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01.『無難な生き方』

読む自己でお願い。


会話だけで終わる。


10万文字まで書いていく。

例え文字稼ぎだとしても。

つもりだけど、分からないな。

「ナギー今日も疲れたなー」

「うん、そうだねー疲れたねー」


 疲れたってアンタなにもしていないじゃん!

 ……いけない、こういう時は波風を立てず共感しておくのが1番だ。

 その子が帰って教室にひとりになった瞬間に、自分の席へとどかっと座った。


「気を使うのって疲れるなぁ……」


 たかだか委員会の掃除程度でも使っていたら削り取られてしまう。

 私、玉平渚たまひらなぎさ。高校2年生で16歳。

 こんな感じで()()()()()()というやつを意識しているが、これが正しいのかは分かっていない。

 どれだけ周囲に気に入られようと動いたところで、合わない人間というのは必ず出てくる。

 それに先程も言ったが疲れてしまうのが難点だ。


「渚、なにぶつぶつ言ってるんだよ」

「あ、希くんまだいたんだ」


 橋本のぞみくん。いや、女の子ではあるが、なぜだかくん付けをしている人物。中学生2年生くらいからの仲でありこの学校で言えば比較的仲のいい人物ではある。


「くんゆーな、帰ろうぜ」

「うん、帰ろうか」


 鞄を持ち教室を出て1階へ。

 下駄箱で靴へと履き替えている時に彼女が言った。


「あんたさ、まだ彼氏のひとりもいないの?」

「いないよ、あんまり興味ないんだよね」


 無難な生き方を心がけるということはそういうことだ。

 踏み込みすぎず妥協して、あまり期待を抱くことなく生活していくということ。

 自分にとって大切なのは普通に生きることで、それ以外は然して大切ではない。

 こういう話題を頻繁に出してくるところは嫌いだ。

 外へ出て歩いていく。

 5月の空模様も気温も中途半端で、私の心をもやっとさせてくれた。




 家へと帰ってまずすることはペットのタマキを愛でることだ。

 存分に愛でたら制服を脱いで大きな服1枚だけの姿になる。

 冷蔵庫から取り出してきたコーラを煽って携帯ゲーム機をポチポチ開始!


「おい、駄目妹よ」

「あ、お兄ちゃん」

「……パンツ見えてるぞ、もうちょっと女らしくしろー」

「でもさーお兄ちゃんなんだし良くない?」

「だから駄目なんだ妹よ」


 お兄ちゃん――はるくんはガシガシと頭を掻いてから私のお腹の上に座る。


「ぐぅぇ! お、重いよっ」

「お前さ、彼氏ができた時に困るからやめておけって」

「お兄ちゃんこそ彼女さんができた時に困るから、シスコンやめた方がいいと思うけど」


 ずっと仲良くできているのは榛くんにそういうところがあるからだろう。

 いつも自分に優しくしてくれて心配してくれる、なんて存在は全然いないから助かってはいるが。

 私を好きすぎて彼女ができなくなってしまうのは本望ではない。


「それに私、お兄ちゃんと結婚するって言ってたし」


 あの時の私はなにを考えていたのだろうか。 

 少なくとも榛くんのことを普通に好きだったのは確かだが、それを覚えているというのも複雑なもので。

 勿論、本気にしているわけではないし、榛くんにはそもそも片思い中の女の子がいる。

 綺麗で優しくて丁寧で、妹の私にも暖かく接してくれる人だ。


「馬鹿言ってないで男探せ。ただ、変な奴だけには近づくなよ」

「あれ、声がマジだよ?」

「当たり前だろ、可愛い妹が危ない目に遭ったら嫌だからな」


 榛くんは「せめて家でもスカート履けー」と言ってリビングから出ていった。

 男の子ね、一生懸命に探すような存在ではないし、タマキや榛くんがいてくれればそれでいいと思う。

 榛くん、タマキとほぼ3人での生活だし、やっぱり考えてみてもそうとしか感じなかった。




 学校までの道をだらだらと歩いていく。

 榛くんは綺麗な女の人と早くに行ってしまうので、兄妹だからといって一緒に登校することは少ない。

 単純に私がズボラだとかという理由はある。


「よ、渚」

「おはよ、希くん」


 158センチくらいある私より10センチ高い希くん。

 あとなんというか雰囲気が格好いいので『くん付け』をしている形となっていた。

 彼女と学校まで歩いて、着いても教室まで一緒に行動。

 私が席に座って彼女と話していると、大して知らない女の子が話しかけけてきた。


「玉平さんと橋本さんってどういう関係?」


 どういう関係……友達以上友達未満というところだろうか。


「友達――」

「親友だな、どうしてそんなの気になったんだ?」

「い、いや……」


 あぁ……私は察した。

 身長が高いのもあって彼女はそれなりに人気なのだ。

 男の子からも女の子からも求められることが多い。

 だが! 希くんが鈍感でまるでそれに気づかない。

 こんなの私に牽制しに来ただけだというのに、バカ正直に答えて笑っている彼女。


「は、橋本さん、ID交換しよ!」

「おう、いいぞ!」


 見てらんない。

 私は教室を出て廊下を歩いていく。

 HRまであと10分というところなのもあって、登校率は8割程度というところ。

 3階へ上がって目当てのふたりを探しに行くと、廊下でいちゃいちゃしているようだった。


「環さん、おはようございます」

「あ、渚さん! おはようございます」

「敬語はいいですよ~」


 田村たまきさん。榛くんとは小学生から仲良くて、こうしてずっといるというわけ。

 唐突だがあの子、タマキの名前を命名したのは榛くんだ。

 ……いくら好きだからってその子の名前にしてしまうのは少し怖い。


「榛くん、いちゃいちゃしちゃダメだよ~」

「してないだろ、駄目妹こそ朝から俺のところに来てるんじゃねーよ」

「私は環さんに会いにきたの!」

「ふふふ、喧嘩してはダメですよ、仲良くしてください」

「「な、なんだこの綺麗な人は……」」


 彼女は自分の頰に手を当てて「き、綺麗だなんて……」とか呟いていた。

 可愛いなーおい! そりゃ榛くんが好きになるのも無理はない話だろう。

 榛くんの言葉に反応しているのは分かっているので、辟易とした私は教室に戻った。

 私の席のところでまだ話をしているあのふたり。

 静かに座ってHRまでの時間を適当に潰したのだった。




「(あ~私が作ったご飯ってうめ~)」


 6月になると外で食べられなくなってしまうため、今日は外のベンチに座って食べていた。

 すぐ目の前にグラウンドがあって、男の子や女の子がバカみたいにはしゃいでいる。

 見ている分には好きだ。BGMというわけではないが、暇潰しにはなるから。

 もしゃもしゃ食べて、終えたら片付けて、深く腰掛けぼうっとそれを眺めて。

 なにもしていないと眠くなる。本来うるさいはずの声が、ものすごく心地がいい……。


「ふふ、溶けていますね」

「あ……環さん……すやぁ……」

「起こしてあげますから、寝ても大丈夫ですよ」

「いえ……ふぁぁ……ふぅ、榛くんはどうしたんですか?」


 ひとりでいるのは大変珍しい。

 というのも、過保護気味に榛くんが付きまとうからだ。

 そりゃ可愛くて綺麗で大切にしたのは分かるけどさあ、あまりベタベタしたら嫌われるゾ……。


「はーくんは他のお友達と楽しそうにしていましたから」

「全く……ごめん環さん」

「いえ、優先してほしいですからね、私のせいで疎かになったら嫌ですから」


 性格まで完璧とはどれだけ不平等なんだろう。

 おっぱいも大きいしスラッとしてるし、どうして環さんは榛くんにアピールしないのだろうか。

 そういえば私は彼女の好きな人を聞いたことがない。

 そりゃ簡単に言うことではないかもしれないが、隠しているのにはワケがあるのでは?

 榛くんは優しいけどそれまでとか、妹の私に言ったらバレてしまうとかそんなところ。


「環さん、好きな人っていますか?」

「ん~それは内緒ですっ」

「えぇ……」


 分かるのはこれ、実は私のことをあまり信用してくれていないのではないか、ということ。

 基本的に答えてくれることはない。

 別にそれならそれでいいが、複雑なのは確かだ。

 彼女は綺麗で長い亜麻色の髪を押さえながらグラウンドの方を見ていた。

 確かに見惚れてしまうのは分かる。

 同性の私でもジッと見てしまうくらいには美しかった。

 でも、私の彼女の間には壁がある。

 ま、それは私が望んでいることだし問題はない。

 なんでも適度が大切で、踏み込みすぎればいいわけではないのだから。

 私は「戻りますね」と言ってその場をあとにする。

 下駄箱で上履きに履き替え、廊下、階段、廊下を歩いて教室へ。


「おい、どこ行ってたんだよ」

「ちょっとお外で食べてたの」

「だったら一声かけてから行けよな」

「仕方ないじゃん、だって希くん盛り上がっていたし」


 こうして声をかけてくれればそれだけでいい。

 無難な生き方というのは、こうして普通を心がけるべきだと思うのだ。

 仲良くはないにしても、誰からも敵視されないようなそんな感じ。

 それができているだろうか?

 一応、嫌なことがあっても口には出さず生活しているが。


「くんゆーな! それでも声くらいかけろよなー」

「邪魔できないって、ほら、席に戻りなよ」

「ま、そうだな」


 たまにスっと真剣な顔になる時だけは少し怖い。

 でも、いい子ではあるので、私は彼女のことを信用していた。

タマキはロシアンブルーかな。

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