表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
689/726

選択


 ミーシャが構築した六つのガラス球――氷の世界。


 <銀界魔弾ゾネイド>の砲台たる青きマグマを吸収するその権能に、凶悪な魔弾が襲いかかる。


「このっ!」


 サーシャは闇の日輪を瞳に浮かべ、黒陽にて迎撃を試みる。


 放たれた六つの視線。黒き光が襲い来る六発の魔弾を飲み込む――その直前で、魔弾はかくんと弾道を変えた。


「氷の壁」


 雪月花を舞わせ、ミーシャは曲がる魔弾を阻む氷の壁を無数に出現させる。


 しかし、その隙間を縫うように魔弾は更に弾道を変化させながら、六つのガラス球を撃ち抜いた。


 穴が空いたその場所からは、どっと青いマグマが溢れ出す。


 次の瞬間、マグマ溜まりに疑似銀泡の魔力が出現し、すぐに消えた。またしても<銀界魔弾ゾネイド>が放たれたのだ。


 狙いは絵画世界アプトミステ。撃ったのは神魔射手オードゥスだ。


 神詩ロドウェルが響き渡る中、その弾丸は銀泡を傷つけることは決してない。


 だが、銀泡を創造しなければならない創造神エレネシアに、確実に不利を強いることができる。


「たぶん、あの要塞は<銀界魔弾ゾネイド>の防衛術式。砲台術式を壊そうとする原因を取り除くためのもの」


 ガラス球に空いた穴に雪月花にて応急処置を施しながら、ミーシャが淡々と言った。


「さすがに無防備には置いておかないわよね……」


 <終滅の神眼>に魔力を溜めながら、サーシャが言う。


「曲がる魔弾は防ぐのが困難」


「魔法障壁で氷の世界をぜんぶ覆ったら?」


「魔法障壁を広げれば、魔力が足りない。貫通する」


 青いマグマを吸い取るために、ガラス球を巨大にしているのだ。広範囲で魔法障壁を展開するには、それだけ魔力を要する。


 魔法障壁自体の頑強さは、狭い範囲のものと比べればどうしても落ちてしまうだろう。


 その上、全方位を魔法障壁で覆ってしまえば、今度は吸収しようとしているマグマまで防いでしまう。


 魔弾が発射されたときのみ展開するならば、ますます難度は高くなる。


「それじゃ、どうすればいいの?」


 サーシャが六本の大砲を持つ要塞を睨む。


 すぐに二射目が撃たれる気配はない。魔弾の充填に時間がかかるのならば、止めようはある。

 

「魔弾は防がない」


 ミーシャは言った。


「氷の世界が壊される前に、防衛術式を壊して」


 弾道が変化する魔弾を防ぐのが困難なら、撃たせた後に直せばいい。


 つまり、防御を捨てての撃ち合いだ。


「任せてっ!!」


 サーシャがまっすぐ<銀界魔弾ゾネイド>の要塞へ飛んでいく。


「滅びなさいっ!!」


 視線でなぎ払うように、黒陽が<銀界魔弾ゾネイド>の要塞に照射される。


 要塞は燃え上がり、ガラガラと崩れ落ちた。しかし、周囲の青いマグマが再び固まり、要塞を瞬く間に再生させてしまう。


「そんなことだろうと思ったわ!」


 再びサーシャが黒陽を放つ。


 同時に六本の砲台から曲がる魔弾が放たれた。


 要塞は灼かれ、砲台が爆砕する。


 放たれた魔弾をサーシャが避けると、弾道が変化して、氷の世界を撃ち抜いた。


 空けられた穴から青いマグマが溢れ出す。そのマグマは要塞の方に吸い込まれていき、サーシャが破壊した大砲が修復された。


「魔弾の破壊力が上がっている。再生が間に合わない」


 ミーシャが状況を分析する。


 先ほど氷の世界に空けられた穴より、今回の穴の方が大きい。雪月花にて応急処置を施してはいるものの、どちらも完全には塞がっていない。


 このままでは穴は増えていく一方だ。やがて、マグマを吸収する量よりも、空いた穴から流出する量が上回るだろう。


 そうなれば、<銀界魔弾ゾネイド>を止めることはできなくなる。


「こっちも同じことをすればいいんでしょ」


 サーシャの頭上に、闇の日輪が浮かんでいる。


 破壊神アベルニユーの権能、<破滅の太陽>――サージエルドナーヴェだ。


「<破壊神降臨アベルニユー>」


 破壊神の秩序がそこに満ち、闇の日輪が分割されていく。


 それは小さく、無数の<破滅の太陽>。


 闇の火輪がゆらゆらとサーシャの周囲に舞い降りてくる。


「この世界じゃ、魔弾の方が効くのよね」


 サーシャは<銀界魔弾ゾネイド>の要塞へ、静かに指先を向けた。


 そこに破壊神の魔力が集中する。


「<黒火輪壊獄炎殲滅砲サージエルド・ジオ・グレイズ>!!」


 いくつもの黒き火輪が、流星の如く、<銀界魔弾ゾネイド>の要塞に降り注ぐ。


 分割した<破滅の太陽>を直接ぶつけるその魔法は、速度こそ黒陽に劣るものの、当てれば威力は甚大だ。


 その上、魔弾世界の秩序に後押しされ、黒き火輪の力は増していた。


 ドゴォッ、ゴォォォ、ダガァァァッ、と<黒火輪壊獄炎殲滅砲サージエルド・ジオ・グレイズ>が直撃していく。


 破壊の炎が渦を巻き、破滅をもたらす爆炎が弾けた。巨大な要塞がみるみる炎に包まれ、轟音とともに爆砕した。


 青きマグマがみるみる流れ込み、要塞を修復させようとする。だが、先ほどよりも明らかに再生速度が遅かった。


 破壊神の権能、その象徴ともいえる<破滅の太陽>はただ一度の破壊を行っただけで消えることはない。


 闇の火輪は要塞に直撃した後、炎となってそれを内側から灼き続ける。青きマグマが流れ込むそばから、それを滅ぼしている。


 <銀界魔弾ゾネイド>防衛術式の再生力を、サーシャの破壊力が上回ったのだ。


 あちらの要塞は曲がる魔弾で応射する。氷の世界に穴が空くが、それ以上に要塞の損傷は大きかった。


 大砲は次々と破壊の炎に包まれ、三本にまで数を減らす。


「もう一発!」


 再びサーシャの周囲に、いくつもの闇の火輪が舞い降りる。


「<黒火輪壊獄炎殲滅砲サージエルド・ジオ・グレイズ>ッッ!!」


 次々と黒き火輪が発射され、<銀界魔弾ゾネイド>の要塞を破壊していく。


 互いに魔法障壁を使わない撃ち合いにおいて、魔弾世界の防衛術式をサーシャはその圧倒的火力により押さえ込んだ。


 大砲は更に数を減らしていき、そして最後の一本さえも破壊の炎に巻かれた。


 氷の世界への砲撃が完全に止まり、ミーシャの雪月花により穴はみるみる塞がっていく。


 均衡を保っていたマグマ量が急速に減少に転じた。


「これで――」


 サーシャが三度、<黒火輪壊獄炎殲滅砲サージエルド・ジオ・グレイズ>を放つ。


「終わりよっ!!」


 燃えさかる闇の火輪が、とどめとばかりに炎上する要塞に次々と降り注ぐ。


 ドッゴオォォォォォォォォォォと轟音が耳を劈く。


 ミーシャがはっとして、頭上を見上げていた。


 氷の世界が一つ撃ち抜かれ、大量のマグマが溢れ出したのだ。


「深淵総軍五番隊隊長エイゼット・アビル」


 降り注ぐマグマの向こう側から声が響く。


「同じく六番隊隊長ジェイミー・セロ」


 人影が薄らと見えていた。


「七番隊隊長ネロ・フォース」


 三人。いや、それ以上だ。


「八番隊隊長コルクス・ファイオン」


「九番隊隊長レゲロ・ファーミー」


「十番隊隊長ビリジア・ヒリス」


 現れたのは深淵総軍、六人の隊長。


 そして、その部下、六〇名の魔軍族だった。


「我々は貴様たちを滅殺する戦力を有している。ただちに魔力武装を解除し、投降せよ。捕虜としての待遇を保証する」


 サーシャの顔に焦燥が覗く。

 

 戦力差は大きい。その上、二人の目的は<銀界魔弾ゾネイド>の砲台術式を破壊することだ。


 氷の世界を守りながら、深淵総軍と戦うのは自殺行為といってもいい。


「無益な死か、有益な恭順か」


 十番隊隊長ビリジアがそう口にすると、六〇名の魔軍族はマスケット銃を一斉に構えた。

 その銃口にみるみる魔力が集中する。


 狙いは氷の世界だ。


「選べ」


 ミーシャは奴らを視界に収め、じっと砲撃に備える。


 サーシャは<終滅の神眼>に魔力を集中した。


 返事はしない。

 するまでもない。


 それこそ、なにより雄弁な回答だった。


「撃て」


「――それは虫の良い選択というものよ」


 その低い声と発砲が同時に重なった。


 六〇名の軍魔族、奴らのマスケット銃すべてが暴発し、全員が爆炎に飲まれた。


「……!?」


「索敵」


 険しい表情で隊長たちが魔眼を光らせる。


 だが、見つけられない。


「どこを見ておる?」


 声とともに、一人の男が姿を現した。


 大きめの眼帯をつけた魔族だ。その顔はミーシャ、サーシャとて見知っているものの、それでも二人は魔眼を疑った。


 魔力の多寡が明らかに別人なのである。一度、二度滅びを克服したぐらいで、辿り着く領域ではない。


 冥王イージェスは手にした骨の魔槍を静かに構える。


「我らが選ぶのは、<銀界魔弾ゾネイド>の破壊のみよ。邪魔立てするならば、容赦はせん」



前世の力が、蘇る――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  力を失った状態で冥王と呼ばれ深淵総軍の隊長格と不利な条件で互角以上に渡り合うレベルの猛者が深層世界の住人に匹敵する前世の力を取り戻したんならそりゃあ強いよねって。
[一言] ギー、正体は誰なんだろうか…
[良い点] ジェフかっこいい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ