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みなしごベルル  作者: 春野ただじ
9/9

第九話 旧大地に

 パスポートの作成を依頼した翌日。


 ベルルは前日の約束通りにリュックと待ち合わせして裏通りのハンザの店を訪れた。


 「これが約束の偽造探索者証(パスポート)だ。

 昨日もいったが、これは本物と殆んど違いはないがギルド内で使えば登録情報の照合の際にバレるからそれだけは気を付けろ」


 そう言ってハンザが手に持った二つのソレを手渡してきた。


 「これが、パスポート……」

 「……っ」


 渡されたソレを緊張気味に受け取る二人。リュックなど、ずっと夢見ていたものがついに現実として手に入ったからか(しつこいようだが、偽造だが)、手の平に乗ったソレをジッと見詰めていた。

 ソレは、黒っぽい鉄のような金属で出来た小さなプレートで、その表面には名前や記号等といったおそらくは個人を表す文字が幾つか彫り込まれていた。首からかけられるように鎖も付いている。


 二人がそれぞれに感慨に浸っているとハンザが『ああ、』と追加で伝える。


 「それともう一つだけ忠告だ。 もしかしたら他の人間からも聞いているかもしれんが……最近教会の取締りが以前に比べて厳しくなってるらしい。

 だからどうだってこたあねえが、まあ精々捕まらないように気をつけとけ。――といっても、あいつらの主な仕事は『貴族』連中を取締ることだからな。パスポートの偽造程度でわざわざ目くじらを立てる程、奴さんも暇じゃあないとは思うが」


 言ってハンザはハッと笑う。


 (教会……そういえば、グリーンさんも言ってたなあ……)


 昨夜会った際にグリーンからも気を付けろ的な事を言われたなと、ベルルははたと思い出す。


 (でもハンザさんもああ言ってるんだし、そんなに心配しなくても大丈夫そうかな?)


 教会と貴族との関係は公然の認識でもある。それ故にベルルも、ハンザの言う通りパスポートの偽造ごときの木っ端など教会の躍起になるほどのことではないだろうと、頭の片隅に残す程度に留めた。


 二人がパスポートの礼をハンザに伝え店を後にした帰り道、所々で座り込んだりゴミを漁ったりしている浮浪者に目を向けながら歩いていると不意にリュックが先程ハンザの話にあった取締りについて口を開く。


 「そういえばオレも、教会と貴族の最近のいざこざについては少し聞いたことがあるよ」

 「へえ、どんな話なの?」


 興味有り気にベルルが訊ねる。


 「う~ん、オレが聞いたのだとたしか……“伯爵”級の大物〈貴族〉と教会がやりあったって話を聞いたよ」

 「伯爵……って?」

 「ん? 兄ちゃん知らないの? “伯爵”っていうのは〈貴族〉の規模とか脅威度を表す階級のことだよ。 他にも幾つかあって、教会がそれぞれその貴族の規模に見合ったもので階級指定してるらしいよ」

 「……そうなんだ、知らなかったよ。 〈貴族〉が昔の身分制の『貴族』ちなんで付けられたものっていうことはお祖母ちゃんに聞いて知ってたけど……」

 「ああ、うん、まだダンジョンが見つかる前の時代だよね」

 「うん、そう」


 ベルルはリュックに相槌を打つ。


 昔、まだ人類がダンジョンを発見する以前の時代、人類は“貴族制度”といわれる身分制を用いていた。

 その時代、数多ある国々の殆んどで用いられていた制度だ。

 簡単に言うなれば、その『貴族』はそれ以外の一般民よりも位が高い――つまり偉いとも言い換えられる。そんな制度。

 が、二人が言ったように、ここで言う〈貴族〉とは、決して『貴族』ではない。あくまで“教会”が便宜上で付けた自らの敵である、法を守らぬ無法者達に対しての総称であり呼称なのだ。恐らくは皮肉を込めた。


 と、ベルルはここまでは祖母から教わって聞いていたが、その“貴族”の階級の詳細についてまでは知らなかった。

 リュック曰く教会の指定する組織の階級も『貴族』に倣ったもので、上から順に公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵とあって、上に行くほど驚異度も高くなるようだ。

 その階級で“伯爵”といえば上から三番目。教会にいわせるなら相当に驚異度の高い無法組織ということになる。

 そして教会はそんな貴族を淘汰することを目的に存在しているというのが一般の常識だった。


 「そう考えると、その話ってちょっとすごいね」

 「うん、なんかかなり大きな抗争だったらしいよ。 でもオレ達には関係のない話だけどね。 『教会』とか〈貴族〉とか、“世界平和”とかって、ちょっと規模が大き過ぎるよね。

 だから、オレ達みたいにパスポートの偽造なんかで一々捕まえてたら監獄も溢れちゃうよ」


 そう言って頭の後ろで手を組み呆れたように笑うリュックの首もとには、ベルルと同じ銀色のタグが下げられていた。

 “世界平和”――教会が掲げる第一の目標でもあり最終の目的でもある。


 ――と、些かスケールの大きな話題に触れていた二人だったが、あれこれと考えたところでそんな雲の上の様な話は今の自分達には関係がないと、思考を切り替えた。

 ベルルは首もとの鈍色のプレートを触りながらリュックの方を向くと、


 「まあ、目立たないよう程々にやっていこうよ」


 と、マイペース然として言った。


 「うん、そうだね! 楽しみだねね!」


 リュックはベルルの言葉に、グッと拳を握って答えた。



 翌日の朝、

 今日はついにダンジョンに潜る日。


 リュックは出発前の朝早くに孤児院を訪ねていた。

 別に最期の別れ等というような湿っぽい理由ではなく、自らにとって分岐点ともいえる新たな門出に際し、今一度決意を再確認しておこうというのが理由だった。

 院長先生には勿論、いらぬ心配をかけたくないという理由で子供達にもダンジョン行きの話はしなかったリュック。


 その孤児院の帰り、子供達の顔を見て目的を再認識させたリュックは決意を新たに、


 (よぉし、いっぱい稼ぐぞ!)


 と気合いを入れ直していた。

 路地に座り込んだ浮浪者達はそんなリュックを物珍しそうに見ていた。



 この都市には主要な東西南北の四つの門があり、ベルルが最初この都市を訪れた際に通ったのが南門。そして今、それとは反対の北門に二人はやってきていた。


 「あれがダンジョンの入口……」

 「ドキドキするね……ベルル兄ちゃん」


 身の丈の何倍もある門を潜った二人の視界の先にそれはあった。

 北門を出た場所から一リ・ケール――徒歩で二、三十分程――の距離にある丘に。

 その丘の中腹にあるのが――ダンジョン――、その入口だった。


 北門を出た二人はそこから専用の往復馬車に乗って移動すること暫く、ダンジョンの入口のある丘の麓にやってきた。


 「わぁ、近くで見ると結構大きいね」

 「うん、ほんとだね」


 間近で見る丘は思ったよりも大きく、ベルルの肩に乗ったブッチも興味津々といった様子で髭をピコピコさせながら視線を彷徨わせていた。

 丘の周囲には常駐しているのだろうと思われる数人の都市警備隊の兵がおり、不審者や不法通行に目を光らせているようだった。


 まずはここから丘の中腹まで登り、そこにある“ダンジョン”への――洞穴の様になっている――入り口でパスポートを見せ、それで問題がない場合に初めて中に入ることが出来る。


 丘を見上げたまま暫し立ち尽くしていた二人だったが、やがてどちらからともなく顔を見合わせると歩を進め丘を登る。

 そうして数分後、二人は僅かに息を切らせながらも到着した。

 すると、ついた途端にリュックがそわしそわしだす。


 「……だ、大丈夫かな……ベルル兄ちゃん」


 いざ本番になってパスポートのことが心配になったのだろう。ばれやしないかと。


 「大丈夫なんじゃないかな? ハンザさんも、通る分にはまずばれることはないって言ってたし」

 「そ、そうだよね……でもやっぱり……な、なんか不安になってきたら急におしっこしたくなってきちゃった」


 と、モジモジするリュック。


 「え、ここでかい? もうちょっと我慢できない? 大丈夫だよ。もしばれたらその時はダッシュで逃げれば。顔なんて一々覚えてないだろうしさ」

 「いや、そんな投げやりな……」

 「ほら、観念するんだリュック。いっぱい稼ぐんだろう?」


 ベルルが、及び腰になったリュックにそう声をかけると、


 「う、うん……そうだよね……いっぱい稼がなきゃ、だよねっ。うん、行こう、ベルル兄ちゃん!」


 と、己の目的を思いだしたリュックはどこか吹っ切れた顔で答えた。


 「うんうん、そうこなくちゃ。 ブッチだってやる気満々だよ……って」


 リュックがいつものリュックに戻りホッと息をついたベルルがふとブッチを探すと、やや離れた場所で用を足す白いネズミがいた。

 ブッチはベルルと目が合うと、『なにか問題でも?』といった風な反応をする。


 (……ブッチも緊張してたんだね)


 当然のように同行していたネズミも、実は意外に胆は小さかったようだ。


 覚悟を決めたリュックといたって普段通りのベルルはダンジョンの入り口まで歩いて近付く。

 ダンジョンの入口とはいっても、正面から見ると何の変哲もないただの洞窟の穴のようだった。


 そこで警備をしていた男が、やってきた二人に気付いて声を発する。


 「――探索か?」

 「はい、そうです」

 「探索者証を確認する――」


 愛想の欠片もない男の指示に、ベルルとリュックは首にかけたプレートを『はい』といって持ち上げて見せる。

 平静を装ってはいたものの、内心では流石にベルルもドキドキしていた。これで偽造だとばれれば直ぐに撤退しなければいけない。

 ベルルはいつでも逃走できるように身構えていた。リュックは顔を強張らせながらも何とか笑顔を繕い平静を装っている。

 そんな二人に対して、男はプレートと二人を一頻り見やると、


 「……ふむ、随分若いな……まあいい。問題ないようだな、通っていいぞ」


 と、若いという言葉にドキリと一瞬心臓が跳ねさせた二人だったが、男はそれ以上特に気にかけることもなくあっさりと通行を許可を出した。


 「はい、ありがとうございます」

 「あ、ありがとうございます」


 意外な程あっさりと許可が出たことに拍子抜けする二人。


 (うん、普通だった)


 ベルルは表面上はぼぅっとしたままの表情で思う。リュックは肩すかしをくらった同様からか若干声を上ずらせていた。


 拍子抜けはしたものの許可が無事出た以上いつまでもここで立ち止まっていては不審がられてしまう。ベルルは『では』と言うと、まるで間抜けな泥棒のような仕草でサササッと男の傍を横切っていく。それに金魚のフンのようにリュックも追従して。


 「あー、ドキドキしたー。若いって言われた時、一瞬ばれちゃったかと思ったよっ」


 ダンジョンの内部に入り進んで暫くしたところで、それまで無言だったリュックが大きく息を吐いた。

 つられてベルルも『ふぅ』と小さく息を吐いた。


 「――ボクも。 でもすんなり通れて良かったね」


 リュック同様、ベルルも一瞬ドキリとしたものの特に質問されることもなく通れて良かったと思う。

 あの門番が怪しんでいたにせよ、そうでないにせよ。


 (いや、通さないわけにはいかないっていうか、調べるのがめんどくさいからこうやって暗に見逃してるのかも。 

 ハンザさんの言ってように、公には認めていないだけで、ボクらみたいに非合法にダンジョンに潜る人が結構いるんだろうな)


 暗黙の了解か、とベルルは思った。


 「これでいよいよ探索だよっ、ベルル兄ちゃん!」

 「うん、頑張ろうね」


 唯一の関門を突破したことで士気も上がった二人は気合いも十分にダンジョンの洞穴の中を進む。

 ここは入り口から繋がる丘の内部にあたり、洞穴の通路は思ったより広くなっている。

 その洞穴の暗闇は魔道具の灯りに照らされ、無機質な岩肌を映し出していた。


 明る通路を歩く二人は初めて訪れたダンジョンについて感想を口にする。


 「もっと湿っぽいジメジメした場所かと思ってたけど案外そうでもないねベルル兄ちゃん」

 「うん。中もランプのおかげで全然暗くないしね。 あ、でも、照明とかの設備が設置される前の、昔のことを考えたら結構怖そうかもしれないね」

 「たしかに……これで暗かったら、お化けとか出そうだよ――イテッ」


 言いながら何もない所でつまづくリュック。


 そんな会話を交わしつつも歩くこと暫く、目指していた地点が見えてくる。


 「あれで下層まで一気に降りるんだよねリュック?」

 「うん、そうだよ。あそこにある昇降機を使ってね」


 ベルルの指差した先には、リュックの言う“昇降機”という名の何やら大掛かりな装置の様な物があった。

 おそらくは、これも魔石を原動力とした魔道具。

 知識としては知っていたが、初めて目にするその鉄の箱の様な物にベルルは『ほぇー』と感嘆の声を漏らす。

 と、そこで、


 「……ん、あっちは?」


 その昇降機までの手前に、左に折れる道があることにベルルが気付く。


 「ああ、あっちが元々の(、、、)下層へ続く道らしいよ。ダンジョンが攻略される前のね。 ダンジョンが攻略されてからはああして昇降機が造られたから、あの道は百年以上封鎖されてるんだよ。もう使う必要がないからねっ」


 それは世にあるダンジョンがまだ攻略されていない時代の話。

 腕に覚えのある者達が糧や名誉を得るためにこぞってダンジョンに挑み、そのうちにダンジョンは攻略される。

 そうして、一度攻略されてしまったダンジョンというものは、最下層以外(、、、、、)は何も用事が無くなってしまう。

 だから、リュックの言ったように必要のない道は封鎖し、唯一用事のある最下層まで一気に降りられるよう昇降機が設置されているのだ。

 ちなみに、いま世に知られている(・・・・・・・・・・)ダンジョンはその全てが攻略されているといわれている。


 封鎖されている本来の下層へと続く道を素通りし、二人は昇降機のある所までやって来る。


 「これ、大丈夫なんだよね……? 『降りる』んじゃなくて『落ちたり』しないよね……」

 「な、なーに言ってんの兄ちゃん。 大丈夫だよ大丈夫っ。ちゃんと下まで降りるだけだってっ……たぶん」

 「え……」

 「いやいやっ、大丈夫だよっ。 じゃないと探索に行く前(・・・・・・)に死んじゃうじゃんっ。 変なこと兄ちゃん!いきなり不安になるじゃんか」


 ペシッとベルルの腕を叩くリュック。


 「あはは……ごめんごめん、ついね……」


 ベルルはばつが悪そうに頭を掻く。

 リュックは、『もう、ベルル兄ちゃんは』とこぼすと、ベルルの腕を引いてさっさと昇降機に乗り込む。


 「リュック動かせるの?」


 意外にもここには警備や係の人員が一人もおらず、そのせいで乗降者みずからが昇降機を操作しなければいけなかった。


 「うん、動かし方は前に人から聞いてたから大丈夫だと思う……えーと、こうかな――」


 言いながら、リュックが何やらレバーの様な物をガチャリと引いた直後、ガクンと乗った昇降機が揺れる。


 「わっ」

 「きゃっ」

 『チュッ!?』


 驚いた二人が思わず声を上げる。

 ちなみに、最初の声がリュックで続いて上げた女の悲鳴の様な声はベルルだった。

 万が一の時、ベルルをクッションにしようと少しでも高いところ――ベルルの頭の上に陣取っていたぶっちも揺れに驚いて悲鳴を上げながらずり落ちていた。


 最初こそ驚いたものの直ぐに慣れ、ベルル達は昇降機の降りるままに身を任せた。

 やがて昇降機が止まる。


 「あ、止まったね」

 「最下層についたってことだね」


 止まったのを確認した二人が、昇降機の扉を開いて一歩出ると、


 「おぉ……」

 「ここが最下層……」


 そこは、数個の外灯に照らされた、仄かに明る静けさに満ちた空間だった。広い、唯唯静かな伽藍堂とした部屋のような。

 ベルルはその空間内を見回す。

 不思議とどこからか風の流れるような音が聴こえてきているような気がした。


 「……ここが最下層、でいいんだよねリュック?」

 「うん、最下層で間違いないはず。

 ここから“旧大地”に出るんだ――あそこにある転移門(ゲート)を通ってね」


 そう言ったリュックの視線の先、この空間の一角には、等間隔に並ぶ四本の白い柱。そしてその中央には不思議な紋様の大きな円陣が地面に描かれてあった。


 (すごく古そうな建造物みたい)


 そこはかとなく厳かで静謐な雰囲気の漂う古代の遺物。

 それが転移門。

 まるで引き立たせるかのように数個の明りを集めて照らされたそこは、そこだけ切り取られた空間のように周囲から浮いて見えた。神殿の様な神聖な気配を感じさせて。


 数秒かそれ以上か暫く、その神々しささえ感じられる光景に目を奪われていた二人だったがようやく現実に意識を戻した。

 二人は中央に位置するゲートに近付く。


 「この円陣の先が“向こう側”に繋がっているんだよね」

 「うん。誰が造ったのかどういう仕組みかは解らないけど、この円陣に乗れば向こう側に一瞬で転移することができるんだって。 よくこんなもの造ったよね」

 「たぶん古代人が造ったんだろうね」

 「たぶんねー。 そろそろ行く?」

 「うん」


 顔を見合わせると二人は、白い石造りの床に一歩足を踏み入れた。


 「……緊張するね」

 「うん……ボクもおしっこ行きたくなっちゃったよ」

 「あはは。我慢だよ、ベルル兄ちゃん」


 いよいよ探索にという緊張を紛らす為、そんな軽口を言い合いつつもとうとう二人は円陣の前までやってくる。


 「二人で一緒に乗るんだよ」

 「了解」


 どちらからともなく手を繋いだ二人は、いざその先へと同時に足を踏み出した。


 光が二人を包んだ瞬間、まるでその光に溶けるように二人の姿が消える。


 ――旧大地――

 この光の行き着く先はそう呼ばれていた。

 そう、人々が糧や希望を求め『探索』するのは“ダンジョン”ではなく、此処とは異なるもう一つの“旧き大地”なのであった。

 そしてその旧き大地の事を、人は〈旧大地〉と呼ぶ。


 その一秒にも満たない直後、ベルルの視界が光とともに開ける。


 「………ここは」


 ベルルが目を開けて見ると、そこは一瞬前と何も変わっていないかに思えた。

 四本の支柱に足下には円陣。


 「ここは……こっち側(、、、、)のダンジョンのはずだよ。 『入口』と『出口』はダンジョン同士で繋がってるって聞いてるから、ここはきっと旧大地側のダンジョンの最下層なんだよ」

 「なるほど、そういうことなんだね」


 一瞬、転移出来なかったのかと肩すかしを食らいそうになったベルルだったが納得する。

 リュックは着いた途端期待に目を輝かせ、周囲を忙しなく見回していた。


 「じゃあ早速行こうよっ、ベルル兄ちゃん!」


 どうやら待ちきれない様子のリュックにベルルは苦笑しつつ、


 「そうだね。いこっか」


 と、自分も内心で逸る心を抑えながら答えた。


 二人は、来た時の『現大地』側のダンジョンと同じように昇降機を使い上層へと向かった。こちら側も向こうと同じように警備の人間等は誰もいなかった。


 そうして逸りつつもダンジョンの出口を出た二人。


 「………ここが、旧大地……」

 「……わあぁ……すごい……」


 二人を出迎えたのは、眩しい陽の光と澄み渡る群青の空。

 射す光にベルルは咄嗟に目を細める。

 丘の上から見下ろす眼下には緑の草原が広がり、見上げた空には鳥の群れが形を成して飛んでいた。


 「……すごいねベルル兄ちゃん」


 リュックが、丘から見下ろす風景に目を向けたまま言う。


 「これが探索者の見ている景色んんだね」


 探索者のフィールド。眼前の景色がそう。


 (ここからボクらの冒険が始まるんだ)


 ベルルは、視界に広がる未知なる景色を見やりながら、期待に胸を高まらせ自然と顔を綻ばせた。




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