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メッセージ


 控え室の前で待っていると、ドアが開き、レイが出てきた。


「よう」


 レイは俺とミサを交互に見た後、困ったように微笑んだ。


「アノスなら、見て見ぬふりをしてくれると思ったんだけどね」


「そうしようと思ったがな。どんな事情があるにせよ、お前が自分で俺に頼らぬと決めたことだ。わざわざ口を出すのは無粋というものだが、俺の配下はそういかぬようだ」


 ミサが俺の前に出て、レイに言った。


「レイさん。皇族派になにか言われたんですか?」


「そうだね。一生遊んで暮らせるお金をくれると言われたのかもしれないし、魔皇に推薦してくれると言われたのかもしれない」


「……あなたが、そんなことで動くような人には思えません」


 くすっとレイは笑う。


「買いかぶりだよ。気をつけた方がいい。世の中には聞こえのいい言葉ばかりを言うけど、やることはただのクズみたいな奴が沢山いるからね」


 煙に巻くようなレイの言葉に、ミサは納得できないといった顔をした。


「……知っています。でも、あなたは……レイさんは、そんな風に思えません……」


「会ったばかりで、そうそう人を信用するものじゃない」


 穏やかな笑みを携え、レイは言う。

 本音を口にするつもりはないということだろう。


 ミサはそれ以上追及できる言葉があるわけでもなく、悔しそうに唇を噛んだ。


「ログノース魔法医院はエリオ・ルードウェルが私費で建てた。つまり、皇族派の施設というわけだ」


「そうだね」


 笑みを崩さず、レイは答えた。


「母親は健勝か?」


「うん、この前言った通り大したことはないからね。すっかりよくなったよ」


「一度、会ってみたいものだな」


「もうすぐ退院できるからね。そうしたら、紹介するよ」


 ふむ。なるほどな。


「そういえば、組み合わせを見たところ、決勝戦で会えそうだな?」


「心おきなく戦えないのは残念だけどね」


 レイが俺の剣に視線をやる。


「なに、魔力は感じられぬかもしれないがな。これは真の名工が鍛えた剣だ。お前の魔剣に勝るとも劣らない力を持っている。存分に挑んでくるがいい」


 フッとレイは笑った。


「もういいかな?」


「ああ」


 レイが観客席の方へ向かおうと、こちらへ歩いてくる。


「レイさん、あの……」


「ごめんね。今の僕は皇族派だ。君とはもう仲良くできそうにない」


 すれ違い様にレイはそう言い、この場から去っていく。

 そうかと思うと、途中でぴたりと足を止めた。


「ああ、一つ忘れていたよ、アノス」


「なんだ?」


 背中越しに彼は言った。


「……僕は君を殺す」


 ニヤリと俺は笑い、言葉を返した。


「俺を殺したいなら、死を覚悟して挑むことだ」


「脅しになっていないよ。僕は元々、命がけだからね」


「ほう。なら、その覚悟、一つ試すとするか」


 言い終えた頃には俺の姿は消え、そしてレイの背後に迫っていた。


「見えているよ、アノス」


 くるりとコマのように周り、レイは魔剣イニーティオを振るう。

 左腕に反魔法と魔法障壁を展開するも、いとも容易くその術式を斬り裂かれ、弾けた魔力が霧散する。

 

 純白の刃が俺の左腕に食い込み、血が流れた。


「ふむ。俺の腕を斬るとはな。大したものだ」


「……腕ごと首を落とすつもりだったんだけどね……」


 レイは吐血する。俺の右腕が彼の胸に突き刺さっていた。

 

「こちらも心臓を握りつぶすつもりだったが、なかなか体も頑丈なようだな」


 その攻防を呆然と眺めていたミサが、慌てて叫んだ。


「あ、アノス様ッ、レイさんっ……! なにも、こんなところでやらなくても……!!」


 彼女は心配そうな表情を浮かべている。

 嫌でも決勝戦で戦うことになるのだと言いたげだな。


「なに、覚悟を確かめただけだ。相手が誰だろうと、俺は挑んでくる奴には容赦をしない。友だからと慈悲を期待しているようなら、ここで片付けてしまおうと思ってな」


「僕の方こそ、安心したよ。君が本気なら、躊躇いなく斬れるからね」


 俺が軽く見下してやると、レイは爽やかに微笑む。


「それじゃ」


「ああ、決勝戦でな」


 レイは観客席の方へ去っていった。


「アノス様……」


「どうやら首輪をつけられているようだな」


 ミサは目を丸くして、俺を見返した。


「直接触って確かめてみたが、体内になにか魔法具を埋め込まれているようだ」


「……確かめたって、今の、一瞬の間に、そんなことをされてたんですか……?」


「それが目的だったからな」


 体内に埋め込まれた魔法具は本人の魔力と同調して見抜きにくい。俺の魔眼なら、ある程度のものまでは眺めるだけでもわかるが、レイの体内にあったのは相当な代物だ。


「……でも、いつ魔法具が埋め込まれてるなんて、気がつかれたんですか……?」


「レイがヒントを送ってきただろう。元々、命がけだとな。俺を殺そうとする以前に命がかかっているという意味だと踏んだ。考えられるのは、魔法具かなにかで行動を制限されているということだ。俺に助けを求めるような真似をすれば、殺されるのだろうな」


 十中八九、レイは魔法具か魔法で監視されている。

 助けを求めようとすれば、監視者が体内に埋め込まれた魔法具を起動させ、レイを殺すと考えておいた方がいい。


「確かに命がけとは言ってましたけど、それだけで……?」


「その前に心おきなく戦えないとも言っていた。俺を殺すとわざわざ口にしたりもしたな。しかし、そもそも、あいつは涼しい顔して敵を斬るようなタイプだ。それがわざわざ挑発してくるのだから、なにか裏があると思ってな。奴の剣を受けとめたときも、ご丁寧に胸をがら空きにしていた。貫くフリをしてそこを探れという意味だ」


 結果、レイの体内には魔法具が埋め込まれていることがわかった。

 

 レイにとっても、ぎりぎりの駆け引きだったろうな。

 監視している奴に気がつかせずに、俺に気がついてもらう必要があった。


 しくじれば、命はなかっただろう。


「……驚きました……ただ仲違いをしただけにしか見えなかったのに……アノス様もレイさんも、すごいんですね……」


「なに、こういうことは昔もよくあっただけだ」


 二千年前はもっと手口がこんでいたがな。


「……皇族派の仕業でしょうか……?」


「そう考えるのが妥当だな」


 あるいはアヴォス・ディルヘヴィアの仕業か。


「レイさんの体内に魔法具を埋め込むなんて、相当な使い手じゃありませんか?」


 その可能性もないわけではない。


 しかし――


「レイの母親がかかわっているはずだ」


「さっき、魔法医院に入院してるって言ってましたね?」


「ああ。関係があるかと思って訊いてみたが、その答えだ。恐らく、俺になんとかして欲しいというメッセージだろう」


 母親を人質に取られ、魔法具を体に埋め込まれたと考えれば辻褄は合う。

 あの男がぎりぎりの状況で助けを求めてきたのだ。これに応じぬわけにはいくまい。


「お前はどうしたい?」


 そう問うと、言葉に怒気を込め、ミサは言った。


「こんなやり方で人の心を思い通りにしようとするなんて、絶対に許したくありません。皇族だからって、なにをしてもいいわけじゃないってことを見せつけてあげたいです」


「なら、一緒に来い。どこの誰だか知らんが、そいつらは俺の友人に手を出した。ただで済ませるつもりはない」


「はい」


 魔法医院へ向かおうとして、しかし、ふと思い出して足を止める。


「そういえば、二回戦が始まるか」


 確か、決勝戦以外はすべて今日中に行われるのだったな。


「ふむ。少々待っていてくれ。ひとまず、残りの雑魚を片付けてからにするとしよう」

二章もいよいよ物語がクライマックスに向けて動き始めます。


そして、私はまた明日から旅に出ます。仕事ですが。

その間の予約分はなんとか明日までに仕上げておきます。

ちょっとぎりぎりなのですが、いつも楽しみにしていてくださる皆様の顔を思い浮かべながら頑張りますね(誰の顔も知らない件について)。


感想は帰ってきてから返しますねー。


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