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最期の魔法


 ミッドヘイズの市街地に、聞き覚えのある曲が響き始める。


 家の中で身を小さくし、震えていた魔族の民たちは顔を上げ、その調べに耳をすました。

 何度も耳にしたその曲は、現ディルヘイドに君臨する唯一の王を称える賛美歌である。


 彼らは、戦いの終結が近づいていることを理解しただろう。

 緊張していた表情が、ふっと和らいだ。


『ナフタは宣告します。界門の閉塞を完了しました。大樹母海が消滅し、<思念通信リークス>の通常使用が可能となります』


 魔王学院前にて、レイはそれに応答する。


「了解。始めよう」


 熾死王、冥王、緋碑王が<思念通信リークス>の魔法陣を描き、戦局を他の部隊へ伝える。


 すると、ミッドヘイズ各地に次々と<思念通信リークス>の魔法陣が描かれ始めた。

 魔眼に見えてはっきりとわかるほど、その魔力が広がっていく。


 地上のディルヘイド、アゼシオン、アハルトヘルン。

 地底のジオルダル、アガハ、ガデイシオラ。


 ミッドヘイズに集った六国の強者たちの魔力にて、それぞれの国へ<思念通信リークス>の光がつながっていく。


『皆さん。聞こえますか? 魔王聖歌隊のエレンです』


 アゼシオンにいるエレンの声が、<思念通信リークス>を通して世界中に届けられた。


 厳粛に、丁寧に、彼女は人々に語りかける。


『今、あたしたちの国、ディルヘイドは空に浮かぶ歯車の化け物、エクエスに襲われています。<終滅の日蝕>があたしたちの国を、世界を灼き滅ぼそうとしています』


 <遠隔透視リムネト>の魔法も使われ、地上の空と、魔王聖歌隊の姿が映し出される。


『<全能なる煌輝>を名乗るエクエスは、それが秩序だと言います。二千年前、ディルヘイドの魔王は長きに渡って続いた大戦を終わらせました。世界に平和が訪れ、人々が戦いで命を落とすことはなくなりました』


 後ろに響く優しげな曲とともに、エレンは語る。


『エクエスが言うには、その代償が今回の戦いだそうです。滅びと創造はできる限り等しく、そして世界は少しずつ滅びに向かわなければならない。二千年間、人間が、魔族が、竜人が、精霊が、滅ぶはずのものが滅ばなかった分だけ、今日、ここで滅ばなければならない……』


 その声が震えた。

 言葉を発する度に、抑えた彼女の感情があらわになっていく。


『そんな、馬鹿な話ってありますかっ? この世界では戦いがずっと続かなければならないなんて、そんな理不尽な話がありますかっ?』


 神々の蒼穹で知ったことを、エンネスオーネがエレンに伝えたのだろう。

 それを今度はエレンが、世界中に伝えていた。


『神の軍勢が地上にも地底にも侵攻してきて、多くの国が、多くの街が戦火に飲まれました』


 悲哀をたたえながら、静かにエレンは口を開く。


『大切な人が傷つき、友達が倒れ、亡くなった人も少なくありません。これが、こんなひどいことが、これからもずっと続くって、それがこの世界の秩序だって、あの化け物は言ってるんです!』


 彼女はすうっと息を吸い込む。

 強い視線を前へ投げかけた。


『あたしたちの魔王は、神界でエクエスと戦っています。この世界の秩序こそ、この理不尽の方こそ、滅ぼすべき存在だと確信し、暴虐の魔王は決して引くことはないでしょう』


 レイは、自らを中心に魔法陣を描く。

 <想司総愛ラー・センシア>の術式だ。


『魔王はいつも、沢山のものを守ってきました。二千年前、平和を築き、この魔法の時代に転生した彼は、アゼシオンとディルヘイドの戦争を止め、両国を守りました。大精霊レノと彼女の娘を救い、アハルトヘルンを守りました。地底では、ジオルダル、アガハ、ガデイシオラの争いを止め、天蓋の落下から、竜人たちを守りました』


 エレンの息づかいが、<思念通信リークス>を通して伝わる。

 彼女の想いが、世界を覆っていた。


『暴虐と呼ばれた魔王は今も、エクエスと戦いながらも、この世界を守っています。あの<終滅の日蝕>が、あたしたちを灼こうとしている。二千年前、世界を四つに分けた壁を使えば、魔王はその終滅の光からも、あたしたちを守ることができるかもしれません』


 必死に、切実に、エレンは世界へ語りかける。


「神の侵攻によって、その術式は破壊されましたが、きっと魔王にはそれを復元させることもできるはずです。二千年前と同じく、その命と今度はもっと多くのものを代償に払って……」


 彼女の決意が表情に表れる。

 胸を打つような声で、エレンは言った。


『今度はあたしたちが守る番ですっ! <想司総愛ラー・センシア>。みんなの想いが、世界中の想いが一つになれば、きっとあの日蝕は止められる。あたしたちの歌で、あたしたちの想いで、暴虐の魔王に見せてあげましょう』


 彼女は優しく、愛を込める。


『あなたが守り続けてきた世界は、こんなにも素晴らしいんだって』


 静かに、光が集い始める。


 まずはディルヘイドから、そして次にアゼシオン。アハルトヘルン、アガハ、ジオルダル、ガデイシオラと、世界中から、ゆっくりとその想いは集い始め、白き魔力の粒子となって、レイの周囲に輝いた。


『魔王賛美歌第九番――』


 エレンが曲のタイトルを口にしようとしたそのとき、激しいノイズが伴奏に混ざった。


 ミサが頭を押さえ、一瞬ふらつく。

 その体を抱きとめて、レイは彼女に反魔法を張った。


「……魔法に干渉されている…………」


 冥王イージェスが言い、その隻眼を光らせる。

 <思念通信リークス>から伝わる曲を乱され、それを耳にしたものの体が蝕まれているのだ。


 敵の神が、まだどこかに潜んでいる。

 瞬間、ゴオオオオオォォォォッと激しい火柱が市街地から上がった。


「……あの場所は…………!?」


 イージェスが血相を変え、駆け出した。

 レイがそれに続き、エールドメードは犬と化したギリシリスに乗った。


 高速で風景が流れていき、近づけば近づくほどノイズが激しさを増す。

 その音は魔力を伴い、呪いのように染み入っては、体を浸食する。


 そうして、イージェスが到着したその場所で、唱炎が上がっていた。


 炎に包まれているのは鍛冶鑑定屋『太陽の風』。

 ロォン、ロォン、と音を響かせ、そこに現れたのは、目に見えぬ音の神、福音神ドルディレッドだ。


「紅血魔槍、秘奥が弐――<次元閃じげんせん>」


 紅き槍閃が、唱炎を斬り裂き、次元の彼方へ吹き飛ばす。


 店舗は焼け、崩れ落ちているものの、<血界門けっかいもん>が作り出した次元結界があったため、かろうじて原型を保っている。


 イージェスが、ドルディレッドに魔槍を向けた。

 直後、彼は隻眼を険しくする。


 鍛冶鑑定屋を守っていた四つの<血界門>に、魔法文字が描かれていた。


 いつのまにか、門の隣に立っていたのは、ツギハギの服を纏った幼い男の子。

 握り締めた羽根ペンからは、<血界門>に描かれた魔法文字と同じ波長の魔力が発せられていた。


 狂乱神アガンゾン。

 その改竄の権能を発揮するが如く、四つの門が不自然に曲がり、次元結界が歪められた。


 そのぱっくりと斬り裂かれた空間の向こうから、獰猛な唸り声が聞こえる。

 家よりも遙かに巨大な漆黒の獣がそこに現れ、顎を大きく開いていた。 


「暴食神ガルヴァドリオン……!」


 イージェスが魔槍を突き出し、<次元衝じげんしょう>にて漆黒の獣に一〇の穴を穿つ。

 だが、アガンゾンが羽根ペンを振るえば、その穴がイージェスの目の前に転移し、彼を吸い込んでいく。


 神剣ロードユイエが飛んできて、<次元衝じげんしょう>を塞ぐ。

 一〇の剣が一〇の穴に吸い込まれ、事なきを得たかと思えば、けたたましい音が響いていた。


 食らっている。

 暴食神ガルヴァドリオンが、その巨大な口を開き、地面ごと抉りながら、鍛冶鑑定屋『太陽の風』を丸飲みしていくのだ。


「きゃあぁぁぁぁぁっ……!!!」


「――つかまれぇぇぇ、ルナァァッ!!!」


 母さんと父さんの声が響いた。

 それも束の間、その店は暴食神ガルヴァドリオンの腹に飲み込まれた。


 僅かに遅れて追いついてきたエールドメードとレイは、その三神に対峙する。


 奏でられる賛美歌の音を暴食神が食らい、福音神が新たな曲を奏でて不協和音を作り出す。

 更に狂乱神が改竄することで、<思念通信リークス>に不気味な曲が流れているのだ。


 ガルヴァドリオン、ドルディレッド、アガンゾン。

 三神とも屠らねば、<想司総愛ラー・センシア>は使えぬ。


 父さんと母さんを丸飲みしたのは、その腹の中で二人が生きているかもしれぬと思わせ、全力での攻撃を封じる算段だろう。


『すべては――』


 ぎちり、ぎちり、とアゼシオン上空の歯車が回る。

 遙か彼方から、ノイズ交じりの声が響き渡った。


『すべては秩序の歯車が回るが如く。汝らはこれで、<終滅の日蝕>に対抗するすべての手段を失った。サージエルドナーヴェの皆既日蝕まで、残り六〇秒。絶望に圧し潰されるがいい、世界の異物に与した愚かな人々よ』


 <終滅の日蝕>が刻一刻と進む。

 世界が闇に閉ざされていく中、レイ、イージェス、エールドメードは動いた。


 神剣ロードユイエが放たれ、紅血魔槍の秘奥が唸る。

 レイは尽きかけた魔力を振り絞り、<愛世界ラヴル・アスク>にて突っ込んだ。


 だが、間に合わない。


 音の神であるドルディレッド、事象を改竄するアガンゾン、万物を食らうガルヴァドリオンが時間稼ぎに徹すれば、不意をつきでもしない限り、僅か六〇秒で滅ぼすのは不可能だ。


 本調子ならいざしらず、熾死王も冥王も、レイもすでに消耗しきっている。

 残酷なまでに進んでいく時計の針に、さすがの三人にも焦燥のかげりが見えた。

 

「――見ているか、アノス」


 声とともに、細い紫電が一〇本、天に向かい、走っていった。

 耳を劈く雷鳴と、暴食神ガルヴァドリオンを覆いつくすほどの紫電が溢れる。


 天は轟き、地は震撼し、漆黒の獣の体が散り散りになっていく。

 引き裂かれたガルヴァドリオンの腹の中から、ボロボロになった家がこぼれ、地面に落ちる。


 次の瞬間、膨大な紫電が落雷し、ガルヴァドリオンを灰燼と化した。


 残ったのは万雷剣。

 落雷した膨大な紫電が、天の柱の如くその魔剣に帯電している。


 柄を握っているのは、母さんを抱き抱えた父さんだ。

 その外見はこの時代のものなれど、その魔力は確かに転生前のもの。


 セリス・ヴォルディゴードのものだった。


「見ているか、アノス。これは、二千年前の俺が贈る魔法」


 一歩、父が足を踏み出す。


「我が生涯、最後の<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>」


 グラハムに敗れた、あのときだ――


 最期にありったけの魔力を使い、父セリスは<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>を使った。


 直後に、グラハムに首を刎ねられ、魔法はなんの効果も及ばさなかった。


 だが、違う。

 <波身蓋然顕現ヴェネジアラ>は発動していたのだ。


 可能性となったセリスは、再び<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>を使った。その<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>のセリスも、<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>を使う。


 延々と<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>だけを使い続ける限り、可能性としてのセリスは消えることはない。無論、それでは外界になんの影響も及ぼすことはできない。


 ただ可能性として存在する。それだけだった。


 そうして、今日まで父は、可能性をつないできた。

 文字通り、亡霊となり、その魔法は二千年を生きてきた。


 もしも可能性の剣を振るったなら、たちまち消え去るだろう。

 たった一度のその機会を、彼は息子のために遺したのだ。


 即座に、冥王が動いた。


「ぬんっ!」


 紅血魔槍を突き出される。

 秘奥が壱、<次元衝>にてアガンゾンとドルディレッドに穴を穿つ。


 アガンゾンは改竄し、ドルディレッドは音となってすり抜けようとするも、滅紫に染まったセリスの魔眼がそれを妨げた。


 次元の穴に吸い込まれ、二名の神体は空に投げ出されるように転移していた。


「よくやった、一番ジェフ


 巨大な剣と化したその紫電が、アガンゾン、ドルディレッドめがけて振り下ろされる。


「<滅尽十紫電界雷剣ラヴィア・ネオルド・ガルヴァリィズェン>」

 

 空を引き裂くような雷鳴がどこまでも彼方へ響き渡り、滅びが神へと落雷する。

 ディルヘイドの空が紫に染まり、狂乱神も福音神も灰さえ残さず滅尽していく。


「二千年前――」


 滅びの魔法を放ちながら、父が言う。


「お前の母を、見殺しにした」


 紫電が収まる毎に、<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>が終わり始め、その魔力が消えていく。


「だが――」


 母さんをぐっと抱き抱えながら、セリス・ヴォルディゴードは言う。


「今度は守れた」


 紫に染まった空が、元に戻った。

 アガンゾンもドルディレッドもそこにいない。滅びたのだ。


「お前の母と父を。お前の帰るべきこの場所を」


 父は万雷剣を突き刺す。

 ふっとその体から力が抜けていく。


「俺は、守り通したぞ…………」


 倒れかけた二人をイージェスが支えた。


「……見ているか、アノス……?」


 最期の<波身蓋然顕現ヴェネジアラ>が消えていく。

 父の声が、消えていく。


「……お前は俺の息子だ。世界の意思などに、負けはしない……」


 今にもその魔法が終わろうとする中、最後に残った可能性を絞り出すように、父はイージェスの背中に手をやり、そして言った。


「……待っているぞ……アノ……ス…………お前を、この……家で」


 意識を失ったように、がっくりと父はうなだれた。

 二千年前のその声を聞くことは、もう永遠にないのだろう。


 僅か一瞬の出来事だった。


 それでも、最期の瞬間、鮮やかに時代を超えてきたその目映い紫電は、確かに俺のかけがえのないものを守っていった。


亡霊は去る、息子の勝利を確信しながら――



【祝! 書籍3巻・コミック1巻、発売(11月10日)! カウントダウン寸劇】



エレオノール   「――ところで、サーシャちゃん。

          アノス君のお父さんとお母さんにお願いする

          いい作戦ってあるのかな?」


サーシャ     「いいえ。でも、お父様もお母様もちょっと変だけど、優しいもの。

          誠心誠意頼めば、わたしの境遇を理解してくれるはずだわ」


エレオノール   「当たって砕けないことを祈りたいぞ……」


サーシャ     「しっ。なにか聞こえるわ。

          あそこ、アノスの家からよ」


エレオノール   「んー?」


イザベラ     「……あなた。これどういうことなの?」


サーシャ     「お母様の声だわ」


エレオノール   「どうしたのかな? 珍しく怒ってるみたいだぞ?」


グスタ      「いや、それは……すまん……」


イザベラ     「<魔王学院の不適合者アンヴィ・リ・ヴァーヴォ>の漫画版が20冊。

          これ、どうするの?」


エレオノール   「お父さんが20冊買ったみたいだぞ」


サーシャ     「さすがに買いすぎだわ。いくらなんでも普通3冊まででしょ」


エレオノール   「でも、それだけで怒るかな?」


サーシャ     「もしかして、お母様は漫画版に気に入らない表現があったとか?

          そう、そうだわ。あんな親バカ、他人様に見せられないもの。

          つまり、お母様の黒歴史……」


エレオノール   「ということは?」


サーシャ     「チャンスだわ。入るわよっ!

          お母様、<魔王学院の不適合者アンヴィ・リ・ヴァーヴォ>の漫画について、

          お話があるのっ。聞いて――」


イザベラ     「――足りないっ。わたしが買った分と合わせても200冊じゃ、全然足りないわっ!

          アノスちゃんの漫画なんだから、ご近所さんやお客様に

          配るのに、最低あと2000冊必要なの……!」


グスタ      「すまん……書店を駆け巡ったんだが……」


サーシャ     「…………」


エレオノール   「……わーお……いきなり当たって砕けたぞ……」


グスタ      「ん?」


イザベラ     「あ、サーシャちゃん、エレオノールちゃん、いらっしゃい。

          今日はどうしたのかな?」


グスタ      「今、<魔王学院の不適合者アンヴィ・リ・ヴァーヴォ>の漫画が

          なんとかって言ってなかったか?」


サーシャ     「そ、その……」


エレオノール   「サーシャちゃん、諦めた方が……」


サーシャ     「まっ、漫画版はわたしの黒歴史なのよっ!

          だから、どうにかしたいのっ。アノスにかけ合ってくれないかしらっ?」


イザベラ     「黒歴史……?」


グスタ      「……そうか? いや、可愛くかけてると思うぞ。大丈夫だ。自信持ちな」


サーシャ     「え、絵はいいんだけど、その発言が、ほら……。

          いきなり、アノスに突っかかってるし……」


イザベラ     「わかるっ! わかるわっ! サーシャちゃん、その気持ち!

          嫌な奴に見えちゃうって、気にしちゃうんでしょ?」


サーシャ     「え? あれ? ……そ、そう。そうなのっ? わかってくれるのっ?」


イザベラ     「もちろんよ。若い頃ってそうよね。大人になったら、なんでもないことに

          思えるけど、そのときは真剣だもの。

          そういう自分が許せなかったりするよね」


サーシャ     「……は、初めて理解された気がするわ……う……ぐす……」


イザベラ     「泣かないで、サーシャちゃん。大丈夫よ」


グスタ      「ああ、俺らに任せとけ」


サーシャ     「……ど、どうするの?」


イザベラ     「サーシャちゃんが登場したときの台詞を

          良い感じに変えちゃいましょ」


グスタ      「ああ、それがいい。最初はどんな台詞だったっけな?」


エレオノール   「えーと、『ごきげんよう。アノス・ヴォルディゴードだったかしら?』だぞ」


サーシャ     「そこは全然大丈――」


グスタ      「『ごきげんよう。アノス・ヴォルディゴード一目惚れだわ』に変更だな」


イザベラ     「うんうんっ! サーシャちゃんの気持ちがよく出てるっ!」


サーシャ     「え、な、え……えっ!?」


イザベラ     「わかる。わかるわ。サーシャちゃん。大丈夫、任せておいて。

          悪いようには絶対しないから」


グスタ      「次の台詞は?」


エレオノール   「『あなた、まだ班員が一人しかいないようね』だぞ……」


グスタ      「『あなた、見れば見るほどイケメンだわ。好き』ってところか?」


イザベラ     「きゃあぁぁぁぁぁっ、直球、サーシャちゃん、直球だわっ……!」


サーシャ     「ちょ、ちょ、ちょっと待って。ちょって待って」


イザベラ     「大丈夫よ。サーシャちゃん。アノスちゃんがあんまり格好いいから、

          話しかけたかったけど、あんまり素敵すぎて、つい憎まれ口が出ちゃったのよね。

          これじゃ、アノスちゃんに嫌われちゃうって不安なんでしょ?」


サーシャ     「馬鹿なのっ!」


イザベラ     「ふふっ、そうよ。みんな、そうなの。

          女の子は恋をすると、馬鹿になっちゃうの」


サーシャ     「ちがぁぁうっ、違うのぉぉっ。わたしが馬鹿って意味じゃなくてぇぇっ……!」


グスタ      「身悶えるほどの青春か、俺にもそんなときがあったけなぁ。ははっ。

          なあに、任せときな、お嬢ちゃん。次は?」


エレオノール   「えーと……『そんな出来損ないのお人形さんを班に入れるなんて、

          どうかしてるんじゃないかしら?』だぞ……』


グスタ      「『こ、こんな可愛い子が好きって言ってるんだから、

           つき合わないなんて、どうかしてるんじゃないかしら?』で決まりだ」


サーシャ     「いやあああぁぁぁぁぁっ、初対面でそんなこと言ったら、

          完全に頭おかしな女だわっ……!」


グスタ      「というと――?」


イザベラ     「語尾にハートをつけたいのかな?」


グスタ      「あぁっ、しまった! それかぁ……!」


サーシャ     「なっ、なしなしっ。やっぱりなしだわっ!

          そのままでいいからっ! うぅんっ、そのままがいいわっ!

          そのままがいいっ! そのままが最高だったわ!」


グスタ      「なあに、遠慮するな。アノスの説得は任せときな」


イザベラ     「キノコグラタンを食べてるときに言うのがコツよ?」


グスタ      「最後の台詞はやっぱりこれだな。『命もない。魂もない。意思もない。

          魔法で動くだけのガラクタ人形のように、ただあなたを愛しちゃうのわたし』

          どうよ?」


サーシャ     「あ……ぁ…………ポエ……ム……ぁぁ、ぁ…………」


エレオノール   「さ、サーシャちゃん、落ちつくんだぞっ。だ、大丈夫。

          まだそうと決まったわけじゃ――」


サーシャ     「いやあああああぁぁぁぁっ、完全に身の破滅の魔女だわぁぁぁぁぁっ……!」


エレオノール   「さ、サーシャちゃーーんっ」



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― 新着の感想 ―
可能性を、自らが敗北し命を断たれ根源を奪われるその刹那に、有るかどうかも分からぬ未来への一撃を託した異次元の愛。 2000年間まさしく可能性の亡霊となってすら繋いだ、父の、魂の大魔法。 それは確か…
[良い点] 口下手通り越したセリスが可能性だけ受け継いで本当に最後、家族を守る為に動くの好きですはい。 [気になる点] >「――つかまれぇぇぇ、ルナァァッ!!!」 今の名前はイザベラ。予想は出来る…
[一言] お父様かっこいい!
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