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やめて!あたしのために争わないで!

〈ヨシオ〉



ダムダムダム。


体育館の床に、バスケットボールが跳ねる音が心地よい。


ダムダムダム。


バスケ部が体育館で練習する様子を、俺と如月さんは覗き見ていた。


「これじゃ、体育館では練習できないな」


バスケ部のメンバーに気づかれないように練習することが、如月さんの望みだから、こんなとこで練習しようものならバレバレだ。


「どうしよう……」と、如月さんはあたふたしている。こういうツンデレ娘は、えてして根は弱いものだ。


「実は俺、良い場所知ってるんだ」


俺がそう言うと、如月さんは「どこよそれ!?」と、表情を明るくした。おまえは犬か。




〈タマキ〉




「やあ、吉岡くんじゃないか」


僕は、偶然を装って、彼に声をかけた。


「な、なんで藤巻がここに……?」と、吉岡くんは驚いているようだ。


「放課後、体を動かしたくなったら、よくここに来るんだ」と、僕は嘘をついた。こんなところに来るのは、今日が初めてだ。


ただし、嘘がバレないように、僕はあらかじめここに来て、すでに運動を始めていた。そのため、適度に汗をかき、暑くなってきたこともあり、僕は上着を脱ぎ捨て、その上シャツも腕まくりをしているくらいだ。


そう、ここは隣町のバスケコート。だれでも自由に使えて、学校のみんなの目にもつかないから、吉岡くんはきっと、如月さんをここに連れてくるだろうという僕の予想は、どうやら的中したようだ。


「吉岡くんこそ、なぜここに?」と、全部知っているけど、僕は儀式的に聞いておくことにした。


「部活の依頼でな。この子とバスケの練習をしにきた」と、吉岡くんは如月さんに目配せして言った。


「ああ、なんでもお助け部の!」と、僕はすっとぼけてみせた。


「じゃあ、ひとつ提案があるんだけど」と、僕は続けた。


「僕も手伝ってもいいかい?」


如月さん、きみに吉岡くんは渡さないよ。




〈ヨシオ〉



例によって例の如く、藤巻タマキめ……!俺は、心の中で地団駄を踏んでいた。


またしても、なぜか先回りされていた挙句、手伝うだと?そんなの、運動神経抜群のおまえのほうが、目立つに決まってるじゃねえか!


藤巻に協力を仰ぐ道理なんて1ミリもないと思い、丁重に全力でお断りしようとした。


が、「ちょっとなによあのイケメン。めっちゃバスケ上手そうだし手伝ってもらいましょうよ」と、如月さんは目を輝かせながら、すでにノリノリのご様子。


あ、終わったわこれ。


フラグが折れる音がした。



ーーように思われた。



「まあ待てよ、藤巻」


いつも負けっぱなしで、黙っているわけにはいかない。


「俺の大事な依頼主を横取りとは、いただけねえな」


そう、今回ばかりは話が違うのだ。


「ここはひとつ!どっちが如月さんにバスケを教えるか、勝負といこうじゃないか!」


俺の闘志はまだ燃えていた!なぜならば!こんなこと(青春イベント)もあろうかと、俺は人知れず無駄にバスケの練習をここでしていたのだ!


今日という今日は負けられない。俺の努力とプライドが、敗北など許さない。


「やめて!あたしのために争わないで!」と、如月さんは叫んだ。本当の意味でそんなセリフ言う女の子、初めて見たよ。




〈タマキ〉




吉岡くんが僕に勝負を挑んでくるなんて、思いもしなかった。ましてや女の子のためにだなんて、嫉妬しちゃうよ。


だから、ごめんね。少し本気を出してしまった。


コートに倒れる吉岡くんを見下ろして、僕はそう思った。


勝負は1 on 1で行われた。結果だけ端的に言うと、僕は彼をボコボコにしてしまった。思っていたより吉岡くんは上手だったけど、それでもまあ普通だった。


そんなところがかわいいんだけどね、と僕は密かに吉岡くんにウインクを飛ばしながら、如月さんのもとへ歩み寄った。


「ごめんね、もとはと言えばきみの練習をするためにここに来たみたいだったけど、余計な時間を使っちゃったね」と、僕は如月さんに思ってもないことを言った。むしろ、僕はもっとこうして、吉岡くんと遊んでいたいんだけどな。


「い、いえ!よろしくお願いします!」と、如月さんは元気よく返事した。




〈ヨシオ〉




ぐはっ……恐るべしイケメン……!


手も足も出なかった。俺が無駄にしていた練習は、文字通り無駄だったというわけだ。


またしても、俺はフラグを折られてしまった。


ああ、藤巻と如月さんが、一緒にどこかへ遠のいていく。


コートに倒れ、薄れゆく意識の中で、俺は彼らに手を伸ばした。


すると、如月さんがなぜか、俺のほうに歩み寄ってきた。


!?

まさか如月さんとのフラグはまだ折れていなかったというのか……!?


「やっぱり、吉岡先輩と練習したいです!」なんて言われたりして、「こらこら、しょうがないやつだな」なんて言ったりして……そんなことを考えていたが、現実は違った。


「あ、あんなバスケが上手いイケメンに会わせてくれるなんて……べ、別にお礼なんて言わないんだからね!バカ!」


如月さんは、腰のあたりに左手をやって、右手で地面に伏す俺を指差して、それだけ言って立ち去ってしまった。




改めて言うぞ。


ほら、デレただろ?

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