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本拠地強襲


 砲塔を彷彿させる銀泡だった。


 世界の大半を占めるのは、途方もなく巨大な火山。その火口は果てしなく深く、底の知れぬ闇である。

 時折、蒼い光がその暗黒の奥底にちらついた。


 火山の至る所に基地が建設され、長い砲塔は常に空へと向けられている。

 外敵を撃墜するためのものだろう。


 魔弾世界エレネシア。


 その第一銀泡に、俺たちを乗せた戦艦はゆっくりと降りていく。


 砲撃が来ないところから察するに、この船を奪ったことにはまだ勘づかれていないようだ。


「ボイジャー。創造神の居場所はわかるか?」


 戦艦の操舵室にて、俺はボイジャーに問うた。


 老兵は緊張した面持ちを崩さず、こちらに顔を向ける。


「いえ。主神以外の神族は、魔弾世界では滅多に姿を現わすことがないため」


 にもかかわらず、創造神エレネシアは深淵総軍と行動をともにしている。先のイーヴェゼイノ襲来において、彼女が魔弾世界の船に乗っていたのは間違いあるまい。

 

 <銀界魔弾ゾネイド>に関係している可能性は高い。


 創造神エレネシアが乗っていたのは、ギーの戦艦だ。

 まずは奴を探すのが先決か。


「深淵総軍一番隊の居場所はどうだ?」


「それならば、あちらに」


 魔法スクリーンに外の映像が映し出される。


 火山の火口だ。


「火山要塞デネブ。火口からつながる地下が、深淵総軍の本拠地なのだ」


 ボイジャーがそう説明する。


「深淵総軍各隊は平時はそれぞれの格納庫付近にて待機している。一番隊は一番格納庫にいる」


 魔弾世界では規律が重視される。予定外のことでも起こらなければそこから離れることはあるまい。


「大提督はどこだ?」


「最下層の司令室にいると言われているが、そこへの立ち入りが許可されるのは、深淵総軍の中でも一握りの幹部だけだ。さすがにデネブ地下基地の見取り図は入手できなかった」


「史聖文書と<填魔弾倉>は、大提督が持っているのだったな?」


「確証があるわけではないが、恐らく……」


 スクリーンに映る火口を見ながら、ボイジャーが答える。


「ふむ」


 史聖文書を取り返さなければ、彼ら文人族――古書世界ゼオルムの悲願は果たせない。<填魔弾倉>を手に入れねば、コーストリアの奴がうるさいだろう。


「創造神エレネシアと大提督は分断しておきたいところだが、どちらも居場所がわからぬと来てはな」


「わかる」


 ぽつりと言ったのはミーシャだった。


「わたしと同じ波長の秩序を感じる」


 ミーシャはスクリーンに映し出されたデネブ地下基地を指さす。見取り図はないため、空白だが、間尺の目安ぐらいはある。大凡地下二〇〇〇メートルの辺りか。


 つまり、創造神エレネシアはここからでもミーシャにわかるほどの創造の秩序を使っているということか。


「創造神のことは任せて」


「媚びないで。いやらしい」


 横からコーストリアが挑発するように言った。


 ミーシャが呆気にとられたように無表情のままでいると、「お生憎様」とサーシャが代わりに返事をした。


「わたしたちは母に会いに来ただけ。男漁りをしにきたわけじゃないわ。嫉妬深いケダモノと違ってね」


「ねえ」


 コーストリアが義眼を開き、サーシャを睨みつけた。


「霊神人剣の使い手がいないくせに、なにその偉そうな態度?」


「あなたこそ言葉遣いに気をつけたらいかがかしら? 安い女だってバレるわよ」


「このっ!!」


 軽く沸点を突破したコーストリアが、サーシャに日傘を突き出す――が、しかし、その手にはなにも握られていなかった。


「邪魔をするなら帰れ、コーツェ」


 奪った日傘を手にしながら、俺は言った。


「先にあっちが――」


「聞こえなかったか? 俺の邪魔をするなと言っている」


 そう魔力にて威圧してやれば、コーストリアが僅かにたじろぐ。この女はまるで獣のようだ。言葉が通じず、気に入らぬことがあれば襲いかかってくる。だが、力が強い相手にはそれなりに従順だ。


 ミリティアの元首は別のようだがな。


「ケダモノでもよい。噛みつく相手を間違えるな」


 不服そうに俺を睨んだ後、彼女は目を閉じてそっぽを向いた。


「お前もな」


 そうサーシャに言ってやれば、「わたしもっ?」という顔で俺を見てきた。


 二律僭主を演じている以上、肩を持つわけにもいかぬ。


「妹を見習うことだ」


 すると、コーストリアが「いい気味」と呟く。


 サーシャが不服そうに滅びの獅子を睨むが、歯を食いしばって俺に向き直った。


「……悪かったわ」


 と、サーシャは矛を収めた。


僭主せんしゅ。これ以上、滞空すれば怪しまれる。潜入の手筈は?」


 揉め事が一段落したところで、ボイジャーがそう切り出した。


「この船は爆破する」


「乗員は死んだと思わせると?」


 思考を巡らしながらも、ボイジャーが問う。


「そうだ」


 操舵室にいる文人族たちの緊張感がよりいっそう増した。


「俺とコーストリアが一気に地下基地を強襲する。最下層で暴れてやり、兵を引きつける。その間に置いてきた人形を<災禍相似入替バシュッツ>で、ミリティアの三人と入れ替える」


 深淵総軍は賊の侵入に対処せざるを得ないだろうが、<銀界魔弾ゾネイド>の要が創造神ならば、彼女まで一緒に来ることはあるまい。


 ミーシャとサーシャが母に会うお膳立てはできよう。


「お前たちは外で結界を張れ。大提督か主神、創造神が脱出するやもしれぬ」


 ここが最も堅固な要塞ならば、逃げる可能性は少ないだろうがな。魔弾世界の本拠地だ。落とされるとは夢にも思うまい。


「帰りの船は?」


「格納庫で奪う。最悪、生身で飛ばしてやる」


 覚悟を決めたように、ボイジャーたち文人族がうなずく。


「承知した」


「では、行くぞ」


 俺は床に右手を向け、魔法陣を描く。


「<覇弾炎魔熾重砲ドグダ・アズベダラ>」


 蒼き恒星を乱れ打つ。

 魔弾世界の空にて、乗ってきた戦艦が派手に爆発した。


 そのまままっすぐ火口へ向かった<覇弾炎魔熾重砲ドグダ・アズベダラ>は、しかし張られた結界により阻まれた。


「ほう。さすがは大提督の要塞。頑丈だ」


「そんなの意味ない」


 隣に浮くコーストリアが、やっと暴れられるとばかりに好戦的な笑みをたたえた。


「<相似属性災爆炎弾ゲストラ・エイズム>」


 彼女の手の平に魔弾が構築される。それは指定した魔法に属性を似せる魔弾。火口に張られた結界と相似属性だった。


「<災禍相似入替バシュッツ>」


 結界と<相似属性災爆炎弾ゲストラ・エイズム>が入れ替わった瞬間、派手な爆発が巻き起こる。


 火口の隔壁が閉じてそれを阻んだが、しかし僅かな穴が空いた。俺はそこへ<創造建築アイビス>で作った人形を二つ投げ込んだ。


 人形が内部に入った直後、新たな隔壁が閉じられ、穴を塞ぐ。


 だが、もう遅い。


「<災禍相似入替バシュッツ>」


 視界がぱっと切り替わり、俺とコーストリアは隔壁の内側、デネブ地下基地への入り口へ入っていた。


「<災淵黒獄反撥魔弾レイル・フリーエル>」


 コーストリアが日傘を開き、ぶら下げた六発の魔弾を放った。それは基地の壁という壁、魔法障壁という魔法障壁に乱反射して、威力を増大させつつも、その施設を破壊していく。


 基地の守りが弱まったところで、俺は魔法陣の砲塔を下方へ向けた。


 黒き粒子が七重螺旋を描く。


「<極獄界滅灰燼魔砲エギル・グローネ・アングドロア>」


 放たれたのは終末の火。


 圧倒的な滅びの塊を、二発、三発、四発と撃ち放ち、デネヴ地下基地を真っ黒に炎上させた。

 火山要塞デネブ。魔弾世界の大半を占めるその巨大な山岳が悲鳴を上げるようにガタガタと揺れ、内部の結界や隔壁が黒き灰に変わり果てていく。


「我が名は二律僭主」


 基地中に響くように、俺は魔力で声を飛ばす。


「出てくるがよい、大提督ジジ・ジェーンズ、神魔射手オードゥス。さもなくば、ご自慢の要塞は今日、滅びることになる」



黒き開戦の狼煙があがり――

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― 新着の感想 ―
相変わらず…、「狼煙」の規模がパネェ…(白目) 加減したとしてもそれを数発受けて普通に健在とは、深層世界は頑丈だなー…。
[気になる点] うん、これ要塞が滅びるだけで済むのかね? 世界ごと滅びそうなんだが
[良い点] 久々にアノス様が暴れてくれそうで歓喜 [気になる点] もし<災禍相似入替>エールドメード先生が覚えたらやべえな
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