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部活動開始なんだからね!

〈ヨシオ〉



「べ、別にお礼なんて言わないんだからね!バカ!」


腰のあたりに左手をやって、右手で俺のことを指差しながらそう言った少女は、それがさもツンデレキャラの代名詞的ポーズであるかのような、そんな立ち振る舞いだ。


「かわいいなあ」と呑気に考える一方で、俺は勝ち誇る気持ちでいた。


「ほらな?デレただろ?」



ーー二時間前ーー



放課後、俺と成瀬は例のツンデレ少女の依頼を受けるために、部室へと足を運んでいた。


「それにしても、絵に描いたようなツンデレだったな」


俺はだるそうに学生鞄を肩に下げながら、成瀬に話しかけた。


「キリッとした猫目!ツインテール!小さな背丈に控えめなバスト!ツンデレマイスターが見たら、涙を流しながら崇めたくなるような逸材だね」


成瀬は大袈裟に身振り手振りしながら、彼女の特徴を述べたてた。


「どうせおまえは、知ってたんだろ?あの子のこと」


俺がそう訊ねると、成瀬は待ってましたと言わんばかりに、鼻を膨らませて答えた。


「もっちろん!我が鳳凰おおとり学園の女子のデータはすべて!この輝く眼鏡の奥の脳にしっかりとファイリングされているからね」


成瀬は女好きだ。前回も言ったが、ラブコメ物の主人公の親友ポジって、こんなやつ多いだろ?賢明なるポタクの諸君なら、想像に難くないはずだ。


しかし、現実とは悲しいもので、成瀬はモテない。モテるのは俺だ。成瀬はずっと俺と一緒にいるだけあって、そのこともわかっている。だから、途端に声のトーンを落として、こう続けた。


「まあ、どんだけ女の子の情報持ってても、どうせみんな、おまえのことが好きになるんだけどな」


成瀬はいつのまに取り出したのかわからないハンカチを口にくわえて、わざとらしく「キーっ!」とやってみせた。


「ま、そうだろうな!」


俺は渾身のドヤ顔で答えてやった。俺は自分が主人公であるという傲慢さ(自分で言うか)を、基本的にはだれにも明かしていない。だって、そんなことをひけらかす主人公はどこにもいないからな。きらわれでもしたらどうする。だが、成瀬は別だ。こいつとは付き合いが長いから、オープンでいる。


「まあ、でも」と俺は続けた。


「どうせまた、藤巻に邪魔されちまうんだろうけどな」


俺は露骨に肩を落として、言ってみせた。


「違いねえ」と、成瀬は意地悪な笑顔を浮かべた。


何度繰り返したかわからないこんな会話をしていたら、部室の前にたどり着いていた。


俺が部室のドアに手をかけようとしたとき、別のだれかの手と重なった。


と、同時に通路の端のほうで、ガタガタという音が聞こえた。なんだ?


それはさておき、これはまたテンプレな展開がきたものだと思って、そのきれいな手の主を見た。


「やあ奇遇だね。きみたちも今来たところかい?」


そこには俺と成瀬以外の、もう一人の部員がいた。


「なんだ、シノブか」


がっかりしたわけではなかったが、俺は思ったままのことを口にした。


「僕じゃ不満なのかい?」


シノブはむすっとするというよりは、からかうようにそう言った。


そう、何を隠そうこの東雲シノブはボクっ娘だ。髪は肩にかからないくらいの短さで、凹凸の少ない細身の身体、常に何かを企んでいるような不適で魅力的な笑みを浮かべる彼女は中性的だが、女性としての美しさをしっかりと備えている。


だが、俺はシノブのことが少し苦手だ。シノブも成瀬や藤巻同様、小学校以来の付き合いだが、今の今まで一度だってーー




「いや、むしろ少しドキッとしたくらいだよ。どんな子だろうって見てみたら、シノブだったんだから」


俺は、わざとらしく髪をくしゃっとやって、そんなことを言ってみせた。


が、シノブは「ふーん、そっか」で済ませてしまった。




そう!東雲シノブは!今の今まで一度だって!俺とフラグが立ったことがないのだ!


もちろんらこの星に住まうすべての女の子が、俺を好きになるわけではない。そんなことは、俺だってわかる。だが、俺と話したり少しでも関わりをもったりした女の子は、大抵俺のことが気になってしまうものなのだ。それなのに、シノブはこんなにも長い間俺と一緒にいるのに、フラグが立たない。俺は鈍感系主人公ではないから、それくらいわかる。


くっ……!キザなこと言ってスカしたときほど、恥ずかしいものはないぜ。


成瀬が好奇の目でこっちを見てやがる。見んなボケ。


俺は視線を再びシノブに戻して、だいたいこの手の同じ部活の女の子キャラは、黒髪ロングのクール系、もしくはおしとやかなお嬢様と相場が決まっているだろう、などと考えていると、「なに?」とシノブにきかれた。


俺は慌てて、「い、いや」と取り繕おうとした。


「ほ、ほら、なんかさっき、向こうのほうでガタガタ音がしなかったか?」


話を逸らすために、俺は先ほどの物音について訊ねた。


「そんな音したかい?」と、シノブは気づいていなかったようだ。


話続かねー……と思った俺は、「そういえば、今朝もう依頼者が来てたんだよ」と続けた。


「そうなんだ。どんな子だろう」と、シノブが改めてドアを開くとーー噂をすればなんとやら。


「遅い!いつまで待たせるのよ!」と、その子は左手を腰にやって、一方の手では、入ってきた俺たちを指指した。


「こんな子だ」「こんな子か」俺とシノブは、流れるように数秒前の答え合わせをした。




ーーなんでもお助け部とは言っても、何も大仰な組織ではなく(人員から見て察せられると思うが)、ちょっとしたボランティアみたいなものだ。だから、今日もいつものように即席の椅子と机を用意して、依頼者と向かい合って、彼女の話を聞き始めた。


ツンデレ娘の名前は如月サキ。学年は俺たちの一つ下で、クラスは1-2。バスケ部に所属しているとのことだ。まさか年下にタメ口をきかれていたとは……。


「……さて、一通り自己紹介してもらったところで、依頼ってのはなんだろう?」


「全部知ってた情報だけど」みたいな気持ちの悪い顔をしながら、成瀬が訊ねた。


しかし返事が来ない。よほど成瀬の聞き方が気持ち悪かったのだろうか。


改めて俺が訊ねてみたが、「そ、その……」と、どうも煮えきらない。


すると、シノブが「部活に関係あることかい?」と、聞き方を変えた。


「ぎくっ」という効果音が実際に出たんじゃないかと思えるくらい、如月さんの表情は一変した。


「べべべべべつに、そそそそそそんなことないわよ」


目をこれでもかと泳がせながら、如月さんは答えた。どうやら部活絡みの悩みらしい。


しかしシノブは、「そうかぁ違うかぁ」と言ったかと思うと、どこからともなく取り出したバスケットボールを如月さんに放ってみせて、「じゃあ、これちょっと投げてみてよ」と、意地悪そうに言った。


「ぐぬぬ……」と、如月さんはボールと睨めっこしていたが、しばらくすると観念したように、「ふぇぇ」と泣き出してしまった。


「バカ!依頼者泣かすやつがあるか!」


俺は小声でシノブを叱りつけたが、本人は「ごめーん」と軽い。どうもこいつには、こういう悪いとこがある。


いち早く成瀬が、慰めるために如月さんのもとへ向かって行ったが、「キモい」と一蹴されていた。これはこれでかわいそうだ。成瀬が一体何をしたというのだ。


「これじゃ話が進まないね」と、諸悪の根源であるくせに、シノブが仕切り直そうとした。


「ごめんよ、困っているきみがかわいくてさ。やりすぎちゃった」


シノブは、如月さんに寄り添って、反省している様子ゼロで優しく語りかけた。


「……いいのよ、あたしが下手くそなのが悪いんだから」


如月さんは、唇をぎゅっと噛みながら、そう言った。


なるほど、そういうことか。


俺たちは、如月さんが落ち着くのを待ってから、改めて話を聞いた。


どうやら、如月さんは、バスケ部に入ったのはいいが、ドがつくほどの下手くそで、うまくいってないらしいということがわかった。しかし、本人の不遜な性格上、部員に正直に頼ることができなくて、俺たちのもとへやってきたようだ。


絶対、部員に教えてもらったほうがいいと思うんだけどな……。


めっちゃ口に出したかったけど、ぐっと堪えた。ただでさえシノブが無礼を働いたんだ。これ以上の狼藉は許されまい。


「わりぃ。俺は力になれねぇわ」と、初めに言ったのは成瀬だ。


「運動はからっきしでさ。きっと役に立てないよ」と成瀬は続けたが、如月さんに「あんたは願い下げよ」と、またもや一蹴されていた。

「なんで!?」と成瀬は大袈裟に驚いていたが、諦めろ成瀬。おまえはそういう星の下に生まれたのだ。来世は主人公になれるといいな。


「うーん僕もパスかなぁ」と続いたのは、シノブだ。


「は!?おまえは運動、得意だろ?」と、俺は思わず聞き返した。


「最近、腕を痛める怪我をしてしまってね。とても球技なんてできる状態じゃないんだ」


「ごめんよ」と、顔の前で手を合わせて見せた。


と、いうことはだ。俺しかいねーじゃねーか。


そのときだ。またしても、今度は部室の外でドタドタと音が鳴った。


「なあ、またなんか外のほうで音しなかったか?」と聞いたが、「話を逸らそうったって、そうはいかないよ」と、シノブにあしらわれてしまった。


「はぁ」と、頭をがしがしやりながら、俺は観念したように、如月さんのほうを向き直った。


「えーっと、よろしく如月さん」


俺も運動、そんなに得意じゃないんだが。




〈タマキ〉



放課後、例のツンデレの子が、吉岡くんにときめいてしまっていないかを調査するために、僕は彼らの部室の前に張り込んでいた。


「はっ!」


僕の第六感が告げる!100m先に吉岡くんの気配!部室へと接近中!


僕は即座に物陰に隠れた。


すると、吉岡くんと成瀬くんがやってきた。


「くっ……!」


羨ましい。彼らはなぜあんなに仲良しなんだ。僕だって、付き合いの長さは一緒のはずなのに。


「はっ!」


またしても僕の第六感がはたらく。もしかして、彼らはすでに恋仲なのでは……!?いやだが、成瀬くんは無類の女の子好きと聞く。しかし、吉岡くんとの仲をカムフラージュするためのブラフという可能性も……。


などと考えていると、気づけば吉岡くんの手と女子の手が触れ合っていた。


不覚!僕は激情に身を任せ、彼らの前に飛び出してしまいそうになった。


そのとき、近くにあった掃除用具箱に足が当たってしまい、ガタガタと音を鳴らしてしまった。


「しまった!」と、僕は即座に冷静さを取り戻した。


幸いにも、彼らには気づかれていないようだ。


それによく見ると、吉岡くんと手が触れていたのは、東雲さんだった。


「なんだ、東雲さんか」と、僕は胸を撫で下ろす。


彼女なら、まあ大丈夫だろう。僕の第六感が告げている。東雲さんはきっと、吉岡くんのことは好きにならない。


気づけばみんな部室に入ってしまっていた。


僕は素早く、しかし静かに部室へと近寄り、部室のドアに耳をそっと近づけた。


……わかっている。はたからみたらヤバイ光景だって。だから慎重にやる。人目を常にはばかり、慎重に聞くんだ。


耳をそば立てていると、話が聞こえてきた。


なになに?例のツンデレの子は如月さんというのか……バスケ部で……うんうん……成瀬くんイイ気味だ、じゃなくて……なに?吉岡くんとマンツーマンで練習……!?


そのとき、僕はまたしても冷静さを失っていたようで、背後から訪れる人の気配に気づかなかった。


慌てた僕はドアとぶつかって、またしてもドタドタと音を立ててしまった。それに、女の子が二人廊下を歩いて近づいてきている。万事休すーー!


と、思われたが、部室の中から、彼らが物音の正体を探りにくることはなかった。


また、接近してきていた女の子たちは、「藤巻さん、自分の部活でもないのに熱心に話を聞いてるなんて、すごい!」「きっと力になりたいのね!さすが藤巻さんだわ!」と、キャーキャー言いながら僕の前を通り過ぎていった。


なんか知らんけど助かった。


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