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魔王の裸


 授業終了の鐘が鳴り、俺は目を覚ました。


「それでは、今日の授業はこれで終わりです。また明日、サボらずにしっかり登校してくださいね」


 エミリアが教室を出ていき、生徒たちは一斉に帰り支度を始める。

 一つ前の先に座っていたレイが椅子にもたれかかるようにして、顔をこちらに向けた。


「なにか食べて行かない?」


「お前はいつも腹を空かせているな」


「効率悪い体なんだよね」


 俺は椅子を引き、立ち上がる。


「家に来るか? 班別対抗試験の祝勝会をする。母さんの手料理は最高だぞ」


「いいね。じゃ、ご馳走になろうかな」


 レイが体を起こし、立ち上がる。

 隣のサーシャが訝しげな表情を浮かべた。


「ねえ。つい午前中に、魔樹の森をあんな無残にするほどの死闘をしておいて、なんでそんなに和気藹々と話してるの? 大体、自分に勝った相手の祝勝会に参加するなんて、屈辱的じゃないのかしら?」


 俺とレイは顔を見合わせる。


「だそうだが?」


「あれだけ完敗したら、悔しさも感じないよね」


「よく言う。悔しさを感じないのは、次は勝てるつもりでいるからだろう」


 レイは笑顔を浮かべ、それを肯定する。まったく面白い男だ。


「まさかあれだけで俺の力を見極めたつもりじゃないだろうな?」


「同じ相手に二度負けたことはないんだよね」


「俺は一度たりとて負けたことはないがな」


 俺が高いところから見下すように視線をやれば、レイはそれに応じるかの如く爽やかに微笑む。


「……だから、なんでそんなに張り合ってるくせに、一緒に祝勝会なんてするのよ。わけがわからないわ」


 サーシャが心底不思議そうにぼやく。


「わけがわからないか?」


「女の子には難しい感覚なのかな?」


「ああ、なるほどな」


 納得したように俺たちは笑い合う。

 口に出さずとも、互いの思考や感覚がなんとなくわかる気がした。


 神話の時代の主従関係にも多少似たところはあったが、それとは違い対等だというのが、なんとも心地良い。


 これが男同士の友情というものか。

 なかなか悪くない。


「やきもち?」


 ミーシャがサーシャに言った。


「だから、違うわよっ。ミーシャはすぐそういうこと言うんだから」


「だめだった?」


「別にいいぞ。思ったことを言えばいい」


「こ、こらぁっ。なに勝手に答えてるのよっ! わたしに訊いたの、今のわたしへの質問っ!」


 なにをそんなにムキになっているのか。


「俺は言いたいときに言いたいことを言う」


 むー、と不服そうにサーシャが睨んでくる。俺はそれを軽く受け流した。

 

「まあ、行くか。腹が減って仕方がないって顔の奴がいる」


「僕のことなら、あと一○秒は我慢できるよ」


「限界ではないか」


 レイと二人で声を揃えて笑い合う。


「……なに二人だけで笑ってるのかしら……」


「……仲がいい……」


 なにやらサーシャとミーシャが呟いた。


「転移するぞ」


 俺が手を差し出すと、サーシャが手をつなぎ、サーシャの手をミーシャが取る。

 反対の手をレイに向けると、


「……ああ、ちょっと待ってもらってもいいかな?」


 なにかに気がついたようにレイはそう言うと、教室から出ようとしていた女子生徒に声をかけた。


「ミサさん」


 彼女は振り向き、数歩こちらへ歩いてくる。


「どうかしましたか?」


「これから、アノスの家で祝勝会をするらしいんだけど、一緒に来ないかい?」


「え……その、お誘いは嬉しいですが、班の皆さんだけの方がいいんじゃありません?」


 レイが意味ありげに俺の方を向く。

 情け深い男だな。それとも、ミサに興味でもあるのか?

 まあ、いいだろう。


「なにを言っている。お前はもう俺の配下だ」


「え……? で、ですが、サーシャさんとミーシャさんには完敗でしたし。レイさんの力を借りたのに……」


「勝敗はともかく、お前は見どころがある。魔族に精霊魔法は使えない。それもお前が使ったあれは水の大精霊リニヨンの得意とした魔法だ」


「……リニヨン、ですか……?」


「知らないのか?」


 ミサはうなずく。

 確か、母親は亡くなったと言っていたか。なにも知らずとも不思議はない。


「神話の時代に大精霊の森を守っていた精霊だ。恐らくお前は、そいつになんらかの縁がある。精霊の魔法というのは、その存在自体に深く関わりがあるものだからな」


 俺の言葉を、ミサは真剣に聞いていた。亡くなった母親に興味があるのだろう。


「お前が精霊として真の力を使えるようになれば、なかなか面白い」


 もっとも、神話の時代に半霊半魔はいなかった。

 ミサが精霊としての力を完全に使えるようになるのかは、まだわからないがな。


「……ありがとうございます……是非、配下に加えていただきたいのですが、その……」


「どうした?」


「……他の、アノス様のファンユニオンの子たちは……?」


 ああ、そういえば、そうだったな。


「とりあえずお前だけだ。あいつらが俺の班に来ると、うるさそうだ」


「あはは……ですかね……」


 ミサは浮かない表情を浮かべる。


「どうした? 自分一人だけ配下に加わるのが心苦しいか?」


「心苦しいと言いますか……反応が怖いと言いますか、下手したら闇討ちされたりしないかなーって……あはは……」


 ふむ。あいつらはちょっと頭がおかしいからな。


「で、でも、あたしの問題ですから。アノス様に気になさらないでください」


「そうしよう」


「早っ。血も涙もない反応だわ」


 サーシャがいらぬ茶々を入れてくる。


「あ、サーシャさん。そういえば……」


 ミサがこそこそと手招きするので、サーシャは彼女のもとへ寄っていった。


「なによ?」


「ふふふー、勝負はあたしの負けでしたから」


 魔法写真を取り出し、ミサはサーシャに渡した。

 それをしげしげと見つめた後、彼女は言う。


「……一応、もらっておくわ。戦利品として、一応……」


「どんな写真?」


「きゃあっ!」


 ミーシャがひょっこりと顔を出したのに驚き、サーシャが写真を床に落とす。


「ふむ。やれやれ、なにを騒いでいる」


 俺は落ちた写真を拾ってやる。


「だっ、だめっ! 見ちゃだめだわっ!!」


「なにをいったいそんなに慌てている。たかが写真でなにがどうなるわけでもないだろう」


 くるりと写真を表に返すと、映っていたのは黒髪で黒い瞳をした少年。半裸姿の俺である。授業で必要だったため、魔法で着替えた際の僅かな瞬間を捉えたものだ。


「……………………っ」


 サーシャは顔を真っ赤にし、身を縮めている。


「これ。隠し撮りなのに、アノスは魔法に気がついてるね」


 俺の後ろから写真を覗き、レイが言う。


「気がつかないわけがないだろう。何度も撮ってきたが、まあ、害がないようだから放っておいた」


 俺はサーシャに魔法写真を差し出す。


「なかなか可愛らしいことをするものだ。いつでも俺の姿が見たかったのか?」


 すると、サーシャは顔を上げ、キッと睨んできた。

 頬は朱に染まり、瞳には<破滅の魔眼>が浮かんでいる。


「う、自惚れないでくれるかしらっ! いい? わたしはね、男の裸が好きなのっ! たまたまあなたの体が好みだっただけよっ。体だけが目的なのよっ!!」


 ふむ。そうだったのか。さすがの俺も言葉に困るな。

 教室はシーンと静まり返っている。若干みんな引いている。


「わたしもアノスの裸が好き」


 まるで助け船を出すようにミーシャが言った。


「ミーシャ。あのな、サーシャにつき合わなくてもいいんだぞ」


 ふるふるとミーシャは首を横に振った。


「アノスの裸は芸術的。好き」


 じっとミーシャは俺の瞳を見つめてくる。


 やれやれ、健気なことだ。

 しかし、恥をかかせるわけにもいくまいか。


「まさか、この俺の裸がそこまで魅力的だったとはな。罪作りなことをした」


 俺はフッと笑い、言葉を漏らす。


「いいだろう。配下の望みを叶えるぐらいの度量は持っているぞ。サーシャ、そんなに見たいのなら、見せてやろう。写真ではなく、直にこの俺の裸をな!」


「えっ……? じ、直にって、えぇっ……! あ、あの……?」


 サーシャは戸惑ったような反応を見せる。


「どうした? 俺の体が目的なんだろう? 今日の褒美にくれてやろう」


「そ、そうだけど……そう言ったけどね……」


「なんだ、いらないのか?」


 サーシャは俯く。


「………………………………………………いる…………」


「よし。ならば――」


 俺は両拳をぐっと握る。それだけで全身の筋肉が躍動し、上半身の制服が吹っ飛んだ。


「見るがいい!」


「なんでここで脱いでるのっ! 馬鹿なのっ!!」


 調子を取り戻したようなサーシャの声が鋭く飛んだ。

 なかなかどうして、たまには道化を演じるのも悪くはないな。

新たなキャラも出たことですし、家に帰って、父さんと母さんに紹介しないといけませんね。




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ユーアーショック!?
[一言] 漫画版の「見るがいい」を全人類に見てほしい。
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