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02.『普通の生き方』

読む自己で。

 夜。

 食後に食器を洗ってゆっくりしていると榛くんが言ってきた。


「今日の昼に環といたろ? なにを話してたんだ?」


 見てたくせにお友達を優先するとは痛い人間だと思いつつ、世間話だと答えておく。

 あの人は頑なに好きな人を教えてくれない。

 で、榛くんの好きな人が彼女だと分かっているので、なんともモヤるのは確かだ。


「環って優しいよな」

「うん」

「綺麗だよなぁ……タマキみたいに」


 タオルで手を拭いてから見てみたら、榛くんはうりゃりゃーとグレーの毛並みを撫でているようで、タマキも嫌がらず自分からお腹を見せてなすがままとなっていた。


「お風呂行ってくるね」

「おう、長風呂すんなよ?」

「あーい」


 着替えはもう置いてあるので適当に脱いで浴室の中へ。

 適当に洗って湯船に浸かると、はぁと息が零れた。


「好きな人がいる生活かぁ」


 でも、ずっと片想いを続けるのは辛そうだ。

 そんな思いを味わうくらいなら誰も好きにならない方が楽ではないだろうか。

 ましてやああいう綺麗な人が相手であればなおさらのこと。

 そういえば私は希くんの好きな人すら知らない。

 そういう生き方をしているとはいえ、ここまで無知なのはいいのか悩む。

 だって長く一緒にいるお友達なのにそれも知らないなんて……。

 私が最低限しか信用していないように、相手にも最低限しか信用されていないというかも。

 なんというか話はするけど、1歩踏み込むことはしないとかそういうの。


「みんな私ってことか」


 自分の分身、相手は鏡というのは正にこのことなのだろう。

 湯船及び浴室から出てタオルで拭いていく。

 鏡に映った私の顔は自惚れでもなく普通以上な感じがするが、誰からも心から信用されていないそんな存在で、素直に喜ぶことはできなかった。

 いや、本当のところを言えば中学時代に面倒な事があったからではあるが。

 服を着てリビングに戻る。

 榛くんはほとんどお部屋にいるのでリビングにはタマキしかいなかった。


「タマキ……私のこと信用してくれる?」

「にゃー」


 お腹に顔を埋めようとしたら自分からしやすいようにしてくれた。

 いつもこうしているから覚えてくれたのだろう。


「ありがと、タマキは優しいね」


 中学3年生の時に久しぶりに帰ってきたお母さんに頼んで買ってもらった猫。

 だから変な扱いをしない限りまた()()()()()()ということは有りえない。そのため落ち着いて彼女と接することができる。

 温かい、ちゃんと生きてる、あと優しく機微に敏感な女の子。

 いっそのこと彼女を抱きつつ授業を受けられたら嬉しいのになあ。


「今日は一緒に寝てくれる?」

「にゃー」

「あはは、じゃあ行こうか」


 ちなみに、わざわざ抱かなくてもちゃんと付いてきてくれる子だ。

 廊下の電気を点けてからリビングの電気を消して階段を上がっていく。

 部屋の前で少し待って扉を開けると彼女が入っていった。

 ベット、勉強机、小さなローテーブル、本棚、クローゼット。

 なんてことはない普通の部屋。

 余計なことはせずにベットに寝転びタマキを呼ぶ。

 布団の中に入れてあげれば寝る準備は完了だ。

 おやすみと口にし、私は静かに目を閉じたのだった。




 翌日の体育の時間でのこと。

 バレーをやり終えて休憩していた時だった。


「玉平さん、足引っ張らないでよ!」

「そうだよー玉平さんがいたせいで負けたじゃん!」

「絶対勝ちたかったのにねー!」


 なんてボロクソに言われて気分が沈む。

 運動するのは好きだが団体競技というのは好きじゃない。

 確かに私は足を引っ張った。

 なんてことはないサーブに対応できず落とし、ローテーションのため嫌々やったセッターでは上手く上げれず、サーブではネットに引っ掛ける――正にお荷物。


「ごめんなさい……」


 問題だったのは私以外が得意な子、得意でなくても無難にできる子だったことだろう。

 私が望んでいたこと、それをできず惨めに俯くしかできなくて。

 次のチーム決めになった際、誰かがはっきりと言った。


「私、玉平さんと同じチームになりたくない!」


 と。

 別にバレーができなくても死ぬわけではないし、極端に成績が下がるわけでもないので私は引っ込むことにして見学者に徹した。

 私だって好きで足を引っ張りたいわけじゃないんだけどなあ。

 見てくれに多く振られており、そしてその見てくれすら中途半端な存在で。

 まだマシなのは勉強能力だけはそこそこでいられてることだろう。

 だからテストは困ったことはない、休むこともない。

 赤点とか進級が危うくなったこともないので、問題は人間関係ではあるが。


「足引っ張ったし片付けてねー」

「あ、うん……」


 お弁当を早く食べたかったが仕方ない。

 ネットを片付けたりボールをしまったり、()()()での作業は苦痛じゃなかった。

 それどころか煩わしさを感じることなく鼻歌混じりで片付けていく。

 だからかな、油断していたんだろうなあ。


「(いやまさか……閉じ込められるとは思わなかったんだよなあ)」


 そんなにバレーで足を引っ張ったことが問題か?

 閉じ込める方がよほど問題だと思うが。

 さて、どうしようか。

 お腹は減ってるしこのままでは無断欠席になってしまう。

 緊張したせいで喉は渇いているし、非常に悩みどころだ。

 というか非情すぎるだろうこんなの。

 スマホもないしどうしようもない。

 ああ、こんな時にこそタマキがいてくれればいいのに。


「はぁ、なにやってんだよ馬鹿妹」


 顔をあげてみればなぜか扉が開いていて榛くんがそこにいた。

 ちょっと待ってほしい、どうして希くんとかじゃなくて榛くんなんだろうか。


「榛くん……失敗することって悪いことなのかな」

「は? 失敗くらい人間誰だってするだろ」

「そうだけど……したら閉じ込められたし」

「下らないな、つまんねーことしやがって」


 私もそう思うんだ。

 言葉ではなくこんな行為で満足するなんてどうかしてる。

 あれだけ好き勝手言ってきたじゃないか、私は言い返さず引っ込んだじゃないか。

 片付けも押し付けて最終的にはこんな仕打ち、納得できるわけがない。

 

「おい、ちゃんと言えよな、隠さず全部」

「私は基本的に隠さないけど」

「ならいい。もう戻れ。昼飯食べる時間なくなるぞ」

「そういえばそうだ……ありがと!」

「……別に、兄として駄目妹の世話をするのは当たり前のことだろ」


 なんかすごく暖かく感じて後ろからガバっと抱きつく。


「いつもありがと……」

「ああ」


 すぐに離れてひとりで走って。

 教室へ戻ってきた私は制服を着てからご飯を食べる。

 美味しい、やっぱり私は調理の才能がある!

 美味しいご飯を食べたら完全に複雑な気持ちがなくなった。

 だったんだけど……女の子がやって来て紙を机の端に置いてきて。

 それを確認した瞬間に、再びギュッと心臓を鷲掴みにされる感覚――


「(そこまでだったかなあ?)」


 わざわざノートかなにかを切り取って『お荷物』なんて伝えてくるなんてね。

 バレーを上手くできないと排斥されてしまうのだろうか。

 それだけではない気がするが、どうしようもない。

 まだその子はいたので少し書き込みそのまま手渡す。

 彼女は中身を見てこちらをちょっと驚いた顔で見てきた。

 なるべく笑顔を心がけて、


「ごめんなさい、足を引っ張って」


 そう言ってお弁当の残りを食べ終える。

 波風を立てないのが1番。

 不満や恐怖を抱いても抱えてやればいい。

 タマキと榛くんがいてくれる。

 帰って笑ったり、泣いたりすればいい。

 その子は席に戻っていった。


「……なに話してたんだ?」


 代わりに希くんが来て聞いてくる。


「今度は上手くバレーやってねって、それにうんって答えておいたよ」


 別にそこまで傷つくことじゃない。

 悲劇のヒロインぶって希くんを頼っていたら()()嫌われる。


「……そうか、次は上手くできるといいな」


 彼女は相手チームだった。

 しかも私にだけは優しく打ってくれたというのに、私はそれを落としてしまったのだ。

 明らかな接待サーブ、それに気づいたからこそ荒れたのかもしれない。

 何度も言うが彼女はそこそこ人気者。

 私と彼女が関わるようになったきっかけは、ま、過去の自分が似たように追い込まれていた時だった。

 ひとりで中学校の中庭のベンチで座って泣いていた時に、別のクラスだった彼女が話しかけてくれたのが始まりで、実はそれがまたトラブルを引き起こす起因になるとはその時は私も彼女も知らなかったが、とにかく優しくしてくれた。

 言葉遣いは榛くんみたいに男の子っぽいけど、暖かさがある人だとはすぐに気付けた。

 それから毎日いるようになって一緒に帰るようにもなって、楽しかった時間だったことはよく覚えている。

 たーだ、あの頃の私は良くも悪くも調子に乗ってんだろうなあ。

 自分が人気者になったつもりで振る舞っていたら、気づけば彼女しか側にいなかった。

 気になって理由を聞いたことがあったが、それは答えてもらえず。

 だから分かる、本当は彼女にとっても『お荷物』なんじゃないかって。

 1度話しかけてしまったから罪悪感から来てくれてるんじゃあないかって。


「おい、渚!」


 ……まあいい、来てくれてれば満足だ。

 一緒になって責めてこなければ十分と言える。


「渚!」

「ぶぇ!?」


 私の両頬を掴んで少し不機嫌な感じで見てくる希くん。


「な、なに?」

「……泣くな、見られるぞ」

「え……あ……」


 そういうことか、さり気なくそれで拭いてくれようとしたんだ。


「ありがと」

「別に。席戻るから泣くなよ?」

「うん、大丈夫だよ」


 愛想尽かされないよう頑張ろう。

 たまたま目が乾いてしまっただけなのだから。

たまに体育ガチ厨っていたな。

初心者にも怒鳴ってくる感じ?

キーパーやらされても無理だって。

サッカーのゴール広すぎない?

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