契約?
さて、あの少女を説得しようとしたらゴブタケ君が自分がと言ったので任せ、俺は小雪についていく。
「見せたいものがあるとか言ってたな」
「うむ。今からそこに向かう。エミリア殿から日が暮れるまでに帰ってくるならと言う条件で許可は取り付けたのじゃ。ところで…」
言葉を区切り、こちらを振り返り。
「なんでその童が腕にしがみついているのじゃ?」
「いやー。それがさっぱり」
「…リタ君は連れていかせない」
「はぁ」
「よっ、色男じゃのう」
「黙れクソトカゲ。マーマイト喰わすぞ」
「おー。怖い怖い」
からかう小雪をよそにミアの頭に手を置き、ゆっくり頭を撫でる。徐々に手の力が抜けていくのでゆっくり腕を引き抜く。
「…はっ」
腕を引き抜いた瞬間、ミアが正気に戻りおった。そして、そのまま前からしがみつく。
「あの、ミアさん?」
「…ダメ。行かせない」
「いやね」
「…約束した」
「いやだから」
「…約束、した」
「はぁ。…じゃあ一緒に行くか?」
そう言うと、ゆっくりと体から頭を離し、こっちを見た。
「…いいの?」
「ああ、いいよ」
「…わかった」
そう言うと体を離した。
「んじゃ。行くぞ~。小雪。案内」
「わかったのじゃ」
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「街に出るのは初めてかの?」
「ああ、ずっと孤児院だ」
話ながら街を歩く。ミアは頻りに辺りを見渡している。見るもの全てが珍しいのだろう。
「どうじゃ?街並みは」
「どうって言われてもな」
辺りを見渡す。
石畳に石造りの家々。そう、まるで…。
「中世の頃のヨーロッパに似てるな」
「言うと思ったのじゃ」
小雪はクスッと笑う。
「まあ、違うとこも多いがな」
「そうじゃのう」
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そんな感じで10分程歩いていると、目的地についたらしい。
「ついたのじゃ」
そのは宿屋だった。でもなんでだ?
「まあ、ついてくれば分かるのじゃ」
そう言う小雪についていく。階段を上がり、2階のとある部屋の前についた。
「この中じゃ」
なかに入る。そこには簡素なベッドと机、椅子が備え付けられていた。そして、ベッドの上に人が入るくらいの麻袋が置いてあった。
「あー。ミア、ちょっと後ろ向いて耳塞いでて」
「…?」
「いいからいいから」
不思議顔をしながらも、素直に従ってくれた。
「小雪。この部屋の防音は?」
「バッチリじゃ」
「よし、んじゃ」
小雪に近づく。
「このクソトカゲがぁぁぁああ!」
「ぶべらっ!」
おもっくそ掌底を顎に叩き込む。
軽く上に打ち上がるのでジャンプしながらアイアンクローをかけ、着地。ミシミシと頭蓋骨から変な音がするが気にしない。
「なんで拐ってきたの?」
「痛い痛い痛いのじゃ!頭が、頭が、潰れる!」
「龍族なんだから耐えきれるだろ?」
「人形じゃタングステンの塊を握り潰せる握力は耐えきれんのじゃ痛い痛い!」
「はぁ」
今日何度目かわからないため息を吐く、ペイっと床に捨て、腕組をしながら小雪を見下ろす。
「あーこめかみが痛いのじゃ…」
「まあ、とりあえず説明して」
「了解じゃ…」
そう言うと、小雪は事情を説明し出した。島への上陸から、あの少女とゴブリンのこと、そして現在麻袋に詰め込まれているであろう人物の事。
「はぁ。なるほど。んで、その幼女は?」
「魔法で寝てるのじゃ」
「んじゃ。出してそんで魔法解いて」
「了解じゃ」
慣れた手つきで麻袋から幼女を出す。
縄で手足を縛り、魔法を解く。
「…なんで亀甲縛りして後ろ手縛りとM字開脚縛りを併用してがんじがらめにしてんの?」
「それはあれじゃ、趣味じゃ」
幼女ががんじがらめでベッドに横たわってるとか犯罪臭しかしないな。マジで。
「んっ。…!ここ。どこ!」
「はいはい落ち着くのじゃお嬢ちゃん」
小雪がそう言いながら近づくと幼女は小雪を見ながら固まった。
「ぴっ」
「「ぴ?」」
「ぴゃぁぁぁぁあああ!」
「怯えとるやないかい!」
平手で頭をひっぱたく。
「おう、痛いのじゃ」
「とりあえずお前は廊下出てろ廊下」
「仕方ないのう」
渋々と言った感じで廊下に出る。これで話ができるか?
「あー。嬢ちゃん。状況わかるか?」
「えっと、私確か切られて…」
マジ何してんのあいつ。
「とりあえず自己紹介からするか。俺はリタ。嬢ちゃんは?」
「…ふ、ふん!人に教える名前なんてないわ!」
「そうか、ところで聞いたんだが嬢ちゃんはダンジョンコアなんだって?」
「どこで聞いたの?」
「さっきのクソトカゲから」
「そ、そう」
小雪の名前(?)をだしたら少し震え出した。可哀想にー(棒)
「あの、あなたは怖くないの。あいつが」
「そうだな…。まあ付き合い長いし、別に怖くはない」
「そう…」
「どうした?嬢ちゃん、怖いのか?」
「誰があいつなんか!あいつなんか怖くない!」
…少し青ざめてるが話はできるな。
「んじゃ。聞いていいか?」
「な、なによ」
「ダンジョンコアについてはあのクソトカゲから聞いてる。それで、あんな人が居ないところにダンジョン作っててポイントは貯まったか?」
ダンジョンコア。
ダンジョンの中枢で何らかの生き物の姿をしている。ダンジョンポイントと言う物を為、ダンジョンを拡張、管理するのが仕事。
ダンジョンポイントの貯め方は幾つかある。
1、ダンジョン内で何らかの生き物が死ぬ。
2、ダンジョン内の生き物から吸収。
3、ダンジョンの範囲内の地脈から吸収。
こんな感じだ。まあ、全部聞いた話だがな。小雪から。
「そ、それは」
「そこで提案がある」
「な、なによ」
「俺達に協力してほしい」
さっきの説明は表にはでない情報だ。
表に出る情報はこうだ。
1、ダンジョンからは財宝や素材などが大量に入手出来るため、莫大な利益を得ることが出来る。
2、ダンジョンが知られるとその財宝や素材を求め、人が集まる。
3、ダンジョンにやって来た人目当ての商売が始まり経済が回る。
つまり、今なら1の事柄が独占できる訳だ。俗に言う美味しい話ってやつだ。
「…どう言うこと?」
「簡単な話だ。俺達は金を稼ぎたい。嬢ちゃんはポイントを貯めたい。だから協力しましょうって話だ。」
「ちなみに、断ったら?」
「別に危害は加えない。元居た島に帰すだけだ」
「…この状態で言われても説得力無いんだけど」
「…確かにな」
改めて幼女の状態を見る。紐でがんじがらめでベッドに放り出されてるんだもんな。信じろって方が無理だ。
「よし、んじゃあ紐をほどく」
「え、い、いいの?」
「別に紐で縛らなくても逃げられるとは思ってないし」
巻いてある紐をほどきながら言う。
紐をほどき終わると、幼女はニヤリと笑いながら言った。
「…大した自信ね」
「まあなっと…」
飛び掛かって来た幼女をベッドにねじ伏せる。
「んー!んーんー!」
「さって、どうすっかな」
「そろそろ入ってよいか……。邪魔したの」
「まてまてまて」
無用な気遣いはしなくていいから。
「おろ?お楽しみ中じゃ無かったのかの?」
「んー!ぷはぁ。くそ!人質にして逃げようと思ったのにぃ!」
「ちょいちょい」
「なによ!」
そっと小雪を指差す。
「?」
「ぴゃぁぁぁぁあああ!」
「人の顔見て叫ぶのやめてほしいのじゃ…」
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悲鳴をあげる幼女をよそにミアを椅子に座らせ、目を瞑って耳を塞いでいるよう再度お願い。小雪はベッドに腰掛け、嫌がる幼女を膝に座らせる。
「い、いや、おろして」
「しかしのう…」
チラッとこちらを見る小雪。心なしか幼女の顔が青ざめている。
「さって、嬢ちゃん。協力してくれるかい?」
幼女は必死に小雪の膝からおりようともがいている。
「協力するなら!そいつを好きなだけ殴る権利をあげよう」
その言葉に、動きを止める。
「ほ、ほんと?」
「ほんと」
「うーん。なんかさらっと売られた気がしたのじゃ…」
すると、幼女はほんとに嬉しそうな顔をした。
「協力、する」
「よし、んじゃ契約成立だ」
右手を差し出す。
「あっ、殴ったあとやっぱやめるってのは無しね」
「うっ、そ、そんなこと考えてる訳ないじゃない」
「うーん。釈然としないのじゃ」
ぎこちなく握手をする幼女。
「ところで名前は?」
「名前?別に無いけど」
「無いのか…」
んじゃつけるか。嬢ちゃん呼びも不便だし。
「…深雪。それでどうだ?」
「なにが?」
「名前、ずっと嬢ちゃん呼びは不便だし」
「深雪?不思議な響き…」
「まあな」
ぶつぶつと何度か呟く幼女。しばらくするしっくりきたのか顔をあげた。
「まあ、いいかな?」
「んじゃ決まりだな」
パンパンと手を叩く。
「では?」
「明日、島に乗り込む。小雪。船を準備してくれ。それと他のゴブリン達は?」
「こっちには渡っとらんのじゃ」
「好都合だ。俺とお前、深雪とゴブタケの4人で行く。あと食糧と幾つか工具を用意してくれ。物はお前に任せる」
「了解じゃ」
「それからここの支払いは?」
「もう払ってある、今日1日は泊まれるのじゃ」
「んじゃ小雪と深雪はここに泊まれ。さすがに幼女1人は不自然だろう」
「了解じゃ」
「わっ、わかった」
「よし、他なにか質問は?……特にないな。んじゃ戻るか」
「送ってくのじゃ」
「んじゃまた明日ー」
ミアと小雪を連れて部屋を出る。
…てか律儀にずっと耳塞いでてくれたのねミア。
今回もこのような駄文を読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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