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07.『榛くんのせい』

読む自己で。

 私はガ○ガ○くんをぺろぺろしながら家へと歩いていく。

 会話がないのは問題ない。

 しかし、……無表情で食べてる榛くんがシュールで怖い。

 私の対策は下手くそだった、学ばないおバカ、なんて言われかねない状況で。

 家に着いてもまだ残っていたアイスを舐めて、片方の手でタマキを愛でているときだった。


「渚、お前はずっとスマホ持ってろ、いいな?」

「そう言われても授業中は……」

「なんかあるだろ、持ってきておいて隠しておくとか」

「忘れたらそれこそ悲惨だよ……」


 そういうポカをやらかしそうなんだよなあ私は。

 無根拠に「私は大丈夫!」なんて言えるわけでもないから困るが。


「それに、閉じ込められても榛くんが来てくれるしいいよ」


 棒をゴミ箱に捨ててから私はそう言う。

 朝まで一直線コースにならなかったのが幸いと言えるだろう。


「駄目なんだそれじゃあ!」

「怖いよ……」

「俺はお前が普通に閉じ込められることの方が怖いがな」


 とはいえ、先生とかに迷惑をかけなければ案外悪い場所ではないのだ。

 ひとりの方が好きという元来の性格からきているのかもしれない。

 といっても、榛くんに迷惑をかけたいというわけではないというジレンマがある。


「そういえばどうして今日も来てくれたの?」

「教室に行ったらお前がいなかったから」

「え、それだけで体育館倉庫だって分かったのすごいね」


 普段の私には察しが悪いのにこういうときばかり……。

 また暖かくて自然に抱きついて「ありがと」と言っていた。


「あっ!? ち、違う……出ていかないでっ」


 ダメだ、榛くんがいるとついこうしたくなってしまう。


「は? ああ……気にするな」


 が、なぜだか怒られることなく、複雑な笑みを浮かべながらそう言ってくれた。


「う、うん……」


 うーん、次からひとりで片付けをしないようにしようか。

 さすがに希くんは頼れないが、例えば榊原さんとか他の子を。


「でも、普通のときは環さんを優先してね」

「それなんだけどな、これから落ち着くまでは登下校も昼も一緒にいるぞ」

「わ、悪いよっ、そんなの……」

「別にいいだろ? 兄が妹のために動こうとしてなにが悪いんだよ?」

「……嬉しいけどさあ」


 兄を頼ったとか言われてまた――という可能性も0ではない。

 だけど信頼できる榛くんにはいてほしいし、環さんに申し訳ないしで複雑だ。

 だからもう1度、私は心から思っていることを話しておくことにした。


「閉じ込められたり悪口を言われても別にいいんだけどさ、それで榛くんや先生に迷惑をかけるのだけは絶対に嫌なんだ。だから別に大丈夫だよ私は、だってこれまでも似たようなことがあったけどさ、不登校にならなかったじゃん! 優しいのは分かる、暖かいのも分かる。でもだからこそ、本当にしたいことを優先してほしい。私は自分で切り抜けられるから、まあまたどうしようもなくなったら抱きしめさせてね」


 えへへと笑ってタマキを抱きリビングをあとにする。


「全くもう……格好良くて仕方ないよ」


 実の兄ではなかったら告白してた。

 ……真っ直ぐ誰かのために動けるってすごいなあ。

 



 翌日。

 私が席に座って読書を楽しんでいると榊原さんがやって来た。

 こちらの肩に触れてから廊下に出ていく。

 用がなければこんなことはしないということで、私も本を片付けあとを追った。

 率直に言えば彼女は出てすぐのところで立っていて、


「誰に閉じ込められているのかを言うわ」


 と、いきなりそう言ってくる。

 それを知ることができるのは好都合だ。


「簡単に言えば特定の誰かというわけではないの、複数入れ替わりみたいなものかしら」

「えぇ……私、嫌われすぎぃ……」


 勿論、本当かどうかは分からないが、いちいち嘘をつくメリットもないだろう。


「それでここからが問題なのよ、実は――」

「いいよ榊原、あたしが言う」

「え、希くん?」


 うん、間違いなく橋本希くんだ。

 少し違う点は複雑な笑みを浮かべているということ。


「自分が悪く言われるのが怖くて容認してたんだ」

「え?」

「だからさ、あたしは知ってたんだよ」

「あ、そうなんだ。それで?」


 重要なのは希くんもしたかどうか。


「は……?」

「で、あなたもしたの?」

「……あたしは直接してないけど、止められなかったし同罪だろ」

「じゃあいいじゃん、同調圧力を恐れることは仕方ないよ」


 だってそうしないと嫌われてしまうのだから。

 私を切るだけで嫌われずに済むのなら、どんどんしてもらっていいと思う。


「私のことが邪魔になったらって言ったことあったよね? それをすればいいんじゃないの?」


 やりづらくなってしまうので笑顔を心がける。

 大丈夫、負担をかけたくない、それが伝えるのが私の仕事。


「ありがとね、中学のときもお世話になっちゃってさ」

「渚……」

「気にしなくて大丈夫! あ、榛くん来たから行ってくるね!」


 結局、榛くんも来ちゃったし心配性ばかりだ。


「榛くん!」

「お前、なにを話してたんだ?」

「あ、怖くて容認してたんだって~」

「……グルだったってことかよ?」

「ち、違うよ! だって怖いじゃん、悪口言われたらさ!」

「お前は?」

「私? うーん、誰にも迷惑かけないならいいかな」


 精神的なダメージならある程度、私でも抱え込むことができる。

 美味しいご飯を食べたり、甘いものを食べたり、タマキを愛でれば回復するダメージ量。

 これだったら榛くんにも迷惑をかけない気がするのは、勘違いだろうか?


「お前はああ言ったけどやっぱり駄目だな。毎時間とは言えないが必ず行くから教室にいろよ」

「えぇ……へ、変な噂出ちゃう~」

「おい、ふざけるなよお前」

「だってさ、負担かけたくないんだよ……」

「お前と俺は別の家族か? 違うよな、だったら遠慮なく甘えておけばいいんだよ」


 で、甘えると怒るんじゃん。

 絶妙なラインを求められても困ってしまう。

 どこまでしていいのか、なにが嫌なのかをはっきりしてほしい。


「榛先輩」

「橋本、もうお前は無理しなくていいぞ」


 近づいて来た彼女に榛くんがそう言った。

 少し見方を変えればそれは突き放すようなものだった。

 

「でも……」

「いいんだ、自分のことや周りのことだけを気にして生活すればいい。渚のことは放っておけ」


 こうして私の意思を尊重してくれるところは好きだ。

 でも自分で言っておきながらあれだが、彼女と関われなくなるのは寂しいな。

 ――で、確かに榛くんはほぼ毎時間来るようになった。

 自分だって忙しいくせに休み時間来たり戻ったり。

 お昼休みになったら私が作ったお弁当をふたりで食べたりもした。

 午後も忘れずにやって来て、放課後になってもすぐに来て。

 榛くんが訪れれば訪れるほど、申し訳なさゲージが上がっていく。


「渚、帰るぞ」

「あ、ごめん……お掃除あるから」

「分かった、お前の席に座って待ってる」


 ざわついているんだよなあ。

 これだけならいつもどおりではあるが、榛くんが原因なのは私でも分かる。

 しかし榛くんからは依然として同じ雰囲気しか伝わってこない。

 あからさまな態度を見せた子には睨みつけていたりなんかもしていた。


「や、やめてよ! 私の居場所がなくなるじゃんっ」


 お掃除が終わった後に詰め寄る。

 兄がしていることが逆効果なのだと分からないのだろうか。


「は? 悪口とかあんな態度取ったあいつらが悪いだろ? 言われるの覚悟があるやつだけがやっていいことなんだよ。で、お前はなにかをしたのか?」

「いや……多分してないけど」

「だったら言われるのはおかしいだろ、それにお前ができないから俺がしているだけだ」


 いや、私から動くのは簡単なんだ。

 中学のときみたいにすればなんら問題ない。

 なにをしたわけでもないのに敵がいるなら、動いてしまってもいいように思える。

 でも同じように悪口を言った瞬間に、向こうにも言う権利ができてしまうわけで。


「私はこういう生き方を心がけてるの、だからすぐに忘れるよ私のことなんて」

「お前なあ!」

「こ、怖いって……」

「はぁ……いいから帰るぞ。なにを言ったって、俺がするのは変わらないんだから」


 頑固ぉ……。

 下駄箱に行って靴へと履き替える。

 だって榛くんを頼ってもどうせ来年には卒業してしまうんだ。

 その状態でひとり残されたら?

 いままでの不満を全部ぶつけられるだけじゃないのか?

 そうなったら耐えられる自信なんてない……。

 学校から出て、途中のコンビニを越して家へと向かう。


「渚……」


 後ろを振り返っても榛くんはなにも言わない。


「あたしは渚と友達でいたいんだよ!」

「橋本、でもお前は怖いんだろ?」


 私が答えるより早く榛くんが食いついた。


「友達が困ってても自分の可愛さを優先したんだろ? いや、責めてるわけじゃない、人間として正しい生き方をお前はしてるからな。ただな、また同じようなことをして渚を傷つけられるくらいなら、俺はやめてくれって思う。中学時代のこいつを知ってるだろうがお前は」


 いやぁ……中学時代の私は調子に乗りすぎていただけだったのだ。

 不満を感じたらすぐ吐いてたし、悪口を言ったことだって0ではない。

 人のことを言えるような人間ではないなら、彼女や周りの子を責めるのは違うわけで。


「榛くんやめて。希ちゃんが生き方を教えてくれたから普通でいられるんだよ?」

「……そうだったよな、悪い橋本」

「……榛先輩、お願いします! 渚とだけはいたいんです!」

「……それは正直渚次第だからな」


 彼女はこちらを真面目な顔で見て言う。


「渚、頼むよ」

「私だっていたいけどさ、ほら、私のせいで苦しむ羽目になるなら最初からない方がいいかなって」

「頼むよ……」

「うーん、もういっそのことみんなに家に来てもらうか! で、タマキを撫でもらって無事解決! みたいなことできないかなあ? あ、私のなにが悪いか教えてくれない?」

「あの子らが渚のこと気に入っていない理由は、見た目がいいのと榛先輩がいるからだ」

「「えっ?」」


 悪くないとは思ってたけど、実際にそれで嫌がらせをされるとは思っていなかった。


「橋本、俺がいるからってどういうことだよ?」

「渚にばかり優しくしているからですよ」

「そりゃ妹なんだから当たり前だろ?」

「先輩は人気者なんですよ? 格好いいって有名なんです」


 榛くんのせいじゃんか!!

 というかそうならみんなちゃんと言ってくれよぉ……。

 そうすれば普通に榛くん紹介しましたけど!?

 はぁ……なんてことはなかったんだこれは。

うん、俺の作品に重い雰囲気はない。

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