イントロダクション
あらすじ:
なろう小説大好きOLのタカコは、夢の中で美少年と秘密のデートを繰返す。
幸せをかみしめるタカコ、しかしその少年の正体は…
なろう小説の読み過ぎのせいなのかしらこれは。
私好みの見たことがないような美少年が毎晩私の夢に出てくるようになったんですけど。
きっと毎日ヘトヘトになるまでマジメに働いている私へのご褒美よねこれは、うん。
と言う訳で私は毎晩寝るのを楽しみにしていた、そんなある日の夢の中。
「ねぇ、タカコ、何ぼーっとしてんの!」
「はえ?」
「はえ、じゃないよー、早く行こうよ、観覧車乗れないよー」
文字通り夢の中で繰り返される秘密のデート。
その夢のような時間を通じて私はあることを確信し始めていた。
デートで訪れる場所、少年の振る舞いや仕草、夢の中の空気の色。
これら全ては遠い昔に経験し見ているものばかりだった。
2人を乗せた観覧車は最上部に差し掛かり、そこで停止した。
少年は私を見て困ったように微笑んでいた。
夕日の中の少年は相変わらず美しく、幻想的な風景に溶けこんでいた。
「…うん、キスしてよ、お別れの」
私は少年をそっと抱きしめて唇に触れるだけのキスをした。
「お別れってことは、私も、もうおしまいってこと?」
「気付いてくれたから、辛いこと話さないで済んで良かったよ、ありがとう、最後まで優しいんだね、タカコ」
この少年はいわゆる死神なんだと思う。
幼い頃に親戚のお葬式で、何度か見かけたことがあった。
そしてデートの風景は消え去ったものばかり、この遊園地にしても私が小学校の頃に閉鎖されている。
「ん?どうしたの?私は楽しい時間を過ごせて満足だったよ?」
少年の様子がいつもと違うのが気になった。
すると少年はその美しい顔をクシャリと歪め、堰を切った様に泣き始めた。
「ボッ、ボクさっ、本当はっ…本当はこんな仕事っ、したくないんだ!!」
私はもらい泣きをしていた、私は彼を強く抱きしめた。
「だけどっ、なんか昔に悪いことしちゃったみたいでっ!!」
私の胸に顔を埋め泣き叫んでいるこの少年の苦悩を取り除くために、私が出来ることを考えていた。
「好きになっちゃう人が死ぬところばっかり、ばっかりもうずっと見させられてっ!!」
私はあることを思いついた。
「ねえ、私さ、これからどうなるの?」
「?…魂は天国に行く事になってるよ?」
観覧車のドアが開いた、そこから天に向かって階段が伸びていた。
階段のはるか上方にもうひとり別の少年が立っていて、私に手を差し伸べているのが見える。
「これを拒否すると地獄行きって訳ね」
「!?だっ、ダメだよ?そんな…」
私は少年を抱きしめたまま観覧車のドアを出て、階段を上る代わりに地面目がけて頭から飛び落ちた。
「こんなロマンスも、良いかなあって」
「タカコのバカバカ!!大好き!!」
私の当初の目論見では、天国行きを拒否したことで、 少年と死神をやることになるのかなと思っていたんだけど…。
気付いたらいつもの部屋で、いつもの朝だった、―――
「生きて…地獄を味わえってことか」
――― と、思いきや、隣にはテレくさそうに微笑む少年の姿があった。
「なんか、タカコのせいで、地獄追い出された、面倒みてよ」
このコと一緒なら何でも出来る、そんな気がした。
退屈そうな天国よりもこっちの方が、 なろう小説って感じだし、私好みだと思うのだ。
ふたりは抱き合い幸せなキスをしておしまい―――
「「愛してるよ!!」」
―――と、思いきや、何者かが私の肩をつつく、首だけでふりむくとそこには階段の上にいた少年がジト目で正座していた。
「あなたのせいで、天国を追い出されました、面倒みて頂けますよね?」
「え!?マジで!?」笑顔で固まる私。
「なんというオチのような展開!!」腕の中の少年もどこか楽しそうだ。