小世界の成り立ち
翌朝――
パブロヘタラの宿舎にて、俺たちは制服に着替え、待っていた。
父さんと母さんには、アルカナが創造した魔法写真機と三脚、録画機を持たせ、記録係ということにした。二人は先程から、しきりに俺を撮影している。
オットルルーは一度顔を出し、一時間後に迎えに来ると言った。
もうまもなく刻限だ。
「そう焦るな」
落ちつかない様子で、ドアの前をウロウロしているサーシャに声をかける。
「お前たちを訪ねてきたギー・アンバレッドという男は、パブロヘタラに所属する魔弾世界の者に間違いあるまい」
「……母は生きている……?」
ミーシャが呟く。
「でなければ、誕生日の贈り物を選ばせたりはせぬ」
「でも、どうして?」
サーシャが問う。
次の創造神、我が子であるミリティアを創造して、エレネシアは滅んだはずだった。
「わからぬ。だが、ギーという男がエレネシアの生存を明かさなかったのは、都合が悪いことでもあるのだろう」
「……わたしたちが、エレネシアを取り戻しに来るとか?」
「さて、魔弾世界のことはおろか、このパブロヘタラのことすらろくに知らぬのではな」
「…………そうよね」
今は手がかりがなにもない。
二人とも待つしかないとわかっていただろう。
それでも、サーシャもミーシャも、母エレネシアのことが気になって仕方がなかったのだ。
と、そのとき、ノックの音がした。
「オットルルーです」
「入れ」
ドアが開き、裁定神オットルルーが姿を現す。
「準備はお済みですか?」
「ああ」
「ではこちらへ」
オットルルーに案内されながら、俺たちは宮殿内の通路を進んでいく。
やがて、四方を柱に囲まれた場所に辿り着いた。
中心に固定魔法陣が設けられている。
「魔法陣の上へ」
俺たちが全員魔法陣に乗ると、オットルルーは言った。
「浅層第一」
視界が一瞬真っ白に染まり、転移した。
目の前には、両開きの扉が現れている。
「ここがパブロヘタラの第一浅層講堂です。主に講義が行われます。どうぞお入りください」
彼女が扉を開け放つ。
講堂に入れば、中央に円形の教壇が見えた。
席は全方位に設けられており、教壇をぐるりと取り囲むように、椅子と机が整然と並べられている。
すでに制服を纏った生徒たちが着席している。
基本的には同じ学院の者同士で固まっているようだが、違う制服同士で並んでいるグループもあった。
「どうぞ、ミリティア世界の方の席はこちらです」
オットルルーが歩いていき、俺たちの席を指し示す。
「浅層講堂ということは、深層もあるのか?」
「中層講堂、深層講堂があります。この銀水聖海の小世界には深さが存在しますが、第一層から第一〇層を浅層世界、第一一層から第二〇層を中層世界、第二〇層以降を深層世界と分類しています」
バルツァロンドの部下が確か、ミリティア世界を第一層世界と言っていたか。
「どうやって分類している?」
そう問えば、オットルルーはその場からふわりと飛び上がり、教壇に着地した。
そこに設けられていた球形の黒板に、彼女は魔力を送る。
「世界の深さは、世界の秩序の強さ。その小世界が、銀水聖海に与える影響の大きさをさします。魔力は浅層から深層へ流れ、秩序は浅いところから深いところへ力を及ぼします」
球形黒板は魔法具なのだろう。それが透き通り、中に銀の泡が現れた。
五つの浅層世界と、一つの深層世界を模しているようだ。
「浅層世界に魔力が一〇、重さの秩序が一〇あるとしましょう。深層世界も同様です」
『浅層世界。魔力一〇、重さ一〇』
『深層世界。魔力一〇、重さ一〇』と書き足される。
「銀水聖海の秩序に従い、魔力は深層へ流れ、秩序は深い場所に力を及ぼします。浅層世界の魔力は一つ移動し、秩序の働きも一つ移動します」
魔力と重さが一つ引かれる。
『浅層世界。魔力九、重さ九』と書き換えられた。
「魔力と秩序は深層世界に与えられ、力に変わります」
五つの浅層世界からそれぞれ魔力と重さが一つずつ、合計魔力五、重さ五が移動し、深層世界が元々保有していた魔力と重さに足される。
深層世界では『魔力一五、重さ一五』となった。
「実際にはこう単純なことではありませんが、これが銀水聖海の基本的な秩序の原則です。数多の魔力を保有し、秩序が強く働く小世界は重く、深淵へと沈んでいく。よって深いとされています」
なるほど。
浅層世界の秩序や魔力が働く分だけ、この第七エレネシアはミリティア世界よりも頑強なわけか。
当然、そこで暮らす住人も相応に強くなる。
「小世界の秩序や保有する魔力量を余すことなく測定するのは問題も多く非効率なため、階層判定については、火露の保有量にて行います。保有する火露が多いほど、その小世界は深層に位置します」
位置するというのは場所の話ではなく、その世界の秩序の強さのことだ。
「有り体に言えば、深層世界は浅層世界から火露を奪っているというわけか?」
「その理解で構いませんが、火露は誰のものでもありません。それは銀水聖海にあまねく秩序。火露は海を渡り、様々な泡の中を旅していくものなのです」
エクエスは火露を奪っていた。
奪った火露を消費したと言っていたが、これがその答えか。
確かにミリティア世界単独で見れば消費されたとしか思えぬ。
あのときのエクエスは外の世界など知らなかった。
しかし、それは別の小世界へと渡っていたのだ。
「……ねえ……それじゃ、もしかして…………?」
隣でサーシャが呟く。
ミーシャが小声で言った。
「母の火露は、世界の外に」
二人の母、創造神エレネシアは滅びた。
ミリティア世界ではそうだ。
だが、その実、彼女の根源は火露となって世界を渡っていった。
そして、魔弾世界で再び創造神として生まれた。
「本日の講義まで、まだ時間があります。ミリティア世界の方々に、銀水聖海の秩序をもう少し説明しておきましょう。どうぞお座りください」
俺は近くの椅子を引き、座る。
他の者たちも着席した。
「深層世界は浅層世界から火露を奪う、とあなたは言いましたが、火露の移動は自然に起こることではありません。なぜなら、小世界においては世界主神がその秩序を保ち、火露が外へ漏れることがないようにしているためです」
オットルルーは、球形黒板に透明の泡を描く。
そこに『泡沫世界』と書いた。
「火露の移動が起こるのは主に泡沫世界です。銀水聖海に漂う無数の暗き泡沫を、我々はこのように呼んでいます。すべての世界は泡沫から始まる、と言われております。この海の深淵に位置する深層世界でさえ、始まりは一つの泡沫だったのです」
彼女は更に『未進化』と文字をつけ加えた。
「泡沫世界は未進化の小世界。この銀水聖海においては、生まれていない世界と言えます。なぜなら、泡沫世界には主神と元首がおりません。主神がいなければ、小世界の秩序を完全に制御することはできず、元首がいなければ小世界の住人たちは争い続けます。行く末は、想像に容易いでしょう」
ぱっと泡が弾けるように、描かれた泡沫世界は消えた。
「このように放っておけば消え去る海の泡、そのため泡沫と呼ばれております」
再び沢山の泡が現れ、泡沫世界を構築する。
「しかしながら、すべての泡沫が消え去るわけではありません。運良く生き延びた泡沫世界は、その内部である変化が起きているのです」
オットルルーは、『適合者の誕生』と書き記す。
「泡沫世界にも秩序があり、神族が存在します。彼らは世界を一つの方向へ導こうという世界意思の種を有しています。世界意思の種は目に見えず、明確な意識を持つものではありません。神族たちはこれに従い、各々漠然とした行動を取り、世界を正しき秩序に導こうとします。殆どの場合においては失敗となりますが、銀水聖海の祝福に恵まれた泡沫では、適合者が誕生します」
ミリティア世界では、さしづめ、エクエスの歯車が世界意思の種だったのだろう。
「適合者とは、生命の進化の行く末です。魔力と強さを兼ね備え、神族をも上回る力、世界をよりよい方向へ導く力を有します。適合者が増え続けることにより、小世界には更なる変化がもたらされます。それが、世界主神の誕生です」
オットルルーは淡々と説明を続ける。
「適合者の存在は、世界の火露を強化し、秩序に強い力をもたらします。神族が有する世界意思の種、そのうちのいずれかが芽吹き、世界の意思とも言うべき存在、世界主神が生まれるのです」
ミリティア世界とは少々違うな。
グラハムがやったのは、バラバラに散らばっていた世界意思の種を集め、強引に一つに結合させて、それが意思をもつか、という実験だった。
実際、それはエクエスという歯車の集合神と化した。
世界意思の種と呼称しているが、一つに集めて動くのなら欠片といった方がより自然だ。
泡沫世界でそんなことをした例は他になく、知らぬのかもしれぬが。
「世界主神の誕生により、小世界は大きく変わります。主神は、小世界を治めるに相応しい元首を選びます。この候補となるのが、適合者たちです」
「元首の適合者という意味か?」
「元首の適合者であり、進化した世界の適合者です。主神は、自らの世界に相応しい者を、その秩序によって嗅ぎ分けるのです」
ホロの子、ヴェイドは元首の候補者だったわけか。
ミリティア世界では俺が滅びを止めていたため、新しい生命が誕生しなかった。
ゆえに、適合者が誕生しなかったのだ。
それでエクエスは自らの力で無理矢理、適合者を誕生させた。
「主神は適合者の中から、世界の王を一人選びます。これにより元首が誕生し、泡沫世界は銀泡へと進化します」
秩序の整合を取るための世界転生が、銀泡への進化と同じ結果だったというのは、ほぼ間違いなさそうだな。
「それ以外に進化の方法は?」
「ありません。すべての小世界が、この進化の過程を辿ります。銀水聖海の秩序に導かれるように」
俺の問いに、オットルルーは即答した。
ミリティア世界は例外のようだな。
主神と元首がなくとも進化が可能だということを、パブロヘタラの連中は知らぬのだ。
「一方で、進化しない泡沫世界からは火露が放出され続けます。この受け皿となるのが、進化を終えた小世界なのです。魔力は浅きから深きへ、火露も浅きから深きへ流れていきます」
これは予想通りだな。
世界転生前のミリティア世界からは、火露が他の世界へ渡っている。
エレネシアや、もしかすれば――
ミッドヘイズを見渡すあの丘に眠った、我が配下たちも、どこかで。
「泡沫世界から放出される火露は、小世界をより深層へ至らせるために、どの元首も欲するものです。火露は力です。それが多ければ多いほどに、強ければ強いほどに、世界は深化していきます」
なにが起こるか、想像に難くはない。
「火露を手に入れるため、銀水聖海では度々争いが起こります。これにより、小世界に著しい損害が出ることも珍しくありません。戦火に焼かれた両世界が、ともに消滅する事態も起こります。それを避けるべく、学院同盟に加盟する各世界の主神により作られたのがこのパブロヘタラです」
オットルルーは『銀水序列戦』と書き記した。
「パブロヘタラの領海内にて放出された火露は、一旦、学院同盟が回収します。パブロヘタラ内にて行われる各世界同士の力を比べ合う学院別の序列戦――銀水序列戦の勝者に、その火露が分け与えられるのです」
火露を奪い合うがために争いが激化し、小世界そのものが滅びてしまえば、誰にも益はない。
条約を結び、平和的な方法で火露を分け合うようにしたのが、銀水序列戦だろう。
つまりは代理戦争だ。
確か、ロンクルスもそのようなことを言っていたな。
「パブロヘタラの理念は、この銀水聖海の凪、つまり平和です」
平和、か。
それが本当なら、いいのだがな。
「火露が失われれば、泡沫世界では命が失われる。転生する予定だった住人が、別の世界に生まれ変わることになるのではないか?」
「その通りです、元首アノス」
なんでもないことのようにオットルルーは言う。
「なぜ火露を戻してやらぬ? 彼らにも彼らの人生があるだろう」
「どういうことでしょう? 彼らの人生は、死したそのときに終わっているのです。新たな生を、新たな世界で始めるだけのことです。それは原初が同じなだけの別人です」
「<転生>の魔法を使っていたらどうなる?」
オットルルーは首を捻った。
「申し訳ございませんが、その魔法は存じません。学院同盟に加盟している世界には存在しない魔法です」
<転生>がない?
二律僭主――ロンクルスが見せた魔法は、どれも明らかにミリティア世界より格が上だった。
ミリティア世界で最上級の根源魔法とはいえ、転生する魔法がないとは思えぬが?
「この術式だ」
俺は<転生>の魔法陣を描く。
だが、途端に術式が暴走し、爆発した。
「……ほう」
「元首アノス、今の<転生>という術式、反応を拝見する限り限定魔法です。ミリティア世界の秩序を余すことなく使い、初めて成立する魔法。ミリティア世界でなければ使用できません」
なるほど。
ロンクルスは、俺の世界で転生が一般的か、と聞いてきたな。
<融合転生>は通常の転生魔法と違い、記憶は失わぬ、と。
「転生時に記憶はどうなる?」
「残す手段はいくつかありますが、どれも根源へのリスクが大きいです。今の生を引き継ぐだけのことですから、真の意味の転生とは違います」
平たく言えば、ノーリスクで記憶を引き継ぐ転生が存在しない。
それゆえ、銀水聖海で転生とは、主に新たな生を意味するわけか。
俺たちとは、根本的な考え方が違うのだ。
「泡沫世界に火露を返すというのは、命を消す愚かな行為です。泡はやがて消え去るもの。その中へ、命を投じるのは、ようやく海へ辿り着いた魚を再び陸へ返すようなもの。あなたの世界の宗教とは違うかもしれませんが、それが銀海の理です」
俺を否定するでもなく、やんわりとオットルルーは言った。
「火露が世界を渡るのは、その命にとって、とても僥倖なことなのです。彼らがこの海に祝福された証なのですから」
泡沫世界が必ず滅びゆくのだとすれば、確かに一理あるがな。
「そもそも火露を返してやれば、泡沫世界は滅びぬのではないか?」
「それは――」
「なにをごちゃごちゃ言うておる。理解の鈍い元首め。これだから浅層世界の者は」
不躾な声が響く。
聞き覚えがあるな。
不動王カルティナスだったか? 昨夜、魔王列車にぶつかってきた奴だ。
「オットルルー。こんなマヌケに説明したところで、どのみち加盟条件を満たせん。時間の無駄というものぞ」
教壇に上がったのは、ちょび髭を生やした背の低い男だ。
豪奢な衣服には、泡と波の校章、それから城の校章がある。
「今日は、銀城世界バランディアスが元首、不動王カルティナス・イルベナの講義ぞ。魔力も頭も浅い盆暗は、せいぜい身を小さくし、大人しく口を噤め。それが、この銀海の礼儀だ」
「それで、オットルルー、その辺りはどうなっている?」
「貴様!!!」
カルティナスは激昂し、真っ赤な顔で俺を睨んだ。
俺を指さし、奴は言った。
「元首だから対等と思うてくれるなよ。朕は深層に座す、第二一層世界を総べる不動王ぞ。パブロヘタラに来たばかりの貴様は、浅層世界の住人だろうが。第何層だ? 言うてみい」
「多少世界が沈んでいたところで、お前の軽い頭では空まで飛んでいってしまうだろうに」
ますます顔を赤くした奴は、しかしすぐに思い直したように笑みを見せた。
「ははあ。さては貴様、まだ自分の世界の階層すら知らぬな。哀れなものよ。オットルルー、もう調べはついているな? 教えてやれ」
すると、オットルルーは言った。
「ミリティア世界が有する火露の保有量は、今朝測量が完了しました」
昨夜、来たばかりだというに、ご苦労なことだな。
「しかし、検出不可能な数値のため判定を保留中です。暫定的には、ミリティア世界の火露保有量は第〇層世界同等。僅かながら、未進化の可能性が存在します」
すると、これまであまりこちらに気を留めていなかった各学院の生徒たちが一斉にざわつき始めた。
「……どういうことだ?」
「ありえん。さすがに検出できないほどの数値というのは……?」
「ああ……火露が少なすぎる……」
「だが、だとすれば、どうやってここまできた? 未進化で銀海に出られるはずがない。単純に火露が少ないだけでは……?」
「しかし、第一層世界分も火露がなくて、どうやって進化したのか……? 普通ならそのまま滅び去るはずだが……」
ざわめく声を塗り潰すように、わっはっはっはっは、と大きな笑い声が響いた。
「第〇層世界だとぉ? ははは、わははははははっ!!」
カルティナスが嘲笑するように顔を歪め、腹を抱えた。
「なんだ、それは? パブロヘタラに長年身を置く朕とて聞いたことがないぞ。第〇層など、泡沫世界もいいところではないかっ!! 未進化の可能性があるなどと、お前を選んだ主神は、さぞ浅い神なのだろうな」
「アレができそこないなのは否定せぬが、選ばれた覚えはないな。つまらぬ秩序を押しつけてくるものでな。バラバラに分解し、便利な道具に変えてやった」
「選ばれた覚えがないぃ? なにをわけのわからぬ言い訳を」
「常識に囚われているからそうなる。お前にわかりやすく言えば、俺は不適合者だ」
カルティナスは一瞬きょとんとした。
そうして、また顔面を下劣に歪ませた。
「主神に選ばれていないどころか、あまつさえ不適合者と言われただと? わっはっはっはっ! のう、聞いたか、お前たち、こいつは傑作どころの話ではないぞ!」
大げさな身振りで、カルティナスは講堂にいる生徒たちに話しかける。
「不適合者の元首など前代未聞っ! 長生きはしてみるものよっ!! なあ、とんだできそこないの世界が、このパブロヘタラへやってきたものだ!!!」
各学院の生徒たちは、訝しげに俺に視線を向けている。
まるで珍獣を見るかのようだ。
「不動王の言うことも一理ある。私の世界では不適合者など生まれた試しがなかった」
「確か秩序に刃向かう連中のことでしたか? それなら我が主神が、何十人と滅ぼしたというのを耳にしたことがありますよ」
「逆に言えば、ミリティア世界の主神は、不適合者に従えられるほど弱いのでは?」
「僕の世界では、不適合者が多かったですが、全員この手で殺してやりましたよ。所詮、主神に選ばれる権利さえ持たない連中。適合者である我々には取る足らない存在です」
元首たちの口から、そんな言葉がこぼれた。
「わは、わははははは、どうだ? 段々と身の程がわかってきただろうて。のう? お前のような不適合者など、ここにいる元首たちは何人も軽くひねり潰しておる。無論、この朕とてな」
俺を威圧するように、カルティナスはニヤリと笑い、魔力を発した。
講堂の大気が震える。
「三秒待つ。ここに来て、平伏せよ。それが深層の元首に対する礼儀ぞ」
「ふむ。あまりこういうことは慣れていないのだが、銀海の礼儀ならば仕方あるまい」
俺はゆるりと立ち上がった。
すると、カルティナスは溜飲を下ろしたように、下卑た笑みを浮かべる。
「ふん。最初からそうすればいいものを。不適合者如きが粋がりおって。これに懲りたら二度とうごごぉっ――!!」
軽く蹴り投げた靴が、見事に奴の口の中に突き刺さっていた。
「どうした? 早く下がれ、下郎。魔力も頭も浅い盆暗は、身を小さくして大人しく口を噤むのが礼儀なのだろう?」
奴の髪が、怒りをあらわにするかのように逆立った。
郷に入っては郷に従え――
3月9日発売予定、魔王学院の不適合者4巻<上>のカバーイラストが完成しました。
↓にスクロールしていくと見られると思います。
発売まで一ヶ月を切りまして、予約も始まっている頃と思いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。