表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
597/726

宮殿潜入


 ガルンゼスト狩猟宮殿。船着き場。


 魔王列車機関室にて、ミサ、サーシャ、ミーシャは外の様子を窺っていた。


「見張りの数は、合計七名。宮殿への入り口は転移魔法陣のみ。ぜんぶで四カ所」


 船着き場の警備をミーシャは神眼で把握していく。


「宮殿の窓はすべて閉ざされ、結界が張られている」


「霧化しても、窓からは入れそうにありませんわね」


 優雅に髪をかき上げながら、ミサが言う。


「でも、<深悪戯神隠ティテジェーヌ>で見張りの魔眼は誤魔化せたとしても、勝手に転移の固定魔法陣が起動したら、一発でバレるわ」


 そう口にして、サーシャが考え込む。


 入り口が固定魔法陣のみなのは、姿を消す者への対策なのだろう。


 魔眼で捉えられぬほどの隠蔽魔法だろうと、通る場所が決まっていれば侵入を察知できる。


「見張りは交代いたしませんの?」


「誰かが転移魔法陣を使うときに一緒に転移するってこと? そこまで近づいたら、さすがに<深悪戯神隠ティテジェーヌ>でも危なくないかしら?」


 深層世界だ。

 その警戒はしておくべきだろう。


「いざとなれば力尽くで黙らせますわ」


「ミサって真体になるとアノスっぽいこと言うわよね……」


 サーシャが呆れたような視線を送る。


「黙らせた後はどうするのかしら?」


「意識のない人体は人形と同じ。<思念平行憑依リクスネス>で操れますわ」


「それ、最終的には気がつかれない?」


「ですから、それまでに先王オルドフの手がかりを見つけますの」


 困ったようにサーシャは頭に手をやる。


「後でハイフォリアになに言われるかわからないわ」


「オルドフの手がかりが最優先というお達しですもの。聖上六学院の領地で事をなすのですから、ある程度はアノス様も大目に見てくださいますわ」


「それはそうかもしれないけど、もうちょっと安全策ってないの?」


 すると、ミサはミーシャを振り向く。


「魔王列車にはエクエス、メイティレンの反魔法が備わっている。船を取り調べる術式、狩猟貴族の魔眼でも、内部は完全に見通せない」


 ミーシャは淡々と説明し、歩き出した。


 とことこと機関室から別車両へ進んでいく彼女の後を、サーシャとミサが追いかける。


 やがて、砲塔室にやってきた。


 休憩していたファンユニオンの少女たちが立ち上がる。


「勝手に開いたよっ!?」


「どういうことっ!?」


 魔法を制御し、ミサたちは姿を現した。


「あ、ミーシャちゃんたちだ」

 

「そっか。<深悪戯神隠ティテジェーヌ>!」


 こくりとうなずき、ミーシャは言う。


「休んでて」


 ミーシャは数歩を進み、立ち止まった。

 彼女は床に視線を向ける。


「外からはここが一番の死角」


 ミーシャの瞳に白銀の月が浮かぶ。


 源創の神眼である。その視線が床を優しく照らし、扉に創り変えた。


 ミーシャは手を伸ばし、床扉を開く。


 その向こう側にあるのは、船着き場の床だ。


「……床にも結界が張ってありますわね……」


 魔眼を向けながら、ミサが言う。


「結界と床に穴を空ける。気がつかれないくらい小さな穴」


 ミーシャがサーシャに目配せする。


「やってみるわ」


 サーシャが<破滅の魔眼>を浮かべ、じっと結界を見据える。

 

 針の穴を通すように魔眼を制御し、結界に極小の穴を穿っていく。


 同時にミーシャは<源創の神眼>を使い、結界に空いた極小の穴へ視線を通した。


 屋上の床が創り変えられていき、じわじわと小さな穴が空き始める。


「気がつかれてはいませんわ」


 ミサは外の見張りたちに視線を配っている。


 ミーシャとサーシャは穴を穿つのに全神経を集中させていた。力が強すぎれば気取られるが、逆に弱すぎれば穴が空かない。魔眼の方向が僅かでもズレれば、死角から脱し、やはり気がつかれてしまうだろう。


 瞬きをすることなく、二人は魔眼と神眼を働かせ続ける。


 そして、数分後――


「空いた」


 ほっと胸を撫で下ろし、二人は魔眼と神眼を消した。


「エレン」


 ミーシャが呼ぶと、エレンが駆け寄ってきた。


「ここから戻ってくるから」


「うんっ、了解! 魔王列車をここから動かさないようにすればいいんだよね?」


「お願い」


「任せてっ! みんなで頑張るからっ!」 


 ファンユニオンの少女たちが笑顔を浮かべる。


「では、参りますわ」


 ミサが言い、三人の体が霧化した。

 その霧は、先程空けた床の穴へすうっと吸い込まれていき、みるみる下降する。


 屋上から最上階の天井を抜け、彼女たちはガルンゼスト狩猟宮殿の内部に侵入を果たした。


 ゆっくりと三人は床に足をつく。


『どこから調べますの?』


 ミサが<思念通信リークス>を使う。


『外界通信には魔法具が必要だと思う』


『外界通信の魔法って今のところ誰も使ってないものね。小世界に出入りするのも普通の船じゃ無理みたいだし、たぶん主神の力を宿してなきゃだめなんだわ』


 ミーシャとサーシャが言った。

 主神の力を宿した魔法具、それが外界通信ができる条件だろう。


『先王との通信を隠してるなら、部外者が立ち入らない場所が有力』


『じゃ、それを探しましょ』


 三人は罠や探知魔法を警戒しつつ、慎重に宮殿内を進んだ。


 来賓のエリアからは遠ざかり、武器や魔法具、戦闘用の固定魔法陣の魔力を追っていく。


 ある通路に差し掛かり、ミーシャが足を止めた。


 振り向いた先にあるのは、行き止まりである。


『建物の構造からすると、この先はなにもありませんわ』


『奥に魔力が見えた』


 サーシャとミサが目配せする。


『行ってみましょ』


 ミーシャがうなずく。


 先程と同じ要領で、<破滅の魔眼>と<源創の神眼>にて、壁と結界に小さな穴を空けた。

 三人は霧化して壁の向こうへ入っていく。


 ミサが言った通り、建物の構造から考えたなら、抜けた先にあるのは空だろう。


 だが、辿り着いたのは部屋の中だった。

 窓がいくつも並んでいるが、外は暗闇だ。


 星明かりも見えぬということは、魔法でなんらかの処置がされている。


 部屋の中央には、大きな舵がある。操舵室なのだろう。


『船の中……よね?』


 サーシャの問いに、こくりとミーシャはうなずいた。


『外界通信の魔法具があるかもしれない』


 船は小世界の外へ出るためのものだ。狩猟義塾院のものならば、主神が祝福した外界通信の設備があっても不思議はない。


 ミーシャ、サーシャ、ミサは、操舵室に通信用の魔法具がないか調べていく。


 数分が経過した。


『……ありませんわね……』


『そうね……』


 ミサとサーシャが、ミーシャを振り向く。


 彼女はふるふると首を振った。

 ここには目当ての魔法具はなさそうだ。


『一応、他の部屋も探してみ――』


 サーシャが言いかけたそのとき、ミサは<深悪戯神隠ティテジェーヌ>を解除し、彼女の体をつかんだ。


 壁から聖剣が突き出され、サーシャの鼻先ぎりぎりを通りすぎた。


 <深悪戯神隠ティテジェーヌ>に気がついたということは、視覚で捉えたわけではない。ミサが咄嗟に手を引かなければ、当たっていただろう。


『こっち』


 ミーシャが別室へ移動する。 

 二人もすぐさま後を追った。


 隣室で息を潜めていると、操舵室の壁をすり抜けて、一人の男が姿を現す。


 狩猟貴族だ。


 耳に剣状のピアスをし、聖剣を持っている。

 男はざっと操舵室を見回すと、声を張り上げた。


「おれは男爵レオウルフ! そこにいるのはわかっているぞ、曲者め。三つ数える内に姿を現し、正々堂々と名乗り上げろ。でなければ――」


 瞬間、レオウルフの聖剣がきらりと輝いたかと思うと、ミーシャたちが隠れている隣室

のドアが斬り落とされた。


「――貴様らの素っ首を斬り落とす」



勘づかれた三人。危機を脱せるか――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] 新たな噛ませ君の登場ですね。隠れて行動しているのですから正々堂々と出てくる訳無いのに……。 この男爵くんもアホの子ですね。 と言うか、聖剣世界には、ア…
[良い点] ミーシャってば、ほんと抜け目ない [気になる点] アノスだったから爵位持ちのバルツくんが相手でも噛ませっぽい展開になってたけど、他の子が相手にするとなると、どれほどの戦闘力になるか分からな…
[気になる点] 正々堂々って結局自己満足でしかないですよね。 ついでに、レオだかウルフだか分からない名前の方はそもそも自分の領域にいる時点で有利なのに、正々堂々とかよく分からないことを… 3人は『正々…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ