トレーニングと小雪一行
さて。
行動が恋する乙女のようなデビットは置いといて、俺はトレーニングでもしますかね。
そんなふうに考えながら建物の中に引っ込む。
中に入るとミアが小さな欠伸をしながらやって来た。
「…ふっはぁ。…おはよう」
「おはよう」
「…今からトレーニング?」
「そうだけど?」
「…そう」
相変わらず口数が少ない。
「…今日も、見てていい?」
「いいけど」
ミアを引き連れ、建物の裏手にある少し日当たりの悪い場所に向かう。ここは普段、日当たりが悪い為か余り人が寄りつかなくないので、誰にも邪魔されずにのびのびとトレーニングができる。
「…」
…ミアは別だ。毎日飽きもせず、俺がトレーニングをしているのをすぐ横で見てる。
「…いつも思うんだけど」
「?」
「…それは何してるの?」
「格闘の練習だけど?」
「…?」
「あー、言うよりやった方が分かりやすいか。じゃあ僕がゆっくり動くからその通りに動いて」
「…わかった」
それから約15分程、俺はミアに投げ技を教えた。
「そんな感じ、じゃあ僕を投げてみて」
「…いいの?」
「うん」
「…えい」
小さな掛け声を呟きながら技を放つ。その瞬間、俺は宙に舞った。
投げられながら、15分教えただけで良くできるなあ、とか考えていた。
「…おお。あ、大丈夫?」
「よいしょっと、大丈夫大丈夫。それから、わかった?つまり、あれはこうやって相手を投げ飛ばして相手に隙を作らせる練習なんだよ」
「…わかった。ところで」
「?」
「…他には無いの?こんなやつ」
どうやらミアは投げ技にハマったようです。
ミアはなげわざをおぼえた!
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その日の昼頃。
ミアに心構え等の座学を教え、一息ついていた。
「あれ?リタ君にミアちゃん?何してるんだい?こんなところで」
バレない程度に舌打ちをする。
恋する男?デビットだ。まあ休憩中を見られただけだからそれほど面倒にはならんか。
「デビットさんこそ、なんでここに?」
「ちょっと素振りにね」
そう言いながら腰に吊るした剣を見せるデビット。どうやらここを使ってるのは俺だけじゃないようだ。
…そういやいつもより少し長いことここに居たからな。
「君達は何してるんだい?」
「まあ、いろいろと」
「ふーん」
さて、これからどうするか。こいつが居なきゃ続きをやるんだがなぁ。
「…続きはしないの?」
「ん?何かやってたのかい?」
食いついてくんなや!バレたら文句言うんやろ?
「…少し技を教えてもらってた」
「ん?技?よかったら教えてもらえないかい?」
だから食いつくなや!
そんな心情を知ってか知らずかミアがこっちを見てくる。うん、全力でお断りして。お願いだから。
「…ごめんなさい。教えれない」
「んー。そうか。いいよ、無理言って悪かったね」
「ところでデビットさん。素振りはいいの?」
「いやー。君達が居るのに素振りはできないよ。危ないからね」
そう言いながら剣を鞘ごと外す。
外した剣を壁に立て掛けると近くに置いてあった丸太を背負う。てかあの丸太ってその為に置いてあったのね。俺もお世話になってるけど。
「さて、僕らは行くか」
「…いいの?」
「まあいいよ。デビットさん、僕らはさきに中に入ってますね」
「ああ、また後でね」
丸太を担いだデビットに一言告げてからその場を離れる。金策考えなきゃな…。…あれ。なんだろ、何かを忘れてる気が、なんだ?…まあいいか。
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翌日
「体が痛い?」
「…そう、いろんなところが痛い」
朝早くにミアが俺のところに来た。そして切実にそう訴えかけてきた。そうだ、昨日なんか忘れてると思ったら筋肉痛についてだ。あー納得納得。
「あー。その痛みはほっとけば治るぞ」
「…本当?」
「本当」
「…わかった」
さすがにストレッチしてても最初は出るか筋肉痛。まあしっかり鍛えれた証拠だからな。身長の伸びが阻害されない程度にやっていこ。うん。
そんな事を心の中にメモする。
「…今日は何するの?」
「今日は昨日とは違う事をやってみようか」
そう言いながらいつもの場所に移動する。
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リタとミアがトレーニングに汗を流している頃。バナード沖7㎞地点。
「…もう離してください」
「そいつぁできねぇ相談ですぜ」
1人の少女が1人のゴブリンに手を引っ張られ走らされていた。
「居たぞ!そこだ!」
突如、2人の後ろから怒鳴り声が響く。
「くそ!」
ゴブリンは毒づくと腰に吊るした粗雑な直剣を抜く。
ゴブリンが臨戦体制を整えたその直後、6人の男が現れた。
彼らは良く似た意匠の鎧を身に付けて、手には槍や剣、弓を持っている。
「ゴブリンの癖に手間かけさせやがって!」
いきり立つ6人はゴブリンを半包囲する。
一方のゴブリンは少女を自分の後ろに追いやり、小さな声で呟く。
「お嬢。俺が飛び込むんで、その間に後ろに走ってください」
「いやです。私が彼らに投降すれば皆さんは助かるかもしれない」
「そいつぁダメです。さあ、早く逃げてください」
「でも!」
「”俺達“は世話になったおやっさんにお嬢を頼まれた。その恩を返すためならこの命、惜しくはありやせん、死んでいった奴等も同じ考えでしょう」
「いえ、だからこそ、私は」
「何をこそこそ話してやがる?」
「チッ、お嬢。お元気で」
「あっま」
「うおぉぉぉお!」
ゴブリンは雄叫びをあげながら6人の男に突撃する。だが。
「チッ」
男の1人が無造作に槍を振るう。
「うぐっ。お、嬢」
「手間かけさせやがって」
訓練された男達にゴブリンの剣は遠くおよばなかった。腹に槍を刺されたゴブリンはそのまま崩れ落ちる。
「っ!」
その光景に、動けなくなる少女。目を見開き、震える少女に男達が近寄る。
「あとはこいつを殺せば任務完了ですね」
「そうだ」
「まってください。どうせ殺すなら犯してからでも良くないですか?」
「確かにそうだな」
6人の男は下衆な笑いをすると、少女の服を引き千切り始める。
「んー、と。これは、どう言う状況じゃ?」
少女の服が剥ぎ取られ、今まさに陵辱される寸前、男達の後ろから声が響く。
「なんだ?あんたら」
そこには2人の女性が立っていた1人は小首を傾げ。もう1人は男達を睨んでいる。
「どう見たって婦女暴行の瞬間ですよ。こいつら…」
睨んでいた女性が呟いた瞬間。重苦しい空気が場を包む。それは若い女性が発するには不自然な物、濃密な殺気だ。
女性の放つ殺気に思わず気をとされる男達。
「まあ、とりあえず落ち着くのじゃ。エミリア殿。あとそこにゴブリンが倒れておる。見てやってくれ。わしは回復魔法が苦手じゃ」
「…わかりました」
渋々といったようにゴブリンを見に行く女性。しかし、殺気は出続けていた。
「さて、まずお主らは何者じゃ?」
その言葉に男達は臨戦体制をとる。殺気は出続けていたが、なんとか動ける程度にはメンタルが持ち直していた。
「ふむ、対話もできんか」
「やれ!」
1人の男の号令で男達は弓を放ち、槍を投擲した。満身の力を込めて放たれた矢と槍は棒立ちのままの女性に襲い掛かる。
しかし。
「!ばかな!」
女性は避けなかった。防ぎもしなかった。男達が見たのは突き刺さるはずの矢と槍が女性の体に弾かれる瞬間だった。
「はあ。時間の無駄じゃの。“氷柱”」
言葉と共に鳴らされる指。パチンと言う音と同時に男達を氷が襲う。
悲鳴を揚げる暇もなく氷漬けにされた男達を尻目に、女性は震えている少女に近寄る。
「大丈夫じゃったか?わしの名は小雪。お主は?」
毎度の事ながらこのような駄文を読んでいただきありがとうございますm(__)m
更新遅いのに文短いとかダメダメですよね。スミマセン。頑張って治していきたい(;・ω・)