知らないうちに籠城してるんです
煌びやかなパーティー会場、私は王子と側近たちに取り囲まれていた。
美貌の王子に、美貌の側近たち…
王子の剣が私の首元に突き付けられていなければ、嬉しかった…かな?
「この場で切り捨てない事に感謝しろ、命が惜しければ二度と王都に足を踏み入れるな」
王子の背後に、彼らに庇われるような形で一人の令嬢が佇んでいた。
気づいたら馬車の中にいた。
どうやって城から出たのか全く覚えていない。
王都追放…てゆーか社交界からも追放である。
私の名前はオーロラ・ルナ・ローズ、ローズ公爵家の令嬢。
ピチピチの15歳成りたて。
私を社交界から追放した王子の婚約者候補である。
王子のお気に入りの令嬢をいじめた事で社交界を追放された←いまここ
確かに意地悪な事はしましたわ。
何度注意しても、婚約者もちの貴族子息に過剰な接触を繰り返すのですもの。
言葉で理解できないのなら、体で覚えさせるしかないですわ。
聞こえよがしに陰口を言う。
お茶会に誘わない。
足を引っかけて転ばせる…程度の事はしましたわね。
転んだはずみで、王子の薄くなりかけている頭にワインが掛かるなんて…
ダメダメ、思い出したら…ついつい笑顔になってしまいますわ!
「オーロラ、お前、全く反省していないね」
「ごめんなさい、父上。でも、思い出したら、笑いが止まらない…」
困り顔の父上と母上には悪いけど、我慢すればするほど可笑しくなるの。
「まあ、いいじゃないかい。あの王子の姿を見て私も少し腹の虫がおさまったよ」
聞きなれない声に振り向くと、運命の魔女…守神様が座っていた。
「守神様、いつの間に…いや、貴女なら不思議ではないですね。しかし、まさか…」
「そのまさかだよ。災厄の歯車が回り始めた。。。王子が丁度証人を用意してくれたんだ。始めようかね」
「証人?まさか追手ですか」
「そうだ。眠りと目覚めの種をオーロラに仕込むところを特等席で見てもらおうじゃないか」
守神様の言葉が終わると同時に馬車が弾け、父上、母上、私、御者、守神様が紫色の膜に包まれる。
外には武装した兵士たちがあっけにとられた様子で立っている。
守神様は私を羽交い絞めにし、私の指をつむで刺し…刺された場所から紫の魔法陣が全身に広がった…
その日、ローズ公爵家の領土は、厚い茨の壁に囲まれた。
復讐心に駆られた王子たちが、茨を刈り取ろうと、茨ごと燃やそうと、あらゆる手を講じたが…
彼らはいつまでもそうしてはいられなかった。
まもなく始まった王国の内乱は100年続いた。
戦火を通さない茨の中、時が止まった世界を、一匹の竜が優しく見守る。
「これは本当に100年続きそうだね…全てが終わったら公爵にうまい酒をごちそうしてもらわなければ割に合わないね」