表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
550/726

計略


 ――誰の仕業だ?


 ドミニクを滅ぼす動機があったのは、彼の鎖につながれていたナーガら、アーツェノンの滅びの獅子。


 彼女たちの仕業だとすれば、恐らく銀水序列戦が始まる直前だろう。

 ドミニクの隙を窺っていた彼女らに、幸運にもその機会が訪れた。

 

 ありえぬ話ではない。


 だが、仮にそうだとすれば、二律僭主を無視してまで俺をイーヴェゼイノから追い払おうとしたのは少々不自然に思える。


 ドミニクに警戒されたくないからこそ、俺を奴に会わせたくなかったはずだ。


 そして、ナーガの計画では、ドミニクを滅ぼすまでにはまだ時間がかかる予定だった。


 侵入した二律僭主の対処をドミニクにやらせると発言したのも疑問が残る。


 ナーガが手にかけたのなら、彼女はドミニクは滅びたと知っている。

 二律僭主を放置することになるだろう。


 銀水序列戦を中断し、魔王学院とともに二律僭主の対処を行ったところでさして問題はなかったはずだ。


 つまり、ナーガたちはドミニクの死を知らぬ――だが、他に理由のある者がいるか?


 他にドミニクを滅ぼして、益がありそうなのはイーヴェゼイノの外から来た者たち。

 聖剣世界、傀儡世界の二者だ。


 だが、パリントンも軍師レコルも狩猟貴族も、まだこの最下層へは到達していない。

 バルツァロンドは魔王列車だ。


 動機はさておき、犯行が可能だったのは、俺たちが潜入する以前から、この幻獣機関の研究塔にいた者のみだろう。


 だとすれば、ナーガたち以外に、ドミニクの命を狙っていた幻魔族がいたのか?


「……いたぞっ! 袋のネズミだっ!!」


「お下がりください、所長っ! 侵入者は我々がっ!」


 足音を響かせ、わらわらと幻魔族の兵たちが入り口に集まってくる。


「のこのこやってきた愚か者めが。死ねいっ……!!」


「「<災炎魔弾ベズグム>!!!」」


 炎の弾丸が乱射される。

 軽く飛び退いてそれを避ければ、椅子に炎弾が直撃し、爆発した。


 ドミニクの体が吹っ飛び、ごろりと床を転がって、仰向けになる。


 その光景を見た幻魔族の兵士たちは、息を飲んだ。


「な…………」


「……あ…………ば…………な…………」


 歯の根の合わぬ音が響く。

 突きつけられた主の死に、皆、顔面を蒼白にした。


「……ドミニク……様……が……」


「そ、ん、な…………」


「…………あの男……知っているぞ……パブロヘタラの号外で見た……。確か、今回の銀水序列戦の相手じゃないかっ……?」


 すぐさま隊長らしき男が声を上げた。


「時間を稼げっ!! こうなっては我々だけでは手に負えんっ! ナーガ様に至急応援を頼むっ!!」

 

 数名の幻魔族が盾になるよう立ちはだかり、後ろに下がった男が<思念通信リークス>を使う。


 その魔法を、俺は<破滅の魔眼>にて睨みつけた。


「ナーガ様、応答をっ!? ナーガ様っ!?」


 <思念通信リークス>の術式は壊され、声はナーガに届かない。


「ちぃっ、奴の魔眼だっ。あれを封じろっ! 視界を遮ればいい!!」


 魔剣を抜き、幻魔族たちは<災炎魔弾ベズグム>を連射しながら、俺に向かってくる。


 <思念通信リークス>を<破滅の魔眼>で封殺し続けながら、俺は魔法陣を描いた。


「<覇弾炎魔熾重砲ドグダ・アズベダラ>」


 蒼き恒星が光の尾を引き、炎弾を飲み込んでは幻魔族たちに着弾する。

 瞬間、蒼き炎が轟々と立ち上った。


「「「が、ぐ、ぐおあああああああぁぁぁぁっっっ!!!」」」


「しばらく静かにしていろ」


 焼かれていく奴らを<獄炎鎖縛魔法陣ゾーラ・エ・ディプト>にて更に縛りつける。


「<永劫死殺闇棺ベヘリウス>」


 獄炎鎖の魔法陣より現れた闇の棺に幻魔族たちは閉じ込められた。ミリティア世界の魔法のため、永劫の死とはいかぬだろうが、時間稼ぎにはなる。


「パリントン。悪い報せだ。ドミニクが滅びていた」


 俺は<思念通信リークス>を送った。

 すぐに声が返ってくる。


『……確かであるか?』


「俺の目の前で滅び去った。ほぼ間違いあるまい」


 すると、即座にパリントンは言った。


『……まずい……! ドミニクがつけているパブロヘタラの校章を破壊するのだ……! 赤く染まる前にっ!!』


 素早くドミニクの遺体に視線をやる。

 パブロヘタラの校章をつけているが、それはすでに赤く染まっている。


「ふむ。手遅れのようだ。なにか問題か?」


「……聖上六学院の要人は特殊な校章をつけることとなっている。要人が滅びた場合に、その者と周囲の魔力を記録し、パブロヘタラへ送信するのである。これによって、その者が確かに滅びた証明としている」


 なるほど。

 周囲の魔力を記録するということは、だ。


「ドミニクが滅びたときに、俺がここにいた証明になったわけか」


『……左様である……。恐らくドミニクを滅ぼした者は、それを知っていてあえてとどめを刺さなかったのだ。本来、こういった事態を招かぬよう、校章の仕組みは、聖上六学院と裁定神以外には知らされていないのだが……』


「つまり、聖上六学院の中に犯人はいるということか」


『……そうなるだろう……』


 今、パリントンが俺に告げたように、他の者が校章の秘密を知っている可能性もあるにはあるが、いずれにしても聖上六学院と関わりの深い者だろう。


『イーヴェゼイノからパブロヘタラへは、界間かいかん通信となる。通常の<思念通信リークス>とは違い、銀泡を挟むために時間がかかる』


 世界の外へ移動するには特別な船が必要だ。

 同じく殆どの魔法の効力は小世界の外へは及ばない。


 <思念通信リークス>も、通常は外へは届けられぬ。


 魔王列車のように銀灯のレールをつないでいたとしても、魔法通信には遅れが生じる。それがないのだから、尚更だろう。


「どのぐらいだ?」


『約一時間である。それまでに、ドミニクを滅ぼした者を見つけなければ、アノス、お前に疑いがかけられるのは避けられまい』


 ただでさえフォールフォーラル滅亡について、容疑者扱いをされている状況だ。

 ドミニクの殺害現場にいたとなれば、疑いは更に増すだろう。


 ミリティア世界には聖上六学院の監視者がすでに立ち入っている。

 強行な調査を行い、民に危害を加えるならば、シンたちも黙ってはいない。


 下手を打てば、パブロヘタラとミリティアの戦争になるな。


 だが――


「懐胎の鳳凰が先だ」


『……ドミニクが滅した今、授肉させる手段はないのである……少なくとも一時間では、<渇望の災淵>のどこにいるのかさえ突き止めることは難しい……』


 幻獣は実体を持たぬ不定形の生物。

 捜し出すのはのは確かに困難だろうな。


「ドミニクが懐胎の鳳凰を研究していたなら、その成果はこの塔のどこかに残っているはずだ」


『ナーガなら多少は知っていよう。打ち明ければ、あるいは協力してもらえるかもしれないが……?』


 ドミニクが滅びたと知れば、彼女が俺をイーヴェゼイノから追い出す理由はなくなる。


 だが、本当にそうか?


「これがナーガの計略でないとは限らぬ」


『……なんのためにであるか?』


「さてな。だが、少なくともナーガにはドミニクを滅ぼす理由があった。そのついでに、俺をハメようと考えても不思議はない」


 ナーガに事情を打ち明ければ、俺が銀水序列戦を抜け出した言質を与えることになる。

 容疑をかけるにはそれだけで十分だ。


 俺をハメる理由はわからぬが、そもそも彼女のことをよく知らぬ。


 あるいはコーストリアが独断でこれを実行したか?

 

 それならば、ナーガが二律僭主を放置しているこの状況にも納得はいく。

 逆恨みに狂ったあの女ならば、ありえぬ話でもない。


 しかし、今度はそれが可能なのかという疑問が湧く。


『考えてばかりいる時間もないのである。一時間が経たずとも、銀水序列戦の決着がついてしまえば、私たちが抜け出したことが知れるであろう。二律僭主のこともある。奴に対抗するためにレブラハルドも来る』


「ふむ。それでいくか」


『……は?』


 パリントンから疑問の声が響く。


「ナーガかコーストリア、ボボンガ。この内のどの者か、あるいは全員が俺をハメようと企んだのであれば、この状況は承知しているはずだ。犯人の立場からすれば、もう銀水序列戦は負けてもよい」


 その方が早く決着がつき、俺を追い詰めることができる。

 勝たなくていいのだから、手の内を曝す必要もない。


「こちらから打って出れば、ボロを出すやもしれぬ」


『……手を抜いた者が犯人だと?』


「その可能性は高い」


 本来、ナーガたちは決して負けられぬはずだ。

 もしも手を抜くようなら、そいつは負けていいことを知っている。


『理屈はわかるが、賭けであるぞ? 確実な手段ではない上、奴らはボロを出さぬかもしれない』


「なに、そういうのを見抜くのが得意な奴がいてな。どんな者だろうと、負けていいと思えば心の隙は必ずできる。それを決して見逃しはせぬ。決してな」


 押し黙り、パリントンは数秒言葉を発しなかった。


『……では、見抜けるとしよう。だとしても、三人の内、誰も犯人でなければ、窮地に立たされるのは我々の方である』


「ナーガが敵でないとわかれば、懐胎の鳳凰のことを尋ねられる。お前も母さんを助けるのが優先だろう?」


『無論である』


 俺は蒼白き<森羅万掌イ・グネアス>の手で、工房にある棚という棚を開く。

 見つけた書物をすべてを取り出した。


 数千冊はあるか。

 幻獣のことが記された文献だ。宙に浮かせたまま、それらを開き、高速でページをめくりながら魔眼を凝らした。


 捜すのは懐胎の鳳凰の記述だ。


「どのみちリスクを負わねば始まらぬ。腹をくくれ」


 言いながら、<思念平行憑依リクスネス>にて、魔王列車にいる俺の人形を動かした――



序列戦の状況は――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ