|軍団《アルメーコーア》設立
ランクアップの手続きは簡単なのか割りとすぐ終わった。ベルントがドックタグを手渡す。
「ほい、これであんたは今からAランクだ。それとタグをなくすとクソ面倒くせぇ手続きがあるから無くすなよ」
「了解」
「しかし登録したその日にAランクに上がるとは。史上初じゃねぇか?」
「いっちばーん!」
「…急にどうした」
「いや、急にやりたくなったから。おお、それと軍団を設立したいんだけど」
「はぁ、登録初日で軍団設立か。ランク的には可能だが面倒事も多いぞ。子供のあんたに出来るのか?」
「痛いとこ突くねぇ。まあ、なんとかやるさ」
「…わかった。書類持ってくるからちょっと待ってろ」
そう言うと扉を抜け、訓練所を出るベルント。戻ってくるまでに壁際の机と椅子のあるエリアに向かう。
他の面子が既に座っていたが、真ん中の椅子が空いていたのでそこに座った。
使わないので合口を少し広目の場所に投げると、すぐにしぐが人形に戻る。
「よっと。しかしあの形は窮屈やわ。やっぱ大太刀のがええなぁ」
「すまんな、嫌だったか?」
「使われるのは嫌じゃないんやが出来れば本来の姿が一番やな」
「わかった。これからは出来るだけそうする」
「おお、そうしてくれると助かるわ。お願いしま~す」
やんややんやと小噺していると羊皮紙とペンを持ったベルントがやって来た。
「こいつが軍団設立に必要な書類だ。軍団名と団長の名前、それと責任者の名前と設立料、団員の名前が必要だ。あと作るか作らないか選べるが軍団旗も作れる」
「団員の名前って団員増える度に書くのか?」
「ああ、そうしてくれ」
「面倒くせぇな」
書類に一通り目を通す。軍団旗のデザインは2枚目の紙に書くみたいだな。
「軍団名ねぇ。なんかあるか?」
「なんでもいいのじゃ」
「…なんでもいい」
「主に任せるわ」
「私は面倒だから任せる」
「「「「「「自分達も任せます」」」」」」
「お前ら…。んじゃ適当に決めるぞ」
紙を置き、名前を書く欄に名前を書く。そして軍団名の欄と3分ほどにらめっこする。
「ああ、これでいいや」
「なににしたんじゃ?」
羊皮紙の軍団名の欄に“雑賀衆”と書く。
「“雑賀衆”か。懐かしい名前じゃのう」
「確かに懐かしいが、なんでその名前にしたんや?」
「…さいかしゅう?」
「どことなく言葉のニアンスが鬼人族の言葉と似ているな」
「完全に何となくだな。まあ主兵装を全部銃火器にしたいって言う願望も少しは込めたが。どうせなら軍団旗も雑賀衆にちなんだやつにするか」
2枚目の紙に中央に羽を広げた八咫烏。その下に交差した銃剣付槓桿式小銃と日本刀、八咫烏の後ろにくるように大きい星を1つ書く。旗全体の色は暗い赤で絵柄は全て黒。星は縁取りだけで中は暗い赤だ。八咫の目だけは少し白を使う。
「出来た。全員名前書けぇ。書けない奴は小雪に頼め」
「ワシが書くのかの。面倒くさいのう」
そう言いつつも全員の名前を聞き書いていく小雪。
「さて、次は商会設立の手続きか。ベルントさん。商店始める時って何か手続きとかいるのか?」
「確か商業ギルドで手続きをしなきゃいかんはずだ。しかしまだ手を広げるのか?」
「まあ色々ありましてね。それで?その商業ギルドってのはどこに?」
「この建物の向かいにある建物がそれだ。ちなみにこっちより手続きが面倒だぞ」
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ざっと商業ギルドについて説明していただき、ベルントには退室していただく。
「さて、商業ギルドに行く前に最終確認だ」
「いちよう軍団と商会は密接に関係して作業効率を上げると言っておいたが何をやるかのう」
「いちよう考えてある。島で物を作ってそれを海運で街に売る。作った物以外にもダンジョンでドロップした物も売る予定だ。その後は事業拡大だな。最終的には総合商社を目指したい」
「では軍団の方はそれの護衛などか?」
「そうだ。それ以外にも軍団だけで動くこともあるがな」
「なるほどのう。ベターじゃな」
「誰か他に案はあるか?」
周りを見渡すが特に無いようだ。
「特にないな。んじゃ行くか」
「「ウエーイ」」
「…ウエーイ?」
「ウエーイってなんだ?」
「「「「「「ウエーイ?」」」」」」
ガタガタと音を立てて席を立つ。
「あっ、行くのは俺としぐとミアだけな、他の面子は…。そうだな…。」
ちらっと小雪を見る。アイコンタクトで合図をし、ニヤリと笑う。
「小雪に鍛練でもしてもらっててくれ、んじゃ行くぞ」
背を向け訓練所を後にする。扉を閉めた瞬間に聞こえてきた悲鳴は、おそらく幻聴ではあるまい。
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「登録?お嬢ちゃんがですか?」
商業ギルドに入り、登録しようとカウンターの受付嬢的な人に声をかけると少しなめたような態度で対応された。
ギルドの受付嬢が人を見かけで判断していいのかねぇ。
「そうですけど」
「あのね。ここは子供の遊び場じゃないんです。貴女も保護者なら注意してください。こちらも忙しいんですから」
うん。予想はしてたがここまでなめた態度とられるとはねぇ。しゃーない。嫌がらせを兼ねて1度出直すかな。
「しゃーない。帰るぞ」
「ええんか?主。目的達成のために登録せんで」
「あの受付嬢の態度が気に入らないから嫌がらせを兼ねて1度出直す。後日利用価値を示してからでも遅くない」
「潰しにかかってきたらどうするんや?」
「実力を持って全力で潰す。それだけだ」
「了解や」
と言う訳で冒険者ギルドに戻る。
扉を抜けるとベルントが待ち構えていた。
「おう。どうだった」
「激しく気に入らない事を言われたから嫌がらせを兼ねて戻ってきた。後日利用価値を示してから行くわ」
「ん?戻ってくる事がなんで嫌がらせになるんだ?」
「人を見た目で判断したからな。利用価値を示して後日行くことで何故この間話も聞かずに返したのかって受付嬢に嫌がらせをするためだ」
「なるほどなぁ」
言いつつ訓練所の扉をくぐる。
「おお。戻ったかのう」
見るとゴブリン達が地に伏し、小雪は椅子に座り足を組んで茶を飲んでいた。
てかミアさんなんかナターシャに気に入られてない?ナターシャの膝の上にのってなんか食べてるんですけど。
「どうじゃった?」
「どうもこうも子供扱いして話も聞かなかったから戻ってきた。後日行くわ」
「それは災難じゃったのう」
小雪の隣の椅子に座り、茶を貰う。
「ふぅ」
「これからどうするんじゃ?」
「そうだな…軍団設立も完了したし1度島に行くかな。色々やることあるし」
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倒れているゴブリン達を起こし、港に向かう。
港で船に乗せてもらい。島に移動。ゴブリン達の村に移動する。
ゴブリン達を解散させ、俺、小雪、ミア、しぐ、ナターシャで洞窟に入る。
「さて、これからどうするのじゃ?」
「今後の予定な。まあ、こんな感じって案はいちようある」
「どんなじゃ?」
「まあ、その辺は深雪も含めて話す。腰かけてりゃそのうち来るだろう」
洞窟内の広場に移動し、椅子代わりの丸太に座る。既に深雪が来ており、丸太に座っていた。
「よう、深雪。(頼んだ事は?)」
「よう。でいいの?(それと、出来てるわ)」
「(ご苦労さん)」
軽く会話したあと全体を見渡し、話を進める。
「さて、今後の予定だ。とりあえず軍団は各兵員の練度向上と兵舎を建設する。商会の方は船作りだ。それと炉や作業場の建設だな。あとこれから小雪とナターシャには島に居てもらう。俺とミアは街に帰らないきゃいかんから街に居る。しぐは街に居てもらう」
「船作り?」
「ああ、いつまでも漁船に相乗りさせてもらう訳にはいかんからな。それと軍団には訓練も兼ねて他2つの島を探索してもらう。なにかあっても小雪がいるなら大丈夫だろう」
「訓練内容はどうするんじゃ?」
「基本教練と体力、格闘だな。白兵戦の心得を叩き込んでやれ。それと集団行動、あと座学だな」
「将校教育は?」
「人数が足りん。後々やっていく。階級は旧陸軍の階級を踏襲しつつ少しアレンジを加えるかな」
「了解じゃ」
「それと時折ギルドから依頼を取ってきて資金稼ぎもやっていく。兵装は随時更新するが人数分のナイフとクロスボウも作らなきゃな。素材は島にあるものを調達だ。商会で技術の蓄積を兼ねて制作。その後は刃物類や農具を制作。んで街に卸す。なにか質問は?ないなら早速動くぞ」
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3日後
兵舎や炉、作業場の建設を終え、今日から軍団員達の新兵訓練が行われる。
連日作業に駆り出されていたので今日から訓練が開始される訳だ。
ちなみに訓練官は俺ではなく小雪“一等軍曹”で、軍団が小規模と言う事もあり下士官をしている。
階級は旧日本陸軍の階級を踏襲しているが細部は他の軍の階級が混ぜられている。
以下階級。
“士官”
将官 元帥←大将←中将←少将
佐官 大佐←中佐←少佐
尉官 大尉←中尉←少尉
“准尉”
准尉
“下士官”
上級曹長←下級曹長
一等軍曹←二等軍曹←三等軍曹
伍長
“兵卒”
兵士長←特技兵←上等兵←一等兵←二等兵
「気をつけ!!」
小雪の号令で直立不動の姿勢を取るゴブリン達。気を付けと休めは3日の間に覚えてもらった。1度実力差を見せたお陰か素直で助かった。
「今日から貴様らを訓練することになった小雪一等軍曹である!」
1列横隊で並んでいるゴブリン達の前をゆっくり歩く小雪。
うん、見事にハー○マン軍曹だ。
「俺の仕事は貴様らのようなゴミ虫を一人前の兵隊にすることだ。いいか。これからは話しかけられた時以外は口を開くな。んでもってそのクセェ口からクソたれる前と後に“Sir”をつけろ。わかったか?ゴミ虫ども!」
「「「「「「Sir Yes Sir」」」」」」
ちなみにミアとナターシャもこの訓練を見に来ていてミアはナターシャに耳を塞がれている。ナターシャの方はミアの耳を塞ぎながら何故か恍惚とした表情で小雪を見ている。さっきから何かブツブツ呟いてるし。
「ふざけるな!もっと声張って大声出せ!タマ落としたか!!」
「「「「「「Sir yes Sir !」」」」」」
「いい加減にしろゴミ虫ども!なにも難しいこと言ってねぇだろ!大声出せっていってんだ!いい加減にしねぇとその首切り落としてクソ流し込むぞ!!」
「「「「「「Sir yes Sir !!」」」」」」
「よろしい!それではまず…」
「さて、んじゃ行くか、しぐ」
「了解や」
小雪の罵声を聞きなが踵を返し、昨日出来たばかりの桟橋に向かう。
「ちげぇよ!ここをこうすんだよ!」
「ここを、こうですか?」
「そう、それでいい」
桟橋につくといつも乗せてくれる親切なおっさんがゴブリンに船の扱い方を教えていた。
「すいません。いま乗せてもらって大丈夫です?」
「おおすまねぇ坊主、大丈夫だ」
このおっさん、ダメ元で船の扱い方を教えてほしいと頼むと二つ返事でOKしてくれた。ほんと、親切だが変わったおっさんだ。
そんなことを考えながら船に乗り、街に向かうのだった。