表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
632/726

渇望に突き動かされて


 天と地が震え、世界が不気味な音を立てる。


 <渇望の災淵>からイーヴェゼイノ上空にまで響き渡ったその遠鳴りは、あたかも巨大な獣が悲鳴を上げているかのように錯覚させた。


 レイにとどめをさそうとしていたイザークが、一瞬動きを止め、眼下を見据える。


 巨大な水溜まりである<渇望の災淵>、その水位が急速に減少しているのだ。

 奴は獰猛な眼光を、更に鋭くする。


「……なにをしやがった…………?」


 呟きが漏れる。


 それと同時に、災淵世界が一際大きい悲鳴を上げた。


 氷の大地に二本の亀裂が走り、それは空にまで広がっていく。<混滅の魔眼>の影響が、<渇望の災淵>の外にまで及んでいるのだ。


 耳を劈くような爆音は、なにかがズレた音を彷彿させる。<渇望の災淵>、その水底が地層ごと切りとられ、ゆっくりと災淵世界から放れていくのだ。


 まるで世界崩壊の序曲のようだ。しかし、イーヴェゼイノはかろうじてその秩序を働かせ、原形を保っている。


 そして、その光景を見ていたのはイザークたちだけではなかった。


「……なによ、あれ……?」


 合一エリア。


 幻魔族、狩猟貴族の双方と戦っていたサーシャが遙か彼方へ視線を注いでいる。その距離からでも、災淵世界の一部が切り離されていくのがよくわかった。


 彼女の隣でミーシャが言う。


「アノスが<渇望の災淵>を切り取った」


「はぁっ!?」


 サーシャは大きく目を見開き、信じられないといった顔をした。


「また無茶苦茶して……」


「捕食が止まる」


 ミーシャが眼下に視線を向ける。


 境界線のように張り巡らされたレブラハルドの<破邪聖剣王道神覇レイボルド・アンジェラム>。

 そこに食い込み続けていた災淵世界の勢いが、みるみる衰えていく。


 次の瞬間、境界線に亀裂が走った。

 けたたましい音とともに、地割れが起こり、それはみるみる広がっていく。


「ちょっと……これ、大丈夫なの……?」


「元の形に戻るだけ」


 少しずつ、ゆっくりと、聖剣世界と災淵世界が離れ始める。それにより、合一エリアの地割れが大きくなっているのだ。


 変化はそれに留まらななかった。


「……くっ……!」


 バーディルーア工房船。


 乗り込んできた幻魔族の爪を避け、エレオノールは鎧剣軍旗がいけんぐんきミゼイオンにてその両足を切り落とす。


 だが、止まらない。

 切断面から泥のような液体が溢れ、それが代わりの足を象った。


「ギ、ギガガガッ」


「もーっ、きりがないぞっ……!」


 彼女の周囲には未だ十数名もの幻魔族がいる。


 ダメージがないわけではない。代わりの足ができようとも、傷が癒えているわけではないのだ。

 しかし、どれだけ痛めつけても、絶命するまでは止まらぬとばかりに、ボロボロの体で奴らは何度も突っ込んでくる。


 滅ぼせば、さすがに止まるだろう。


 だが、エレオノールは戦を止めるためにそこにいる。命を奪う選択は彼女にはなかった。


「船の外に……ぶっ飛ばすです……」


 エレオノールと背中合わせになり、ゼシアが緋翔煌剣ひしょうこうけんエンハレーティアを構える。


 剣身から放たれた光がいくつもの複製剣を作る。そして、それらがハンマーのような形に早変わりした。


「よおーし、ゼシア。いっくぞぉっ!」


 幻魔族たちが、奇声を上げて飛びかかった。

 迎え撃つため、エレオノールは軍旗を振り、魔法陣を描く。


 そのときだ。

 耳を劈くような地割れの音が、大きく鳴り響いた。


 ピタリと幻魔族たちが足を止める。


 エレオノールとゼシアが慎重に身構える。

 だが、奴らが襲いかかってくる気配はない。


「来ないなら……こっちから……です……」


「待って、ゼシアッ!」


 飛びかかろうとしたゼシアを、エレオノールが止める。


 彼女は魔眼を凝らし、幻魔族たちの深淵を覗く。


「……様子がおかしいぞ……」


 つい数瞬前まで、我が身を犠牲に飛びかかってきた幻魔族たちが、途端に我に返ったかのように脂汗を垂らし、苦痛に表情を歪ませている。


 魔力が乱れている。

 いや、正常に戻ったというべきか。


 狂っていた魔力が、制御されつつあるのだ。

 その奥底には確かに、理性の光が見えた。


「状況は理解したのかな? もう君たちに勝ち目はないんだ」


 幻魔族たちの異変を察知するや否や、エレオノールは言った。


「引き下がるなら、追わないぞ」


 そう口にして、エレオノールは軍旗を下ろす。


 真似するようにゼシアも聖剣を下ろし、複製剣を消した。


「鬼ごっこは……なしですっ……!」


 すると、一人の幻魔族が一歩、後ろへ下がった。


 それがきっかけだった。堰を切ったかのように奴らは後退していき、次々に工房船の外へと飛び出していく。


 同じ光景が船の外でも繰り広げられていた。


 銀水船に取りつき、<疑似紀律人形ジーナレーナ>に襲いかかっていた幻魔族たちが、次々と船外へ飛び出し、戦闘空域を離脱していく。


 彼らが向かっているのは、イーヴェゼイノの方角だ。


 その場所だけではない。


 シンと交戦中だった連中も、ミサと戦っていた者どもも、参戦したほぼすべての幻魔族たちが、自らの世界へ引き上げていく。


 そのことは、魔法線で視界を共有しているレイにも伝わっている。恐らく災人にも、幻魔族たちの動向は見えているだろう。


 災人イザークは、ハイフォリアの方へ視線を注いでいた。


「アノスが見つけたよ」


 レイは言った。


「絡繰神が<渇望の災淵>に創り出した<渦>。それが、災淵世界とその住人たちの渇望を狂わせていた元凶だ」


 捕食行為が止まり、災淵世界が離れ始めた以上、戻らなければ、ハイフォリアに置き去りにされる危険性がある。

 まともな思考ならば、引き返すのが道理というものだ。


 だが、これまでの幻魔族たちに、そんな理性はなかった。

 <渇望の災淵>に生じた絡繰神の<渦>がイーヴェゼイノの秩序に影響を及ぼしていた。


 幻魔族たちの渇望を後押しし、彼らを獣にしていたのだ。

 ゆえに<渦>を世界から切り離したことで、正気を取り戻したのだろう。


「君たちの餌食霊杯への執着は小さくなったはずだ」


 災人イザークは彼方を見つめている。

 そのまま、彼は言った。


「……で? 争いをやめろってか?」


「災淵世界の民にも理性はあった。彼らがまだ争いを望んでいると思うかい?」


「は」


 レイの言葉を笑い飛ばし、イザークは言う。


「感謝はするぜ。うちのなわばりを荒らしやがった野郎がいるってのはわかった。だが」


 猛獣のような視線がレイに突き刺さる。


「端っからこれはオレの喧嘩だ。うちの連中がやんのかやんねえのかは関係ねえな」


 ナーガたち、アーツェノンの滅びの獅子は戦闘不能。幻魔族や幻獣たちも皆、災淵世界へ引き返してきている。


 だが、それでもなお、災人イザークの戦意は衰えない。

 その災爪を冷たく光らせ、レイに迫った。


「聖王は災淵世界を止める必要がなくなった。祝聖天主も無事だ。君一人で、聖剣世界すべてと戦うことになる」


 振るわれた災爪を、レイは<廻天虹刃>で受け止める。


「変わんねえな……」


 呟きとともに災人の蹴りがレイの土手っ腹にめり込み、体がくの字に曲がった。


「変わんねえ。<渦>が切り離されようと、オレの渇望はなにも変わりゃしねえ」

 

 言葉とともに、魔力が激しく噴出する。

 イーヴェゼイノの空域の温度が一気に下がった。


「やりてえことを、やりてえようにやる! それでくたばんなら上等だぜっ!」


 獰猛な獣の如く、災人はレイを追撃する。


「オルドフもこれを狙ってたんなら、傑作だな。うちの連中と違ってオレだけが、素でイカれてたって話じゃねえのっ!」


 界殺災爪ジズエンズベイズを、紙一重でかわし、レイは災人の背後を取った。振り下ろされた聖剣を、奴は<災牙氷掌ガルムンク>の腕で受け止める。


 白虹と冷気が魔力の粒子を散らし、激しく鬩ぎ合う。


「落胆してるのかい?」


「あ?」


 ぐっと霊神人剣が押し込まれれば、僅かに刃が食い込み、奴の腕に血が滲む。


「イザーク、君は……本当は変われればよかったと思ってたんじゃないかい?」


「しつけえ野郎だ」


 刃が腕に食い込むのを構わず、災人はそれを力尽くで振り払った。


 間髪入れず、災爪がレイを襲った。

 身を低くしてそれを避け、霊神人剣が奴の足下を斬りつける。


「君がおかしいとは思わない」


 両足から血を流しながらも、イザークは災爪を振り上げる。だが、レイの方が僅かに早く、奴の肩口に霊神人剣を振り下ろした。


「……ぐっ……!!」


 エヴァンスマナは肉を斬り裂き、骨に食い込む。断ち切られるより早く、災人が剣身をわしづかみにした。押し返そうとするが、白虹が煌めくその聖剣はびくともしない。


「たぶん、ハイフォリアもなにかを間違えているよ。僕たちは本当に正しい道を、真の虹路を見つけてみせる。だから、少しだけ時間が欲しい」


 牙を覗かせ、イザークは薄く笑った。


「わかってんだろ、ミリティアの不適合者。てめえが見つけたところで、なんの意味もねえぜ」


 空からは氷の結晶が降り注ぎ、魔法陣を描きながら、舞い降りてくる。蒼き氷晶が周囲に漂い、霊神人剣が凍り始めた。


 それは物体のみならず、魔力や時間、秩序、根源さえも凍らせ、万物余さず、あらゆる活動を停止させる深層大魔法――<氷獄災禍凛令終天凍土シヴィラ・エビオン・バルムアーデ>。

 

 今のレイでは耐えきれぬ。


「――月は昇らず、太陽は沈み、神なき国を春が照らす」


 空に響くは、背理の詠唱。

 イザークが視線を鋭くする。


 レイの腕にまで及んでいた凍結が、そこで止まった。


「<背理はいり六花りっか>リヴァイヘルオルタ」


 燃え盛る氷の大輪を背に、舞い降りてきたのアルカナだ。


 彼女はこの機会を待っていた。

 主神の権能を封じるその力にて、災人を止める機会を。


 リヴァイヘルオルタがこの場を背理の秩序で満たし、イザークの権能である<凍獄の災禍>が封じられる。同時にその力を利用する<氷獄災禍凛令終天凍土シヴィラ・エビオン・バルムアーデ>の発動が止まった。


 霊神人剣が白虹を放ち、レイの腕が凍結から解かれていく。


 だが――奴は怯まない。

 それよりも先にイザークは飛び出し、アルカナへ襲いかかっていた。


背理剣はいりけんリヴァインギルマ」


 燃える氷の花――春景立花しゅんけいりっかが集まり、彼女の手にリヴァインギルマが現れる。


「<災牙氷掌ガルムンク>」


 蒼き掌がアルカナの顔面を叩く。


「災人の子。この身は永久不滅の神体と化した」


「不滅だろうがこおんだろ」


 <災牙氷掌ガルムンク>の冷気が、一瞬にしてアルカナの全身を凍結させる。だが、表面だけだ。すぐさま、その氷は砕け散った。


 しかし、その一瞬の間に、すでにイザークは燃え盛る氷の大輪――<背理の六花>に迫っていた。


「<狂牙氷柱滅多刺ガーズ・ヴォイド>」


 包囲するように無数の魔法陣が描かれ、蒼き氷柱つららが出現する。それらは一斉に発射され、<背理の六花>に牙を剥いた。


 神族に対しては無類の強さを誇る<背理の六花>だが、災人は半神半人。封じたのは主神としての権能のみだ。それを失ってなお、奴は遙か膨大な魔力を有す。


 氷柱という氷柱が突き刺さり、背理神の権能は氷の墓標と化していく。


「秩序は歪みて、背理する――」


 リヴァインギルマを鞘から抜き放ったアルカナが、災人へ迫る。


 白銀の剣閃が鋭く走った。


「――我は天に弓引くまつろわぬ神」


「は」


 交錯した両者。

 魔力の火花が散り、災人の<災牙氷掌ガルムンク>がアルカナの心臓を貫いていた。


 <背理の六花>が完全に凍結され、リヴァインギルマが消滅したのだ。


「オレが主神の力に頼ってるとでも?」


 アルカナを放り捨てるように、イザークが腕を無造作に振るう。


 彼女はゆっくりと落ちていく。

 そのとき一瞬、地上が光った。


 バルツァロンドの<氷縛波矢ガリッド>が風を切り、目にも止まらぬ速度で疾走した。


 災淵世界に起きた異変、不意を突いたアルカナ。二重の陽動を仕掛けてなお、しかし災人はその矢を寸前でかわした。


「見えてんぜ、オルドフの息子」


 <氷縛波矢ガリッド>を避け、イザークは災爪を振り下ろす。


 空間を引き裂く爪撃は、射撃後のバルツァロンドを容赦なく斬り裂き、大地を割る。


 夥しい鮮血が大地を血に染め、がくん、と彼は膝を突く。


「……見えたのは一本だけだ、災人……」


 血だまりの中に崩れ落ちながら、しかしバルツァロンドは笑みをたたえる。


天地命弓てんちめいきゅう、秘奥が壱――」


 バルツァロンドが同時に放った矢は合計四本。


 災人が避けたことで、ちょうど奴はその四つの矢の内側に移動している。


「――<風月ふうげつ>ッ!!」


 四本の矢がそれぞれ魔法線をつなげ、三角錐の結界を構築する。<氷縛波矢ガリッド>の魔力が解き放たれ、結界内が凍りついた。


 イザークの動きが一瞬止まる。


 凍結の魔法を得意とするイザークを、僅かとはいえ足止めするほどの氷結結界。バルツァロンドは宣言通り、災人の動きを奪ったのだ。


「レイッ!!」


 バルツァロンドが叫ぶ。

 承知の上とばかりに、レイはエヴァンスマナを構えていた。


「霊神人剣、秘奥が――」


 レイの背後に浮かぶ三三本の虹刃がくるりと回転し、地上に刃を向ける。凍りついたイザークへレイは真っ向から飛び込んだ。


 <氷縛波矢ガリッド>と<風月ふうげつ>による氷の結界に亀裂が走る。

 レイが霊神人剣を振り上げれば、虹刃が目映く輝いた。


 一閃。


 災人の胸がぱっくりと斬り裂かれ、その体に三三本の虹刃が突き刺さる。その一本一本に含まれているのは、<廻天虹刃>にて斬り裂いた祝聖天主と災人の魔力だ。


 虹刃が明滅し、溜めた力を一気に解放する。


「――<廻天虹刃かいてんこうはてん>ッッ!!」


 三三本の刃から虹の輝きが発せられ、天を丸々覆うほどの大爆発を引き起こす。


 虹刃に変えることで吸収した魔力に、自らの力を上乗せして敵を斬り裂く<廻天虹刃・転>。自力に勝る相手に打ち勝つための、それはまさに廻天の一撃であった。


 レイは静かに息を吐く。


 その瞬間、彼は目を見開いた。

 爆煙の中からぬっと腕が伸びてきた。


「……ぐっ……ぁ……っ!」


 災人の指先が、レイの腹を貫いていた。


「惜しかったな」


 聖ハイフォリアの祝福、界殺災爪ジズエンズベイズ。その魔力を溜めた虹刃三三本をまともに受けてなお、災人イザークを止まらぬ。


 滅びなど知らぬとばかりに、全身からは蒼き冷気が溢れ出す。

 災淵世界の空に悠々と君臨するその姿は、まさに不可侵領海と呼ぶに相応しい。


「根源が七つあるたあ驚いたが、残りは一つだ。てめえは死ぬぜ」


 災人の手が、体内にあるレイの根源をつかんだ。


 レイは動きを見せず、さりとてなにも言わず、ただイザークを見返している。


 その瞳には、怯えや恐怖など微塵も感じられない。


「……気に入らねえな」


 すぐにとどめを刺そうとはせず、奴は言った。


「まだなにか手があんのか?」


「……聞きたいかい?」


 数秒の沈黙の後、災人は口を開く。


「いや――」


「変えてみせるよ、ハイフォリアを」


 根源を潰そうとした災人の手が、ピタリと止まった。


「外から大層なご高説を垂れたところで、ハイフォリアは変わらねえ。端っから虹路が見えねえんなら、奴らも正義に狂いやしなかった。てめえに――」


 災人の目の前に光が走った。


 レイの体から立ち上るそれは、確かに虹路である。災人が言葉を失う中、虹路はある魔法陣を描く。


 <契約ゼクト>の魔法陣を。


 そこに記述された契約内容は――


「僕が聖王になる」


 イザークが目を丸くする。

 レイの言葉に、初めて明確な驚きを見せたのだ。


「くく……くっくっくっく……なにを寝ぼけてやがる。てめえが? ミリティアの不適合者が、ハイフォリアの聖王になれると思ってんのか?」


「聖剣世界では、霊神人剣を抜いた者にその資格があるはずだよ」


 興味深そうに奴はレイを見つめ、そして問うた。


「わからねえな。なにがてめえを駆り立ててんだ?」


「大した理由はないよ。ただ、約束したんだ。先王オルドフと、彼の息子と」


 レイはいつものように爽やかな笑みを見せる。


「約束は守らなきゃね」


 くく、と再び微かな笑声がこぼれた。

 それはどことなく、先程よりも穏やかな響きだ。


 そうして、奴は天を仰ぐ。

 彼方を見つめ、イザークは静かに口を開いた。


「……ちょうど三日か。てめえらの言う通り、あの野郎は来なかった……」


 牙を覗かせ、イザークは笑う。


「だが、確かに寄越しやがったぜ。代わりの大馬鹿野郎をな」


 レイの胸から腕を抜き、イザークは血を払う。


一月ひとつき待ってやる。できなきゃ、てめえは終わりだ」


「構わないよ」


 イザークは<契約ゼクト>を書き換え、レイはそれに調印した。


 奴は身を翻し、ゆっくりと飛んでいく。


「ナーガ。生きてんだろ?」


 災人が呼ぶと、魔法陣が描かれ、そこにナーガが転移してきた。


「他の連中に伝えな。喧嘩は仕舞いだ」


「それには賛成だけれど、ボボンガとコーストリアが捕縛されたままよ」


 災人が舌打ちする。


よええ」


「どうするの?」


「しち面倒くせえ。っとけ」


「……ちょっと、災人さんっ!」


 去っていく災人を、ナーガが追いかけていく。


 コーストリアとボボンガを滅ぼせば、再びイーヴェゼイノとの戦争になる。ミリティアもいる以上、ハイフォリアとて下手な扱いはできぬと踏んだのだろう。


 もっとも、面倒だというのも嘘ではあるまい。


「イザーク」


 レイの言葉に、災人が振り向く。


「オルドフは僕たちの世界にいる。君を、待っていると思う」


「はっ」


 イザークは軽く笑い飛ばした。


「大馬鹿野郎が」


 そのまま振り返らず、彼は去っていく。


 境界線の地割れがますます広がり、イーヴェゼイノとハイフォリアは少しずつ離れていった。



一つの大きな約束を残し、災淵世界との戦いは幕を閉じる――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 災人は狂うことなく狂っていた(狂暴だった)! [気になる点] 災淵世界は仕込まれていた。となれば、それと対を為す聖剣世界にも細工が施されていたとしてもおかしくはない。 ミリティア世界では自…
[良い点] アルカナの出番があったこと。 アルドフの意思を受け継いだ大馬鹿野郎が世界を変える・・・! [気になる点] 秋先生のアニメ3話の見どころですが「ダンジョン試験中のアノスにつっこみ♂たくて仕方…
[良い点] 勇者お前魔王軍から聖王にクラスチェンジしちゃうの? もう他の世界も魔王の配下たちが王になって、さすまおしちゃおうぜ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ