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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.6 < chapter.7 >

 騎士団本部五階、特務部隊隊長室。

 この日は珍しく、総務部のリナが来ていた。

「ベイカー隊長……そろそろ前期の活動報告をまとめておかないと、事務処理が……」

「ああ、そうだな。今年度は厄介な案件ばかりだったから、こちらから話をしに行こうと思っていたところだ。この後、時間は大丈夫か?」

「はい! ゴヤッチの報告書待ち以外、何の予定もありません!」

「では、今から始めよう」

 そう言いながらリナを案内した席には、既に今年度の事件ファイルが山積みにされている。言葉だけでなく、本当に、今まさにこの作業を始めようとしていたことが窺える。

 ベイカーは慣れた手つきでファイルをめくり、中身を読みもせず、『でっち上げ文書』が必要な案件にだけ付箋を貼っていく。

「わあ~! ベイカー隊長、さすがですぅ~! 全部暗記しているんですかぁ~?」

「ああ、もちろんだ。特務部隊長として、そのくらいは当然のことだ。はっはっは」

 と、大嘘をつくが、リナにはそれが分からない。

 美人事務員に『デキる男』ぶりをこれでもかというほどアピールし、ベイカーは自身にとって二度目の書類作成を、実にスムーズに終わらせていった。

 同時刻、情報部でも『さっきと同じミーティング』が行われていた。

 議長席にはピーコックが座り、その隣にはサクソンがいる。ラピスラズリにとっては二度目のやり取りを無難にこなし、問題の文書が登場するあの時刻に差し掛かる。

 並行世界側から持ち込まれた問題はベイカーとともに解決した。もうこれで、何事も起こらないはずだったのだが――。

「あっれぇ~? これ……誰の担当だっけ?」

 ピーコックの声に、ラピスラズリは全身を硬直させる。


 そんな馬鹿な。


 まさかと思ってピーコックの手元に目をやれば、そこには先ほどとは別の文書がある。

「筆跡はシアンっぽいんだけど、署名が『ラピスラズリ』になってるんだよね?」

「日付がおかしい。その日俺は休みだった。誰の悪戯だ?」

「だよねぇ? それに内容も……」

 ラピスラズリはごくりと唾をのみ、恐る恐る尋ねてみる。

「おいおい、誰が俺の名前騙りやがった? それ、どんな事件なんだよ?」

「ええと……」

 報告書に目を落とし、「ん?」と考え込むように動きを止めるピーコック。

「どうした? 何かおかしなことが……って、うわ、マジかよ……」

 止まっているのはピーコックだけではなかった。ラピスラズリ以外の全員が動きを止めている。

 時計の秒針は動かず、ポケットから取り出した通信機はどのボタンを押してもうんともすんとも言わず。


 いつもと同じ『リセット&リトライ』が始まっていた。


「……フェンリル? 俺、いつになったらヨボヨボのおじいちゃんになって年金生活できると思う?」

 いつの間にか顕現していたフェンリルは、ニッコリ笑ってこう返す。

「私は『英霊』を抱えたことは無いのだが、タケミカヅチの英霊たちを見て気が変わった。大人数で暮らすのも楽しそうだ。『器』としての利用価値がなくなっても、お前を手元に置き続けてやるゾ☆」

「一切の希望がねえ」

「おや? なぜ喜ばない? 神の傍らに座すことを許されたのだぞ?」

「ウッワァ~……どっちが糞野郎だ、このド腐れ狼……」

「ほほう? 私の器はツンデレというやつなのかな? まったく、可愛い奴め」

「く……いっそ殺してくれ……」

「何をしている? さっさと行くぞ。私たちが戦わねば、この世界は今すぐにでも終わりを迎えてしまうのだからな」

「分かってらァ! ああ、クソ! 本当に性格の悪い神だな!」

「うんうん、元気があってよろしい」

 フェンリルに続いてミーティングルームを出て行こうとして、ラピスラズリはチラリと後ろを振り向いた。

 ピーコックが、サクソンが、シアンとナイルがいる。

 真面目な顔のコバルト、ラリマー、ソーダがいて、やや不真面目なインディゴは手元の資料に何かの漫画のキャラを描いている。

 長い前髪でバレないと思って、堂々と居眠りを始めたターコイズ。

 変に気が利くアズールはそろそろコーヒーのお代わりを淹れようかと、左隣のインディゴのカップを覗き込むような姿勢で止まっている。

 眠気覚ましのガムを噛もうとしていたせいで、スカイは中途半端に口を開けたアホ面だ。


 この仲間たちを、誰一人、欠けることなく『未来』へ連れていく。


 そう誓ってここまできた。

 たった一人、誰にも言えない戦いを続けていると思っていた。

 けれども今日、少なくとももう一人、同じ目的のために戦う人間がいることを知った。

「……たったの二十周……か……」

 時間停止した世界でも動ける『神』とその『器』は、フェンリルとタケミカヅチのほかにもいるのだろうか。もしもいるのなら、仲間を集って、力を合わせて――。

「……たしかに、大人数なら楽しいかもな……」

 自身の『器』の呟きが、神の耳に届いていないはずはない。けれどもフェンリルは、何も聞こえていないような素振りで駆けてゆく。




 無音の世界に、ラピスラズリの足音が響く。


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