てるてるえーじぇんと
「ヤダヤダヤダヤダ! 明日は絶対、晴れなきゃヤダー!」
「イヤーでもるっちゃん。いきなりそんなこと頼まれてもさあ……」
るっちゃんが、小さな手足をジタバタさせて畳の上をころげまわっている。
雨水のしたたる窓の庇からるっちゃんを見下ろして、ぼくは困った声で首をフリフリ。
るっちゃんがどんなに泣きわめいても、もう決まってるものは決まってるのに。
テレビに映っている天気予報。
明日は1日中、ずーっと雨、5月の雨だった。
「そこをなんとか! 明日は遠足なの。ママやコーちゃんやエナちゃんたちと! もうおやつも買ってリュックの準備もしてるのに。どーして雨なの? あたしテルちゃんなら出来ると思って、こーやって頼んでるんだよ!」
調子のイイこと言うなあ。
るっちゃんがぼくを作ったのは、つい今しがたなのに。
まあ、仕方ないか。
作り主のるっちゃんのためだし、やれるだけやってみよう。
「じゃあちょっと待っててね、るっちゃん。頼むだけ頼んでみるから」
「ヤッターありがとう! よろしくねテルちゃん!」
るっちゃんの顔が、パッと明るくなった。
ぼくは大きく息を吸って、ぶらさがっていた窓の庇からフワリと浮かび上がった。
笑顔で手を振って見送りのるっちゃんを背中にして、冷たい雨が降りしきる夜の空を雨雲の向こうめざして上っていく。
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「ダメだダメだ! いまさらそんな予約は無理! 明日は関東一円、ずーっと雨!」
「神様。そこをどうにか!」「無理を押して午前中だけでも!」
「多摩地区のココのポイントだけ何とかなりませんか? 明日の動物園。ウチのミカちゃんはずーっと楽しみにしてたんです!」
雨雲の上、満天の星空の下。
天気をつかさどる空の神様のもと。
僕と同じように地上からやって来た「お使い」たちが、何十人も神様の社に殺到していた。
自分たちの作り主のために、必死に頭を下げる「お使い」たち。
でも神様は、取り付く島もない。
「ダメなものはダメ! そういう大事なイベントなら1月前の抽選会から参加してもらわないと。今ごろ来たってもうスケジュールは埋まってるの!」
神様は僕たちを見回してそう怒鳴ると、社の門をドンと閉めて中に籠ってしまった。
「ハー。ごめんるっちゃん。やっぱりぼくの力じゃ無理……」
ぼくは頭を垂れてため息をつく。
るっちゃんのガッカリした顔が頭にチラついた、その時だった。
「ん……? 『るっちゃん』? あなた、るっちゃんのために来てくれたの……?」
ぼくにそう尋ねる声が聞こえて頭を上げると、目の前に立っているのは優しそうな目をした1人のおばあさんだった。
こんなところに、るっちゃんの知り合い?
もう天国にいる、るっちゃんの知り合い……!?
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「そう、そんなことがあったの。ごめんなさいね、るっちゃんがいろいろワガママを言って……」
「いやー、ぼくの力が足りないだけです。まったくお使いとして、情けないですぅ……」
満天の星空を見上げて。
たまたまその場を通りかかったという、るっちゃんの「お祖母ちゃん」とお話をしながら、ぼくはポリポリ頭をかく。
「ウーンどうしたものかしら。もうお天気は変えようがないから遠足は無理だけれど……そうだ!」
お祖母ちゃんが何かイイことを思いついたように、ポンと手を打った。
「テルちゃん。帰って雨が上がったら、この場所をるっちゃんに教えてあげて。あの子のお天気も、これで少しは晴れるでしょう……」
「え?」
驚いてお祖母ちゃんの方を向くぼくに、ゴニョゴニョゴニョ……
お祖母ちゃんが、何かを耳打ち。
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次の次の日。日曜日の朝。
「わー凄い! お屋敷のお山に、こんな場所があったんだ!」
ぼくと一緒に、お祖母ちゃんに教えてもらった場所にやって来たるっちゃんが歓声を上げる。
大きな山の中に建った、るっちゃんのお家。
お祖母ちゃんに教わった場所、お山の一画の竹林の地面からは何本も何十本も、ニョキニョキと顔を出した立派なタケノコ!
「こんなにいっぱい! ママに教えてあげないと! 今日はタケノコ取り。タケノコご飯! コーちゃんやエナちゃんにも、お裾分けしなくっちゃ!」
お屋敷に向かって、笑顔で駆けて行くるっちゃん。
ハー。ぼくは胸をなでおろす。
お祖母ちゃんのおかげで、るっちゃんの「お天気」もすっかり元に戻ったみたいだ。
でもここでノンビリしている暇はない。ぼくは気を引き締めて空を見上げる。
来月の今頃は……るっちゃんのお屋敷で、みんなを呼んでバーベキュー。
この日は絶対全日快晴。
空の神様に、今から抽選会の予約を入れておかないと!