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デストピアの先兵 中編

あらすじ:

地獄からの使者ナオに余命1日を告げられたアカルは初恋のひとと会うことにしたのだが…

傷ついたアカルはナオに慰められる。







 俺は再び新宿西口の思い出横丁でナオと日本酒を飲んでいた。



 「うーん、それにしてもアカルなんであんなのに会いに行こうと思ったわけ?」



 「余命宣告っていうの受けたらさぁ、初恋のひとに会いに行くってマイルール作っちゃってたからだなぁ」



 「そのルールに縛られちゃってたってワケか、アカルって時々底抜けにバカだよね」


 今日はいろいろなことがあり過ぎでお腹一杯だ、一日の終わりのセルフ反省会をする時間なんて、今となっては無駄でしかないんだろうけどこれも自分に課したルールなんでやってるところ。


 ―――予測計画実行とその変更―――


 頭では解ってるんだけどね、中途半端にそれに固執した挙句に追加の地獄経験を六本木の秘密倶楽部ででしてきたってワケ。




 「十数年ぶりにご対面した初恋のひとがなぁ、アタマにうんこのっけながら、灰皿にうんこしてるんだもんなぁ、全裸でダブルピースしながら」



 「カノジョの周りを取り囲んでたの、政治屋とか官僚屋が多かったね、カノジョ出世したってことじゃん!祝おうよ!」



 「なんだか連中、俺の反応が薄くて不満そうだったよな、絶望して発狂するようなリアクションを期待していたんだろうなぁ」


 とは言ってもそんなサービスしてやる必要は、今はもう無いので早々に撤収した、権力者に媚びることで出世する広告代理店のエリート社員としてはあそこで狂い咲きピエロを演じるのが正解なんだろうけどね。



 「カノジョの両親も同じシチュエーションで対面したってね、その時はイイ反応があったみたいだけどね、あ、アカル日本酒おかわりもらって?」


 母親は娘を殺そうと飛び掛かり、父親は娘をファックしてるパーティのボスを殺そうと飛び掛かり、取り押さえられてその場で射殺されたそうだ、悪い冗談みたいな、多分本当の話だ。


 最終的に引き金は彼女が引いたそうだけど、そこでパーティは最高潮を迎えてみんなで大笑いして大変盛アガったそうだ、勿論彼女も狂ったようにダブルピースしていたらしい。




 「まぁ俺が彼女のことを好きになったときには、もう立派に連中の性奴隷やってたってのはさ、薄々気づいてたけんだけどちょっと、ほんのちょっとだけショックだったかな」


 処女はジュニアアイドル時代の11歳の時に3百万円で買ったとか、葉巻をくわえたブタオヤジがヘドロのようなニヤニヤ顔で教えてくれた。



 「秘密倶楽部のクリスマスパーティーなんてあんなもんでしょ、アカルーもーいつまでしけたツラしてんのよもー楽しもうよー、日本酒おかわり?」


 あの倶楽部での出来事に対して、俺には特に何かしらの感情の揺れというものがなかったのだけれども、それは意地で揺らさなかったと言うよりも、


 そもそもそんな感情と言うものがこの管理社会のこれまでの生活の中で蒸発していたからなのかもしれないとふと思った。そういえば感動ってどんなんだったっけ?


 おそらく俺の初恋のひとも最初は余裕で強がって見せて、後悔なんて無い、なんてったってアイドルだから、なんてことを考えていたのかもしれないな。


 そのうちその感覚が麻痺したのか、もしくは正当化するために、理想だとか良心だとかだとかそういったものが、全て本人の都合のイイようにクソとすり変わっていったのかもしれない。つまらない推測だけどね。




 結局俺も彼女も自分だけでなく周りの人たちを巻き込んで地獄に堕ちていっている点においては同類なのだ、おもむろダブルピースをする俺、ナオにはやけにウケてる。


 イヨッ!地球を道連れにして自殺してる人類代表!とナオがおどけてくれた。



 「あーなんだか俺、今ここにきて、彼女に対して謝らなきゃって思ってるわ、申し訳ないことしたなぁ」



 「だねー、アカルがカノジョに視線でいろいろ問いかけてたじゃない?あの時カノジョ何回か正気に戻ってたよ?カノジョにしてみれば大きなお世話だっただろーねー」



 「彼女と地獄でまた会っちゃったりして」「どうだかね、結局お互いふさわしい場所に落ち着くってことになると思うよ?」



 「それが地獄なんじゃないの?」「地獄もまーいろいろあるんだよ、アカルちゃん?」



 「あ、そだ、地獄行きだなって思うと胸が苦しくなるんだけどこれも地獄サービスのひとつなの?」「それは単に過労死手前の心不全だと思うけど、まあそういう良心の呵責とかも含めて地獄だから、うん」




 ナオとは結構楽しくお酒が飲めた、いつの間にか夜が更けていた。


 俺は会社に戻ってきていた。明日の朝遅刻するワケにはいかないので、会社の会議室で寝ることにした。まあいつものことだ。


 フロアにはまだ結構な数の過労死予備軍が働いていたのだが、数名は俺のことを怪訝な顔つきで見ていた、昼の騒動を知っている連中だろう。


 寝る前に一仕事、多少お酒が入っていてもいつでも仕事モードに戻れるのは今となってはどうでもいい俺の特技のひとつだった。


 ひとまず両親や友人たちに手紙を書く、間違いなく検閲されるので感謝の言葉だけ記して投函する。


 そして朝礼で俺が行うことになっているプレゼンテーションの最終確認を行った後、俺は会議室の椅子を並べてその上に横になった。


 俺がデスクに向かっている間は、リカちゃん人形サイズで俺の周りをふよふよと浮遊していたナオだが、俺が横たわるタイミングで少女サイズに戻り膝枕をしてくれた、そしてお疲れちゃんとねぎらいの言葉をかけてくれた。




 「アカル、最後のプレゼン頑張ってね!」「あーおやすみ、ナンかいい夢見れそうだよ」うん、きっと見れるよ、悪い夢から覚めたからね、そんなナオの言葉を聞きながら俺はいつしか眠りに落ちていた。


 夢の中でナオに慰めの先払いなのかな?をもらった、小学生の頃の俺になって、満開の桜並木の学園通りをデートした、プールで鬼ごっこした、黄色のイチョウ並木で落ち葉の投げあいをした、ふたりで雪だるまを作った。


 三角屋根の駅の改札口で別れる、ナオは改札口からホームにあがるまで、ずっとこちらを気にしてくれていて、俺は手を振り続けていたんだ。ここから先は地獄から見ていてくれ。


 そこで目が覚めた。俺は長らく忘れていた感動というものを取戻していた。


 だから御礼に俺はナオにこのプレゼンを捧げることにした。


 さて、ナオは悪魔だったのだろうか?


 俺にとっては天使、いや、それ以上の存在であることは確かだな。








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