きいので、実は先程押し倒されたときに喜びを感じ――


「ご、ごほん! それなら仲良くしてくれる?」

「うん、説得力ないかもしれないけど」


 彼女は女子グループの代表と言っても差し支えない人だ。

 おまけに希くんもいてくれていれば、私がまた同じように責められるようなことにはならないだろう。

 これはいい機会だと割り切っておく。


「渚さんはさ、好きな子……いないの?」

「うん、こういう生き方してるからさ、あんまり踏み込まないようにってしてるんだよね」


 その証拠に希くんにさえ家へと最近まで来てもらっていなかったわけだし。

 関係を絶つとき、関係を切られたときが怖いので自分なりに考えて動いてみたという感じだ。

 んー、だから普通に相手のことを信用し、心から好きになれる人は羨ましかった。

 そういうのが私には足らない点、どんな生き方にも弊害はあるということだろう。


「あのさ、()()()()()!」

「あ、タマキのこと? うん、すっごく可愛い!」

「うん、()()()()()()()()()()()

「でもさ、あんまり愛ですぎると学校に行ったときに寂しくなるんだよね」

「うん、分かるよ! ()()()()()()()()()


 こ、この子は気が合うのでは?

 タマキにもすごく優しくしてくれていたし、話をしてみたらそんなに悪い子ではないと感じた。

 これは強がりでもなんでもなく、いい出来事だと心から言えるような気がした。


「おい五十嵐、俺はお前をまだ許せたわけじゃないからな? 渚を悲しませるやつは許さねえ」

「あ……ご、ごめんなさい……」

「榛くん! やめてよっ」


 いきなり来たと思ったらこんなこと。

 優しいのは分かっているが、物理的に傷つけられた~とかではないんだから!


「ほらタマキを貸して! もう、優しいのはいいけどそういうのはマイナス!」

「悪かったからそんな怖い顔すんな、ほらタマキ行ってこい」

「にゃー」


 やっぱりタマキといられれば落ち着ける。

 どんな状態であっても癒やしをくれる貴重な存在。

 ……榛くんもそうだけど、もう少しくらい他の子のことも考えてあげてほしい。


「それに今日は制服のままでいてくれてる――」

「はっ、そうだ!」


 2階へ移動し榛くん服に着替え1階へ。


「じゃじゃーん! 私、お兄ちゃん仕様!」

「馬鹿! だからその痴女スタイルやめろ」

「な、な、渚さん……それ……」

「うん、これがいつもの私なんだ~」


 軽さだけを追求した真の私の姿。

 隠されていることが嫌だったみたいだし、希くんほどではないけど一応信用しているということを示す。

 真の私を見られて嫌われるのならそれは仕方がない。

 ま、大丈夫だとは思ってるけどね。

書くのって楽しいなぁ。

なにも決めてないことが自由で。

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