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お見舞いフェスティボー⑥

〈ヨシオ〉



女の子としゃべるとキョドっちゃう。まったく困ったなぁーーなんて、事態はそれどころではなくなった。むしろそのせいで招かれた結果により、俺は今ピンチに陥っている。


「きみ、女の子絡みでなんかあったでしょ」


すべてを見透かしたようにそう言ったシノブの瞳には、もはや俺に是非を問わないようなプレッシャーが垣間見えた。


だが、勝算があるわけでもなく、俺はただくだらない意地だけで抵抗した。


「な、なにか証拠でも?」


推理もので、図星を突かれたときに犯人が使う常套句だ。まさか自分がそれを口にする日が来るとは。しかもガチで追い詰められた状況で。


「別にないよ。強いて言うなら今のきみのうろたえようかな」


しかしシノブはけろっとした様子で軽くそう言った。俺の態度一つで優劣がひっくり返るならいくらでも芝居をうとうと思ったが、


「っ……」


ただでさえ女子としゃべることを困難に感じている今の状況で上手く立ち回れるはずもなく、何よりそんな小細工がシノブに通用するとは思えず、俺はただ黙ることしかできなかった。


俺とシノブは小学校来の関係だ。それも藤巻のように一方的に嫌がらせをしてくるような間柄ではなく、友達としてその時間を共に過ごしてきた。だから俺はシノブのことを信頼している。


だが、その長い付き合いをもってしても、信頼関係をもってしても、俺には警戒せざるを得ないことがあるーーシノブに弱みを見せてはならない。その結果なにが起きるかはわからないが、何かマズい気がするという直感はある。シノブには、そう思わせる影が見られる。


ゆえに、「モテまくりのハーレム主人公である俺が、実は女の子にビビっている」というクソ恥ずい事実を、シノブに知られてはいけないという危険予知が、俺の中で鳴り響いている。しかしなす術もないのも事実ーー。


俺は白旗を揚げた。シノブに対して隠し事は無駄だ。最も知られたくない相手だが、こうなってしまった以上は白状せざるを得ない。


「実はーー」


俺は話した。昨日の放課後、バスケ部のツンデレ下級生とのフラグを藤巻に折られたことに安堵したこと。隣のクラスの生徒会長の白石さんとのフラグを自分で折ってしまったこと。女の子が恐いこと。恋が恐いことーー俺はすべて話した。


肩の荷が降りたように、心が軽くなった。皮肉にも、最も打ち明けたくなかったシノブに話すことで、俺は少し楽になってしまった。


少し長くなってしまった俺の話に、シノブはところどころ頷きながら耳を傾けた。そして最後まで聞き終わると、意外にもあっさりと「そっか」とだけ言った。


しばらくシノブはなにか思案していたようだが、「僕の知らない間にそんなことがあったんだね。まあそんなことだろうとは思っていたけどさ」と勝手に納得してしまった。


そして「意外ときみも、それなりに悩んでいたんだね」とよくわからないことをボソッと漏らした。


俺が訝しんでいると、シノブは「や、なんでもないよ」と両の手のひらをこちらに見せてひらひらしてみせた。


間もなくシノブは何か思いついたように、そのひらひらさせた両手をポンと合わせて「するとだ。きみは今こうして僕と二人きり、っていう状況にもたじたじなわけだ」と笑ってみせた。


だからいやだったんだよ……そう思ったが、もはや否定する気力もなく「そうだよ」と力なく返事した。


するとシノブは、またしてもその小さな顔をぐいっと近づけてきて、「じゃあ、こんなのもずっとドキドキしてたんだ?」と意地悪に訊ねてきた。


俺は自分の視線を、目の前にあるシノブの瞳と自室の壁とを行ったり来たりさせながら、「そ、そうだよ」と小さく呟いた。自分の顔が熱くなるのがわかる。


それを聞いたシノブは満足そうに「あはは」と笑った。


そしてそのまま俺の目の前で、制服の襟を引っ張って、


「こことか」


あるいはスカートの端をいじらしく指先でつまみ上げて、


「こことかーーさっきもすごく見てたもんね」


見るまい見るまいと強く誓う努力も虚しく、俺はシノブに誘導されるがまま彼女の胸元を太ももを目で追っていた。くっ……!


「えっち」とシノブはジト目で俺を見た。


「もう、やめてくれ……!」と俺はこれ以上火照る顔を見られるのがいやで、両手で覆い隠した。このシチュ、普段ならフラグだなんだと舞い上がっているところだが、今の俺には対処不可能だ。刺激が強すぎる。


するとシノブはまたしても「あはは」と嬉しそうに笑って、「ごめんごめん。からかいすぎた。きみもかわいいとこあったんだね。普段からそうしてればいいのに」と追い討ちをかけた。


恥ずかしすぎる……普段イキがって女子と接しているところを晒しているがゆえに、今のうろたえようを見られるのは苦痛以外のなにものでもない。


ジョシコワイ。ゼッテーコイツハラグロイ。さながら人間と初めて相対する化け物が如く震える俺を見て、シノブは「ごめんよ」と再度謝った。


「そうだね、吉岡くんは胸を割って悩みを打ち明けてくれたんだもんね。それを無下にしちゃいけないよね。」とシノブは独りでつぶやきながらうんうんと頷いた。そしてしばらくして「よし」と言ったあと


「僕も胸を割って話すよ。吉岡くん、きみへの秘めたる想いを」


そう言って、シノブは先ほどまでとは打って変わって、まっすぐな瞳で俺を見つめた。


「……え?」


俺は動揺した。なにこれ。なんでそんな真面目なひょうじょうで俺を見るんだよ。なんだよ俺に対する想いって。


沈黙が訪れた俺の部屋には、妙な緊張感が漂い始めた。


……え、なにこれ。さっきは冗談でフラグだなんだとか言ったけど、思い返せば今日のこいつの思わせぶりな言動の数々、シノブのやつ、まさか本気で俺のことーー


俺がそう思ったのも束の間、シノブは気持ち良いくらいにはっきりと言い切った。


「実は僕、きみのこときらいなんだよね」


「……え?」

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